第63話 夕立
あんなに
店の片付けに行こうともせず、小屋の隅っこで、松が踊りの
「悩んでないで、直接話を聞いてみたら?あの人、言いたいことがありそうだったわよ。お互い、死んだと思ってたんでしょ?じゃあ、今まで会えなかったのは
店に戻っても、片付けが手に付かず、南蛮寺に行っても、描きかけの絵に高価な絵の具をぶちまけるといった
「どうしたんです、今日は?もういいから帰ってゆっくり休みなさい。」
と
(だめだ、行って会ってくるしかない)
道の角から様子を
門番たちもさすがに気づいて、こちらを見ながらひそひそと話をしているのを見て、菊は耳まで赤くなってしまった。
夕方になって雲行きが怪しくなってきた。鼻の頭にぽつんと雨が落ちてきた。
思い切って案内を
「
「父上のこと?ねえ、父上を訪ねていらしたんでしょ?」
門番を
年のころは達丸より少し上くらい、すらりと背の高い、
菊が答える間もなく、
「あ、母上だ!母上、父上に御来客です!」
やって来た女に
「何です、騒々しい。」
出かけるところだったのか、侍女を従えた、菊より若い女だった。
少年をたしなめた女は、奥に行っているように言いつけた。
それが元々のものか、それとも夫を訪ねてきた女を見てのものか、菊は判別しかねた。
頭のてっぺんからつま先までじろじろと見回して、菊の茶色い
「そち、新しい下女かえ?」
ちょっとぞんざいな口調になったが、菊の化粧っ気の無い顔をしげしげ見て、下女にしては品がある、とでも思ったのか、
「なるほど。旦那さまも慣れぬ都でお疲れが
もうたくさんだ。
菊はきびすを返して逃げ出した。
後ろから奥方の笑い声と、呆れて止めようとする門番の声が追いかけてきたが、もう立ち止まることは出来なかった。
とうとう降ってきた。激しい雨に
菊は夢中で走った。
(何で……何で逃げてるの?)
少なくとも、雨に追われているわけではなかった。
(奥方がいたなんて……しかも息子まで)
頭の中がぐるぐると
どうして、涙が止まらないんだろう。
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