第51話 ナナシのファイアーボール

次々と出された食事を食べ終えて一同はマッタリしていた。

そんな中、ナナシは1人立ち上がりネネの背後に近付いて耳打ちする・・・


「それじゃあ約束通り言う事を聞いてもらうよ、とりあえず隣の部屋に行こうか」

「・・・はぁ、分かったわよ」


ナナシの言葉に小さく返事を返すネネ。

正直言うと妹がこんなに笑顔になるのは本当に久しぶりであった。

自分達を助けてくれてこんなに親切にしてくれたナナシにお返しをしたいと思う反面、先程のマジックみたいな物を使って賭けを行なったりする一面に不信感を抱いたりもしていた。

でも妹の事をナナシなら悪いようにはしないだろう、お金も沢山持っているみたいだし最悪自分がこの体を捧げて・・・

そんな事を内心考えていたりもするので大人しくナナシに付いて行く。


「ちょっとお姉ちゃん借りるよ」

「えーお姉ちゃんだけですか?」

「まだナナちゃんには早いからね」


その言葉にルリエッタとリルはエッチな事を想像して頬を赤く染める。

リルはともかくルリエッタは奴隷から解放してくれたナナシが望むのであれば体を捧げる覚悟をしている。

そんな事を知りもしないナナシはちょっと行って来る~っと店員に一声掛けて隣の部屋に行く・・・


「それで、ここで何をさせようと言うの?」


そこは奥まった部屋で机1つに椅子が2つしかない小部屋であった。

ナナシに進められ椅子に腰を下ろしたネネはこれからどんな要求をされるのか想像して自身を強く抱き締めているのだが・・・


「単刀直入に言う、あの六郎ってヤツに妹が連れ去られようとした時にやろうとしていた事を俺にも教えてくれ」

「えっ・・・」


それは全く予想もしていなかった言葉であった。

先程までのケラケラ笑っていた能天気な表情とは一変して真剣な眼差しでネネを見詰めるナナシ。

その真っ直ぐな目にネネの心はドクンっと跳ねるのだが、それに気付かれないように言葉を選んで返す。


「何を言っているのか分からないわ」

「心配しなくても他の人には何も言わないさ、ネネって呼ぶよ?ネネは世界がこんなになる前は魔法使いだったんでしょ?」

「っ?!」


まるで全てを見透かしたようなナナシの言葉にネネは目を見開いて驚く。

世界が混ざった時に殆どの人間は意識を失い倒れた。

起こすにはその区の魔石を埋め込む事しか出来ない、だが埋め込むと成長は出来るがその区でしか生きられない体となる。

しかし、目の前のネネは体に魔石を移植していない。

にも関わらずあの時にやろうとしていたそれは間違い無く魔力を練って魔法を使おうとしていたのだ。


「俺も元々魔法使いでね、世界がこんなになってからもどうやら魔力が練れるようなんだ」

「それにしても・・・でたらめよ」


ネネがそう言うのも無理は無い、魔力が練れるという事と他者が魔力を練っているのを知れるというのは大きな差である。

それこそ空気中の魔素の流れを視認出来なければ出来ない芸当なのだ。


「まぁ、約束だから別に良いけど・・・貴方にも使えるかどうかは分からないわよ」

「あぁそれで構わないさ」


ネネはそう言うがナナシは教えれば間違い無く使えるという確信があった。

それはナナシの言葉が真実なのであれば魔力を目で確認しながら練れるからである。

ネネのナナシを見る目つきも先程までの様子と変わり魔法使いの目つきになっていた。


「まず最初にこれは魔法ではなく魔術と言う事を理解して。元々魔法を使うためには自身の体内で練成された魔力を用いて魔法を発動させる必要があるのだけど、これは大気中の魔力を一時的に自身が操作して魔法を発現させる方法」


その言葉に頷きで返すナナシ、その顔は理解していると言う顔であった。

空気中の魔素を酸素の様に呼吸で体内へ吸収しそれを自由に魔法として使う為に利力へと変換する。

それこそが魔法を使うときに必要となるMPの正体であった。

そして区が変わるとその体内へ魔素を吸収する事が出来なくなる、それこそがその区で魔法が使えないという理由そのものであったのだ。

その変換の為に体内へ魔石を移植する必要があるという事なのであった。


「なるほど、魔力を取り込まずに魔法へと変換するって訳か・・・」

「1を聞いて10を知るって言葉もあるけど・・・あんた凄いわね」


ナナシは仮説の段階ではあるが既にこの世界の秘密へと迫りつつあった。

そして、ネネは自身の右手の中へ空気中の魔素を集める・・・


「こうやって魔素を集めてそこへ利力を注ぎ込むの」

「なるほど、魔力を変換させずに使う為に自身の利力を使って強制的に発現させるわけか・・・」

「あんた本当は私の説明要らないんじゃない?」


白い目でナナシを見始めたネネであったがナナシが既にお試しで魔法を発現しようとしていた。

それを観て慌てるネネ、それはそうだろうこんな室内で魔法を暴発させれば大惨事になるのは目に見えていた。

だがナナシは気にせずに手の中へ集めた魔素へ利力を注ぎこみ始める。

利力の注ぎ込み、それは自身の存在力を魔素へ混めると言うこと、つまり今ナナシはMPではなくHPを消費して魔法を発動させようとしていたのだ。

そして、それを1回簡単にサラッと説明しただけで実現させようとしているナナシに困惑し始めるネネ。

ナナシは魔素へ込めた利力を通じてその魔素の状態を変化させ頭に浮かんだ魔法を発現させる!


「よしいっけー!ファイアーボール!!!」

「ばっばかっ!?室内でそんな魔法使うなんて・・・」


ネネがナナシの唱えた魔法名を聞いて慌てて止めようとするが既に手遅れでナナシの魔法が発現してしまう!

それはナナシの手の中から現れてゆっくりと手から離れる・・・

燃える球体が浮かび上がり浮遊し始める・・・


「えっ・・・なにこれ・・・」


ネネが唖然とするのも無理は無い、ナナシが使用した魔法『ファイアーボール』は炎の球体を前方へ放つ魔法だからである。

しかし、ナナシから発せられたそれは自由気ままにナナシの周囲を飛び回る・・・

どこからどう見てもそれは・・・

人魂にしか見えないのであった・・・

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