第55話 風見鶏
もう自信が無いなどと言っていられなかった。
それからの菊は油絵の具を捨てた。もともと手に入りにくい、しかも上手く扱えない素材を無理に使うことはないと思った。描線には慣れた墨を使い、
何かが吹っ切れたようだった。
彼女が描く人物はぐんと硬さが取れた。もう、天井を
絵の
しかし彼女は信者になろうとはしなかった。
ジョアンに言われた言葉は、彼と仲直りした今でも、魚の骨のように彼女の
「信者でない私が聖画を描くなんて、やっぱりおかしいと思います。でも私には、どうしても信者になることが出来ない事情があるのです。」
それは先祖の
「神仏に祈るだけだった者たちは結局皆、死んでしまいました。たくさんの立派な寺社を建て、大勢の神官や僧侶に日夜家の
でも、と菊は言う。
自分の考えがどうであれ、
オルガンティーノは
「この教会を作ったのが誰だか、御存知ですか?」
菊は振り
屋根に付いている
「信者の方々、でしょう?」
「この教会を建てた当時、信者はまだあまりいなかったのです。ここを建てるのに力を
そう言って、オルガンティーノは苦笑した。
「だから私は
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