第29話 ラブレター

 これがラブレターの全文だ。


『親愛なる斎藤恭介様。

 突然のお手紙ごめんなさい。

 私はあなたのことをずっと遠くから見ていました。

 中学の時からずっと……

 私はあなたが開発メンバーを集めていることを知りました。

 そのことを知って、あなたの力になりたいと思いました。

 自己紹介がまだでしたね、私は今あなたが必要としているデータベースの知識を有するものです。

 Oracle、SQLServer、nosql(※)なんでもできます。

 例えばoracleならプラチナの取得できるくらいの知識を持っています。

 だから貴方の隣にいる、如月詩愛よりもきっと役に立つはずです。

 放課後、生徒会長室に来てください。

 絶対来てくださいね。

 生徒会長より』


 驚いた点が2点ある。

 まず一つ目、この手紙の差出人は生徒会長……まじか……生徒会長程の人がなぜ俺に……

 生徒会のことは全く興味がないから生徒会長がどんな人なのか全く分からないが……


 二つ目、如月さんの顔がものすごく近い……

 いやこれはむしろ喜ばしいことなのだが、このせいで正直平常心を保つのが精一杯で、ラブレターがどんな内容だったのか全然頭に入ってこなかった。

 如月さんはどんな顔をしているのだろうか。

 仮にとはいえ俺の彼女になってくれた女の子だから、少しは嫉妬してくれていたら嬉しいのだが……

 恐る恐る如月さんのほうへ顔を向けたのだが、長髪で顔は隠れ表情は見えない。

 如月さんのことはものすごく気になるが、ラブレターもちゃんと読まないとな。

 ラブレターは綺麗な字、かつ女の子らしい字体で書いてある。文面からいたずらではなさそうだが。これを男がなりすまししていたら俺は一生立ち直れないだろう。

 だって今までラブレターなんてもらったことがないのだから、しかも差出人は生徒会長だし。

 し、しかしだ。生徒会長はなぜ俺がデータベースエンジニアのことを探していることを知っているのだろうか。

 この話を知っているのは限られているのだけれど。


「ん?」


 冷たく凍てつく視線を感じ、ふとその視線の先へゆっくりと顔を向ける。

 そこには食い入るように俺を睨む如月さんの顔があった。

 なぜ、そんな顔で俺のことを? と思ったのもつかの間、


「この手紙何? どういうこと? ちゃんと説明して!!!」


 如月さんがものすごい剣幕で質問ラッシュをしてくる。

 俺はどう返答すればいいかわからず、答えられずにいると、


「駄目、早く答えてっ」


 俺だってラブレターを読んだばかりで、まだ頭の中がごちゃごちゃなのだ。

 如月さんの顔を見ると、なぜか妙にむきになっている。如月さんを落ち着かせようとするのだが、


「うぅ……落ち着けるわけない」


 ぷくっと頬膨らませてさらに怒る如月さん。

 如月さんは怒っている顔も可愛い。

 って何を考えているんだ俺は……今はそんなことを考えている場合じゃないのに。

 俺は如月さんがなぜこんなに怒っているのか考えべく、ラブレターを読み返し原因を探る。

 ふと気になる一文があった。

 もしかして如月さんが怒っているのは『私はあなたが開発メンバーを集めていることを知りました』と書かれているところではないだろうか。

 如月さんは俺がプログラムコンテスト以外に開発をしていることを知らない。だから如月さんの知らないところで、こそこそ美少女投票システムの開発をしているのが気に障ったのか……そもそもこの開発はミスターXとの約束で如月さんの秘密裏で進めているものなので、ばれてしまったらゲームオーバーとなってしまう。

 恐る恐る如月さんに問うた。


「どうしてそんなに怒っているの?」


「うぅ……だって……」


 如月さんは突然もじもじしだし、何やら言い出しずらそうにしている。はっきりといってくれればわかりやすいのだが、怒ったり恥ずかしがったり本当に女の子はわからん。それから少し経って、意を決したのか如月さんが口を開いた。


「恭介君……」


「はいっ」


「私より……役に立つって……どういうこと?」


 裏で隠れて開発をしていたことを怒っているのではないかのかと不安に思っていたのだが、どうやら違うようだ。

 ここはちゃんと説明して如月さんにわかってもらおう。


「如月さん、この手紙(ラブレター)の主が如月さんの役に立つっていったことを気にしてるんだよね」


 如月さんはコクンと小さく頷く。

 俺は続けて、


「手紙の言うことなんて気にする必要なんてないよ。俺だってこの手紙を読んで何が何やらわからないんだから。今はプログラミングコンテストで精一杯だしさ」


「そうだよね、恭介君はプログラミングコンテストに向けて頑張ってるもんね」


「うん……」


「どうしたの?」


「なんでもない」


 如月さんとの約束を守る為とはいえ、嘘をついてしまったことに胸が痛くなった。しかし如月さんを傷つけるわけでも、危害を加えるわけでもないし……と自分に言い聞かせる。

 しかし如月さんにこれだけは言っておかないといけない。


「それに如月さんは、お、俺の……」


 やばい恥ずかしくて、この先の言葉が中々言い出せない。


「恭介君……何? 俺の?」


 首を傾げて俺の事を見つめる如月さん。


「如月さんは俺の彼女なんだから、どっしりと身構えてくれていればいいんだよ」


「うん。わ、わかった」


 顔を俯かせ如月さんは言った。

 表情は見えないが、口調はさきほどとは違い嬉しそうである。


「恭介君のこと信じてるから」


「それじゃあ生徒会長のところにいってくるよ」


「うん」


 そして俺は生徒会長室へ向かった。


※Oracle、SQLServer、nosqlとは、データベース製品の名称です。

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