第2話 手紙

 優一はいつものように仕事を終えて、家に帰った。

 最寄の駅で電車を降り、アパートまで歩く。

 駅からアパートまでは最短距離を通れば10分ほどだ。

 だが優一は途中、コンビニに寄る。

 遠回りをすることになるので、15分ほど掛かった。

 コンビニでは夕食の弁当とビールを買う。

 学生の頃は節約のために自炊もした。

 しかし社会人になると、作る時間の方が勿体無いことに気づく。

 一人分の食事を作るのは、効率も悪かった。

 材料費を考えると、弁当を買う方が安上がりかもしれない。

 就職してから、自分で作ることはほとんどなくなった。

 弁当ばかりでは身体に悪いだろうという自覚はある。

 野菜が足りないだろうと感じることも少なくなかったが、優一は問題から目を背けた。

 解決は先送りにする。

 彼女を作れとか、結婚しろとか、周りからはいろいろ勧められた。

 しかし、そんな気持ちにもなれない。

 食生活の改善のために恋人を作ったり結婚したりするのは可笑しな話だ。

 そもそも女がいたら食事を作ってくれるなんて、いつの時代の幻想だと思う。

 今どきの女の子は、料理を作れることを自分の売りにはしていなかった。

 自分より料理が下手な女の子を、優一はたくさん知っている。

 食事は母親が作ってくれるものだと、思い込んでいる女の子は少なくない。

 何より、女の子と恋愛する面倒さを考えたら、コンビニの弁当の方を優一は選ぶ。

 結衣の一件で、優一は軽いトラウマを抱えていた。

 女の子はいろんな意味で怖い。

 もともと女に幻想は抱いていなかったが、結衣に裏切られ、なおさら女に向ける優一の眼差しは厳しくなった。

 信じることが出来ない。

 女は簡単に裏切る。

 告白されて付き合ったこともあるが、表面上はそれなりに付き合っても決して深いところには踏み込ませなかった。

 もちろん、そんな付き合いが上手くいくわけが無い。

 彼女とは長く続かなかった。

 だがそれでも人生どうにかなる。

 彼女が居なくても、日常生活に支障はなかった。

 誰だって、解決できない問題の一つや二つは抱えている。

 普通のことだと思った。

 優一は今の暮らしに、それなりに満足している。

 コンビニを出た優一は真っ直ぐアパートに向かった。

 アパートに着くと、1階の郵便受けを覗く。

 DMがたくさん入っていた。

 それにざっくり目を通し、いらないチラシをゴミ箱に捨てる。

 手紙か来ることなんてほとんどなかった。

 全てチラシなんて日も珍しくない。

 それでも郵便受けをマメに覗かないと、チラシで手紙が入らなくなるので放置することも出来なかった。

 習慣のように郵便受けを覗いて、空にする。

 今日もいつもと同じように、郵便受けを空にするために覗いた。

 しかし手紙が一つ、手元に残る。

「え?」

 優一は驚いた。

 封筒を裏返して、差出人を確かめる。

 田所健一

 そう書いてあった。

 それは父の名前だ。

「……」

 優一は複雑な顔をする。

 用事があったら、父は電話を寄こした。

 わざわざ手紙に書く用件が思い浮かばない。

 嫌な予感がした。

「見なかったことにしたい」

 優一はぼそっと呟く。

 なかったことに出来るならどんなにいいだろうと思った。

 優一は問題は避けて通りたいタイプだ。

 壁があったら、登らない。

 遠回りでも回り道を選ぶ。

 モンスターを倒すためにダンジョンに入るRPGなんて、意味がわからなかった。

 何でそんなことをしなければならないのか、理解できない。

 人生に波乱なんて必要ない。

 平凡で波風立たない人生が、一番いいと思った。

 だが、そんなに人生は甘くないらしい。

 とりあえず、優一は手紙を持って部屋に向かった。

 家でビールを飲みながら、コンビニの弁当を食べる。

 手紙はテーブルの端に置いた。

 それを横目で見ながら、食事をする。

 食事をしている間に、手紙が消えてなくなればいいのにと願った。

 だがそんなマジックのようなことが起こる訳がない。

 当然、手紙はいつまでもそこにあった。

「はあ……」

 優一はため息をつく。

 食事を終えると、仕方なく手を伸ばした。

 手紙を取る。

 ハサミを探して、開封した。

 中には写真が一枚だけ、入っている。

 手紙などはなかった。

 優一は写真を取り出す。

 何が写っているのか、見た。

 そこには三人の人物が写っている。

 父と大人になった結衣と結衣の父・裕二だ。

 三人とも幸せそうに笑っている。

「……」

 優一は眉をしかめた。

 胸騒ぎがする。

 写真の意味を考えた。

 裏返すと、何か書いてある。

 ”家族になりました”

 たった一言、書き添えてあった。

「えっ……」

 優一は大きな衝撃を受ける。

 だが心のどこかで、

(やっぱり)

 そう思う気持ちもあった。

 父と結衣の関係は続いていたのだろう。

 わかっていたはずなのに、落ち込んだ。

 だが、その写真に写っていた秘密は優一の想像をはるかに超えている。

 そのことに、優一はまだ気づいていなかった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます