第78話 カーズとの死闘、そして死神将軍現る

最初に動いたのはナナシであった。

周囲に4つ浮かぶ火の玉の一つを掴んでそのまま投げつけた!


「無駄だと言ったのが伝わらなかったのか?」


真っ直ぐに自らに向かって飛んでくる火の玉を一切動く事無く待ち受けるカーズ。

ネネのファイアーボールよりも小さい火の玉である以上同じ様に無力化されるのは目に見えていたからだ。

だが、ナナシの投げたファイアーボールはカーズの目の前で急降下した!


「通用しないというのならこういうのはどうだ!」


まるでぶれるような動きを見せながら突然下へ向かって落下したファイアーボール。

飛来物と言うのは速度が早ければ早いほどその弾道を予測しやすくなる。

だがそれが予想できない動きを見せた時、視界からその姿を消す。

蚊やハエを目で追っていると突然消えたように見失うのと同じ現象である。


「名付けてファイアーナックルボール!」

「ぐっ?!」


直後、カーズの足元に落下したファイアーボールは砂埃を大きく上げカーズの視界を潰す。

だが直ぐにカーズの周囲の砂埃は散った。


「一瞬驚かされたが甘いわ人間!」


指輪の一つが風を起こす球状の魔道具に変化し砂埃を散らした。

それを動く事無く眺めるナナシ、その手にはもう一つファイアーボールが握られている。


「くっくっくっ・・・無効化を解除して視界を回復させるつもりだったのかもしれんが、無駄な事だ。お前の唯一無二の攻撃手段とも言えるそれは解除する事は無い!」

「ちぇっ、でもまぁこれならどうだ!」


そう言って再びファイアーボールを投げつけるナナシ!

再びカーズの手前で下へ向かって落下して砂埃を上げる!

だが砂埃が上がる前にカーズはそれを球状の魔道具で散らした。


「無駄だと言ってるのが分からんか!」


そう言ってナナシへ向かって胸の肋骨を取り外して投げつけるカーズ。

二人の戦いはまるでキャッチボールをするかの様な光景であった。

だがその投げられた肋骨はナナシにとっては危険な攻撃の一つである。

最弱の名に相応しいほど貧弱な防御力しかないナナシは直撃を受ければそれだけで瀕死になる。


「おわっ?!」


飛びのくようにそれを回避するナナシであるが目を疑った。

投げられた肋骨がまるでブーメランの様に曲がりカーズの元へ帰っていったのだ。


「リサイクルって訳か?」

「逃げ回れれば勝てると思ったか?」

「はぁ・・・本当戦い憎いやつだぜ・・・なぁ死神将軍さんよ」

「・・・貴様・・・・・・・」


ナナシのその言葉にカーズは声色を変えた。

骨だけの顔なので表情は分からないが苛立ちを込めた感じの声にナナシはほくそ笑む


「おや?図星って所か?まぁ簡単な推理だけどな、あの城の映像が数日こっちには動画であるんだが一度も死神将軍の姿も存在を確認できる光景が無かったからな」

「やはりお前は危険だな・・・ここで絶対に始末せねば」


そう言ってカーズは両手を広げた。

それと共に胸に在った肋骨が横を向いた獣の牙の様に動いた!


「へぇ~中々珍妙な身体してるんだな」

「一度だけ聞いてやる、俺の配下になるつもりはないか?」

「やだね、だって俺勝つもん」

「そうか・・・ならば死ね!!」


そう叫んだカーズの体から肋骨が飛び出した!

まるで複数の回転のこぎりが一斉に襲い掛かってくるかのような光景にナナシは叫んだ!


「今だナポレ!」

「なにっ?!」


ナナシの言葉にいつの間にかカーズの背後に回り込んでいたナポレに視線を向ける!

だがナポレは一定の距離を保ったその場から一切動いておらずカーズに笑みを見せた。

それがフェイクだと気付いた時には既に遅かった。


「これで俺の勝ちだ!!」


その声は真横から聞こえた。

後ろを振り返っていたカーズの真後ろにナナシは居る筈なのに声が聞こえたのは真横・・・


「ぐっ?!」


自らが放った回転する肋骨はそこに残されたファイアーボールにぶつかる!

そう、ナナシが長兄の結界を取り込んだファイアーボールの最後の一個。

一定方向にそこに存在するものを押す結界魔法を取り込んだそれはナナシが先程から握り締めていたファイアーボール!

それの力を借りてナナシは自身では不可能な速度での移動を可能にしていたのだ!

そして、吹き飛ぶ直前に手に握った最後のファイアーボールをカーズに向かって投げつけていた!


「無駄だと言った筈だ!」


そのファイアーボールに向かって駆け出すカーズ。

手前で落下して砂埃を起こして逃げられる可能性を考えれば自ら当たりに行った方が良いと判断したのだ。

しかし、それすらもナナシの計画通りであった。


「バーカ、お前の負けだよ・・・」


ナナシの言葉、それがカーズに届くのと同時であった。

胸部にぶつかったナナシのファイアーボールは小さな爆発を起こす!

本来であればカーズは無効化の効果で衝撃すらも受けない筈であったのだが・・・


「ぐはっ?!」


肋骨が無くなっている状態でカーズは背骨にそれを受けて苦悶の声を上げて後ろへと吹き飛んだ。

その表情は困惑そのものであったろうが骸骨だから分からない。

だが自身の身に何が起こったのか理解出来ないであろうカーズにナナシは吹き飛びながら地面に落ちる前に告げる。


「最後に教えておいてやるよ!俺のファイアーボールはな、火属性ではなく物理攻撃なんだよ!!ぶべらっ?!」


地面を勢いよく転がる寸前まで格好付けて告げたナナシ、その直後地面を転がりながらボロボロになっていく・・・

その姿をまるでスローモーションの様に見ている吹き飛ぶカーズ・・・

それは死を直前に感じ取った時に起こるタキサイキア現象であった。

カーズは困惑する、確かに背骨に正面から直撃を食らったダメージは深刻である、だが死を感じ取る程かと聞かれれば否と答える程度であったからだ。

どう見ても同じく自ら吹き飛んでいるナナシの方がダメージがでかいのは明らか。

にも関わらずゆっくりと思考を巡らせる余裕があるほどスローモーションになっているのは何故か?

だが吹き飛びながらそれに気付いた時には既に手遅れであった。


「ば・・・か・・・な・・・」


それは地面から数センチ浮いていた。

自分の体が吹き飛ぶ方向に存在するそれ、ナナシが最初に投げたファイアーボールであった。

それが2つ重なるようにそこに在ったのだ。

正確には上のファイアーボールは少し浮いていた。

長兄の結界を取り込んだファイアーボールの上に浮かぶもう一つのファイアーボール。

下のファイアーボールが上に向かって押す結界魔法を保有しており、上のファイアーボールは回転しながらその上に乗っていた。

御存知、空中浮遊ゴマと同じ現象で上のファイアーボールはジャイロ現象を利用しその場に止めていたのだ。


「き・・・さ・・・ま・・・」


ゆっくりとその上にカーズは背中から落ちていく・・・

物理攻撃を無効化する事は魔道具では出来ない、受けるダメージを抑える事は出来るのだがそれは今の状況では無理なのだ。

何故ならば投げつけられぶつかったファイアーボールが下へ向かって落下を初め自身の体を押しているから。

そう、火ではなく物理なので飛び散って消える事は無くそれが自分の体を挟み込むのが直ぐに理解できた。


「こ・・・この・・・詐欺魔道士めぇええええええええええ!!!!ぐぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」


前後からファイアーボールに背骨を挟みこまれカーズの背骨は砕け散った!

全てナナシの計算通りであった。

一体誰がファイアーボールを物理攻撃だと予測なんか出切るか、そんな思いが込められたカーズの断末魔の叫びと共にもう一つ叫び声が上がった。


「うわぁああああああああああああああああああ!!!!!!」


驚くべき戦法でカーズを撃破した事に驚愕した面々が視線を送ると再び驚愕する事となった・・・

何故ならば、地面を転がってボロボロになったナナシ・・・

彼に向かって回転する肋骨が次々と襲い掛かっていたからだ。

そう、ナナシは自分の体を押し出す形でファイアーボールを空中に設置した。

それには一定方向へそこに在る物を押す効果の結界魔法が付与されている。

つまり、ナナシと同じ方向に飛来したカーズの回転する肋骨は押されて飛ばされていたのだ。


「あ・・・あへ・・・いきてる・・・うひっ・・・」


咄嗟に避けたとは思えないような不思議なポーズで肋骨は見事にナナシの体を避けて地面に突き刺さった。

まるでアニメの様なポーズ、その光景を見ていた嵐は『これはインスタ映えする!』とスクショを保存していたのは言うまでもないだろう・・・








「はぁ・・・本当にアンタは訳わかんないわよ」

「ははっ褒め言葉として受け取っておくよミスリル」

「もぅ・・・」


あの後、無事に生き残ったナナシはリル達に救出されていた。

地面に転がるカーズの亡骸を放置して先ずは体を休ませる事にしたのだ。


「ナナシ様、本当にお見事でした」

「いえいえ、ナポレさんの誘導、そしてネネのファイアーボールが無ければ勝てなかったかもしれないですよ」


ナナシは自分一人の勝利ではないと強く告げる。

皆が居て、運が在ったからこそ勝てたのだと思っているからである。


「それで、その嵐ってのは誰なの?ルリエッタは知ってるんでしょ?」

「うん・・・手を繋いでいる間は私にも声が聞こえるから」

「へっ?・・・そっそっか、だからずっと手を繋いでいたのね?」

「うん、リルちゃんごめんね。ずっと隠してて、でも私に何でこんな能力が在るのか本当に分からないの」

「そうなんだよな、ルリエッタだけが嵐との連絡取れるんだよな」


和気藹々と会話を続けるナナシ達。

だが・・・


「くっくっくっ・・・そうか、その小娘がキーだったと言う訳か!」


それは聞こえる筈のない声、背骨を破壊されて地面に転がっていた筈のカーズが口を開いたのだ。

だがそれも仕方あるまい、死んだかどうかを調べようにも骨だけなので脈も呼吸も分からないのだ。


「おいおい・・・マジかよ・・・」


ナナシの口から出る台詞も仕方ないだろう。

まるで地面から死者が蘇る様にそいつらが姿を現したのだ。

姿は何処から見てもただの骨、だが一度戦ったナナシはそいつらの事に直ぐ気が付いた。

言葉は発しないが間違い無く、3男の六郎、次男の長兄である。


「さて、先程の貴様の台詞は半分正解だったと伝えさせてもらおうか」


そう言ったカーズの体はいつの間にかバラバラになっていた。

そして、3人の兄弟の骨の体が組み合いながら形を作っていく・・・

死神3兄弟の体が一つとなり阿修羅の様に顔を3つ並べた二回りは巨大な体のそいつがそこに立っていた。


「この姿をまさか見せることになるとはな、恐れるが良い!この姿の俺こそが死神将軍である!」

「させません!」


そう告げる死神将軍はボロボロのナナシの方へ向かってゆっくりと歩き始めた、それを止めようとナポレが飛び出すが・・・


「なっ?!これは?!」


手にした短剣を突き刺そうとしたが見えない結界に阻まれた。

どれ程力を込めようが、それ以上奥へと進む事無く空中で静止していた。


「無駄だ、この姿となった俺は3兄弟全ての能力を使う事が出来る。即ち制空剣を結界で起こす事が出来るのだ!」


そう言ってナポレが殴り飛ばされた。

その体は数メートル吹っ飛び地面を転がる。

そこにはヒクヒクと痙攣しているナポレの姿が残されていた。


「な・・・なんて威力・・・ひっ?!・・・かっ勝てない・・・」


リルは直感した。

近くに居るだけでその恐ろしさを感じ取ったのだ。

恐れながらもナナシに肩を貸しているので逃げる事は無かったが恐怖で足が震えていた。


「くくく・・・どうだ?奥の手と言うのは最後の最後まで隠し通しておくからこそ価値があるのだ!では先ずは忌々しい女を始末するか!」


そう言って死神将軍は自身の腰に在った骨を掴んで物凄い勢いで投げつけてきた!

その向かう先は・・・


「危ないッ!!」


咄嗟に飛び出したのはナナシであった。

肩を貸してくれていたリルを突き飛ばしてルリエッタの方へ駆け出したナナシ。

その手がルリエッタの肩を押すと同時に伸ばしたナナシの左腕に死神将軍の投げた骨がぶつかった!


「ヒィッ?!」


突き飛ばされたルリエッタから悲鳴が上がる。

木っ端微塵にナナシの左腕は肩から吹き飛び、その体は空中を回転しながら後方へ吹き飛んだのだから・・・

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