第20話-02 疑念の萌芽



〔『このうえは貴公の支援なぞ無用! 我が配下の精鋭部隊でニワカ勇者ごとき粉砕してくれよう!』〕

 似ている。

 四天王筆頭死術士ネクロマンサーミュート、彼は何をやらせても人並み以上にこなしてしまう多芸な男だが、まさかモノマネまで得意とは。魔貴公爵ギーツの声と口調そっくりそのまま。眼を閉じて聞けば当人と区別がつかないほどの再現度であった。

〔なァーんて? 大口叩いたのはどこの誰だったかなァ?〕

 ミュートの挑発的な上目遣いに、ギーツ公が握り拳を震わせていたのは言うまでもない。

 ここは第2ベンズバレンから北へ1日のところにある森の中。勇者ヴィッシュの攻撃で残り少ない手勢さえ失ったギーツ公は、死にたくない、の一念のみで逃げて、逃げて、夢中で逃げて、どうにかこうにか追撃を振り切り、ここまで落ち延びてきたのである。

 こうなってはもう魔王城に帰還するよりほかどうしようもないが、その前に彼には太守としての義務が残っている。それは城へ――魔王軍全軍を束ねる総司令官ミュートへ、この惨敗を報告することだった。

 あぐらを掻くギーツ公の前の地面には、片手で掴めるほどの大きさの薄い水晶盤が立ててある。“通じ合う者の鏡”なる呪具フェティシュ。《遠話》と《遠見》を同時に媒介し、遠く離れた相手と対面して会話ができる便利な代物である。が、今のギーツ公にとってはその高機能もかえって鬱陶しいばかりだっただろう。

〔なあギーツ、おれァ言ったよな? 堅く守れ、決して打っては出るなってよ。それをテメエは……〕

「お言葉だが! 街道を断たれれば補給線が……」

〔そこも言った。最悪魔都との往復路が確保されてりゃいいとな。

 攻めと守りの非対称性ってやつさ。街道網のいたるところに200以上はある急所。物流をき止めるだけならそのうち10ヶ所も取れば事足りる。だが守る方は全部を守らなきゃならないから戦力を分散させざるを得ない! あっちもこっちも均等に兵隊置いてりゃいいように各個撃破されて当然だろうが家柄だけの無能魔族がッ!!〕

 叩きつけるような叱責に、ギーツ公は言葉をなくした。自身では気づいていまいが、目には薄く涙さえ溜まっている。その情けない表情に、ミュートは鼻で笑って追い打ちをかける。

〔言われた仕事もできないんじゃしょうがねえ。手勢をまとめて魔王城に戻ってこい。道中、魔王様への弁明でも考えとくんだな!〕

 《遠話》はミュートの側から一方的に切断された。

 ギーツは唸り、震え、歯を鳴らし、握り締めた水晶盤を岩に投げつけ叩き割った。

「おのれ元人間ふぜいがァッ!!

 太鼓持ちで魔王様に取り入りおってェーッ!!」

 荒れに荒れてわめき続けるギーツ公の背中を、周囲の兵たちはただわずらわしげに見流すばかりであった。



   *



 魔王城、地下研究室。ところどころに灯る《発光》の術のみが頼りの広大な暗がりに、巨大なが胎児のように丸まっている。

 魔王クルステスラがこの研究室に籠り始めて、今日でもう10日目になる。その間、魔王は不眠不休で“胎児”の肉体構築に取り組んでいた。一切の妥協なく強靭な骨格を練り上げ、緻密極まる筋繊維を編み上げ、絹糸のように細い神経の一本一本を寸分の狂いもなく全身に縫い込んでいく。苦労の甲斐かいあって“胎児”は急速に成長していった。外気に晒されていた剥き出しの筋肉はいまや大半が竜鱗で覆われ、黄ばんだ眼球と牙もここ数日で出来上がった。ようやく整い始めた生物らしき外観。その印象を一言で表すなら、“竜”。

 ヴルムなどというまがい物ではない。この世にただ一柱ひとはしら、全生命体の頂点に君臨する獣の王。すなわち――

「“真竜ドラゴン”! いよいよ完成が見えてきたな!」

 うきうきと声を弾ませながら、ミュートが《転送門ポータル》をくぐって現れた。

 魔王は心臓への逆止弁取り付け作業に没頭しているところだった。血脂でべっとりと濡れた手を休めようともせずに、たったひとりの股肱ここうの臣へ、ただ疲れた視線を流す。

「……ああ。予定より3ヶ月は遅れてるけどね」

「《悪意》の収穫に手間取っちまったしなァ。んで申し訳ねえんだが、さらに悪い知らせだ」

「そのわりには嬉しそうだ」

 魔王は苦笑しながら、手を血だまりから引き抜いた。ミュートへは背を向け、桶に溜めておいた水で手を洗い始める。

「ギーツがしくじったかい?」

「勇者様が大活躍さ。第2に置いといた8万はほぼ全滅とみていいな」

「対策も考案済みだろうね」

「ごめいさつぅ!

 いいか? 勝ち波に乗った勇者軍は破竹の勢いだ。ゆえに、まずその勢いを殺す!

 簡単さ、相手にしなけりゃいい。街道の要所を塞ぎ、砦を築いて守りを固める。もともと総合力なら魔王軍こっちが格段に上なんだから、それだけで勇者軍やつらの動きは止まる。

 で、この冬場だ。支配領域は第2ベンズバレン周辺のみで農作物の収穫も当面見込めない今、備蓄が尽きれば飢えが来る。勇者だってそれを百も承知だから短期決戦志向なんだろうが、付き合ってやるいわれはねえ。待ってりゃ必ず軍勢を維持しきれなくなって内輪揉めが起き始める。おれたちが打って出るのはそのタイミングだ!

 兵法の極意は“実を避けて虚を撃つ”! つまり! 相手の充実した所はスルーして、不得意な所を狙えってことさ!」

 ミュートは練り上げた策を開陳しながら魔王の前へ回り込み、ぐぐっと腰を曲げ、魔王のうつむけた顔を下から覗き込んだ。「どう?」などと首をかしげ、おどけて見せる。だが魔王は曖昧な微笑を口元に貼り付けたままだ。

「異論はない。任せるよ」

「よし! 具体的な段取りは今日中に文書であげとくわ。勇者あいつの好きにはさせねぇぜ。まあ見てな」

 口笛吹いて《転送門ポータル》の術式を編み始めるミュート。上背のある彼の横顔は、小柄な魔王からは見上げるほどに遠い。あの呪われた夜の出会いからや1年余り。魔王には一度も見せたことのないきらめきがミュートの眼に浮かんでいる。

「……君は、勇者ヴィッシュと張り合うために蘇ったのかもしれないね」

「あ?」

 足元に開いた《転送門ポータル》へ踏み込みながら、ミュートは照れくさそうに耳の後ろを掻いた。

「ああ……そっか。そうかもな」

 彼はそう穏やかに笑い、黒い門へ沈み込んで消えてしまった。

 再びひとり取り残されて、静寂だけが戻ってくる。

 魔王は完成間近の我が作品を――“真竜ドラゴン”の巨体を仰ぎ見た。

 この広大な研究室は、さながら未成熟の竜を孕んだ子宮のよう。ならば胎児と共にここへ籠った魔王は何だ? 父権の担い手のつもりでいた。創造主か、あるいは少なくとも産婆として神の創造に携われている気になっていた。だがわずらわしい外界から逃れ、孤独に甘えて丸まっている今の彼は、“真竜ドラゴン”と共に出産を待つ――無力な嬰児みどりごでしかないのではないか?

 魔王は思い起こす。4年前、企業コープスが課した最終試験でカジュと戦い、死んで――に経験した出来事を。



 あの場所、ひらたく言えば“死後の世界”については、やや記憶が曖昧だ。記憶と呼んでよいのかすら分からない。何も見えず、何も聞こえず、いかなる感覚も思考も成立しない暗闇の時空に、彼はただ漂っていた。正確には闇ですらない。虚無ですらない。、完全なるくう。そこではあらゆる認知が意味をなさず、ゆえに苦はなく、肉体という形も精神という器もなく、ただ自由のみが漫然と横たわっている。そうとしか言いようがない状態。

「これが《死》。」

 かすかに残ったの切れ端が、認識するでもなくそう認識した。

「《死》は怖いおかたではないよ。」

 と生前にクルス自身がうそぶいたとおり、《死》は恐ろしくなどなかった。《死》は癒し。冴えた刃。五体に絡みついたどうにもならない厄介事の糸を、ひと振りで切りほどいてくれる。やがて温かな《死》の懐で最後に残ったも溶けて、何も気にする必要のない至上のらくが彼を包み込んでくれるだろう。

『だが』

 そのとき、唐突にが囁いた。

『本当にそれでよいのか?』

 誰だ? という疑問さえ浮かびはしない。《死》の世界に感情は無いからだ。論理などますます無いからだ。なすすべもなく揺蕩たゆたう死者は、生死という概念を超えたの干渉に、ただ揺さぶられるしかない。

『知りたくはないか?

 見てみたくないか?

 そなたの愛した、ただひとりのひと……

 あの白き乙女が、いかなる運命を辿たどるのかを』

 その瞬間、クルスは

 ――見たい。

 と。

 微かに含み笑いのような声が聞こえ、次の瞬間、クルスのは辺境の都市遺跡の上空にあった。

 元は聖堂ででもあったのだろうか。身を寄せ合うように立ち並んだ3本の尖塔が、厳しい夜風をじっと耐え忍んでいる。その頂上に崩れかけた鐘突場がある。風化しきった石の床の上、不安げに揺れる月光の下、ひとりの少年が瀕死の少女を掻き抱き、顔をくしゃくしゃに歪めながら、必死に頬をひくつかせ、笑顔を作ろうともがいている。

「大丈夫。最後までオレがいっしょにいてやる」

 囁きは口づけのごとく。

「好きだぜ、ロータス……」

 彼の名はリッキー・パルメット。かつて企業コープスの教育施設でクルスやカジュと切磋琢磨した同輩だ。リッキー! とクルスは呼びかけた。だが死者の想いは声にはならず、意味のない思念の風としてその場を通り過ぎるのみ。近づこうとしたが動けない。術式を編もうにも呪文ひとつ浮かばない。何もできない。してやれない。リッキーがあんなに追い詰められているのに、ロータスが今にも死のうとしているのに、手を差し伸べることも、寄り添うことも、慰めてやることもできない。ただ世界を俯瞰する、それが《死》の世界の住人にできる唯一のこと。

 そのとき、無力感で胸ざわつかせる彼の前へ、夜空の暗闇から、ひとりの少女が舞い降りた。

 夜のとばりを身に纏う、影そのものの如き少女。背には《風の翼》を禍々しく広げ、手には《死神の鎌》をたずさえ、無慈悲な空虚の眼でをじっと見据えている。

 カジュ!

 クルスは叫ぶ。無駄なこととは知りながら。

「キミがいけないんだ。」

 カジュは早口にまくしたてた。ダメだ、カジュ! 低く、暗く、呪詛のように、冷たく沈み果てた声で。カジュ、その先は!

「弱いものには生きる資格もない。キミが弱いからいけないんだよ、リッキー。」

 キミだけはに行かないでくれ、カジュ!

 次の瞬間、逃亡者たちは炎に飲まれた。

 轟音を響かせながら立ち上った火柱が、尖塔を叩き割り、辺り一面を焦土に変える。その猛烈な熱風に吹き散らされて、クルスのは《死》の世界へと舞い戻った。

 身を引き裂かれるほどの痛恨。カジュ。心の中で唱えた愛しいひとの名が、刃物のようにクルスの胸へ突き刺さる。キミがリッキーを殺すなんて。キミまでが企業コープスの論理にまれてしまうなんて。暗闇の中で背中を丸め、クルスは呻いた。僕のしたことが……キミをこんな地獄に堕としてしまった!

 そう叫んだ瞬間、クルスは愕然として顔を上げた。

 痛恨? 胸? 背中……!?

 クルスは己の姿に視線を落とした。手がある。足がある。つい先ほどまで肉体はおろか精神さえほとんど消えかかっていた彼が、いつのまにか生前の姿でここにいる。

 だ。《死》に飲みこまれ、完全なくうへと帰するはずだった彼のが、再び個の形を取り戻してしまったのだ。背筋にぞっと悪寒を覚え、辺りを見回す。上下左右どの方向にも、無明の闇が彼を圧し包むかのように横たわっている。

 脂汗が、クルスのひたいからにじみ出る。

「お前は誰だ」

 闇へと投げかけた問いに、気品ある忍び笑いが応えた。

「一体僕に何をした!?」

わらわは何もせぬ。するのは常に、ひとのほう。

 それ――もうひとつ見せてやろう』

 再びが世界のどこかへ移る。

 そこで見せられたものは、地獄だった。

 延々と広がる大地の上に、地虫の如く湧き出る生物、ヒト。あるところに兵があり、隣国の領土へ攻め入って幾万を殺し、幾万を犯す。またあるところには商人があり、下人の貧乏につけこんで休む間もなく働かせ、死ねば路傍に放り捨てて次の家畜を探しに行く。親を亡くした少女は伯父に引き取られ、その屋敷の奥で何年も辱めを受け続ける。人間社会に取り残された魔王軍の残党たちは毎日のように吊し上げられ、投石をもってなぶり殺される。またそのあだむくいんと、魔族の野党団は人間を捕え生きたままに皮を剥ぎ、なめして靴や鞍にする……

 ひとの世、という名の地獄。そこで行われる悪魔の所業。苦痛にまみれたむごたらしい死。ひとの尊厳への徹底的な凌辱。何百万、何千万、何億というひとびとが味わった全てのおぞましいの記憶が、怒涛のようにクルスの知覚へ流れ込んだ。クルスは叫び、のたうちまわり、耳を塞ぎ、眼を塞ぎ、休みなく襲い来る残酷なから逃げようとした。だが止まらない。止まってくれない。一千万回も彼は殺され、一億回も彼は犯され、数限りない残虐な拷問に彼は泣きわめいた。

 そして涙と血と穢れにまみれ尽くした彼が、最後の瞬間見たものは――

 人間どもに“魔女”として蔑まれ、耐えがたい汚辱を受けた末に、処刑台へ上げられる――

「やめろ」

 クルスが叫ぶ。

「やめろ―――――ッ!!」

 振り下ろされた斧によってカジュの首が飛んだその瞬間、は終わった。

 情報の嵐の中から自分個人の感覚へと不意に引き戻され、クルスは闇の中に倒れ込んだ。だが、常人ならばとうに精神の崩壊を引き起こしているはずの情報の暴力に晒されながら、クルスはまだ、そこにる。憔悴しょうすいしきった身体を震わせ、しかしなお、いまだ砕けきらぬ意志をもって闇をにらみ続けている。

「何が望みだ……こんなものを見せてどうしようというんだ」

 その姿を満足げに見下ろしながら、闇の奥からが姿を現す。

『こんなものとは心外だ。

 これは愛。わらわとヒトの、愛の記録。

 現在、過去、未来に渡る《悪意》とヒトの蜜月の姿。

 見たであろう? そなたの最も大切な少女が、ヒトに穢され、殺されるさまを。

 あれこそが真実。

 避けることのできぬ未来の形だ』

 クルスは言葉を失った。生物としての根源的な畏怖が彼を凍り付かせた。

 そこにいたのは一頭のヴルム――いや、ヴルムなどではない。あの程度の動物とは。確かに姿は似ている。鞭のようにしなる長い尾、剣の如き鉤爪を備えた四肢、広げれば天さえ覆い尽くすかに思われる巨大な翼。形は竜そのもののようではあるが……淑女の品格を漂わせる立ち居振る舞い。妖しく濡れる優美な瞳。魂が感じ取る印象は、凡百の竜と天地の隔たりがある。

 こそは遥か太古、まだ神さえ存在しなかった時代から、この世界を牛耳り続けてきた獣の王。

 “力ある九頭竜パワー・ナイン”筆頭、真竜ザ・ドラゴン

 またの名を――

「《悪意の皇》……魔神ディズヴァード……!」

 妖艶な目をすうっと細め、ディズヴァードはクルスへ、甘えるように囁きかけた。

『聞いてくりゃれ、小さきものよ。実はのう、わらわたかってくる小うるさい羽虫どもがおるのだよ。奴ばらは《悪意》の一端を召喚し、その力で魔王のまがいものを造ろうと画策しておる……』

 ようやくクルスにも話が飲みこめてきた。ディズヴァードの言う羽虫とやらは企業コープスの事に違いない。彼らが進めている“魔王計画”に関しては生前資料を目にしたことがある。

『我慢がならぬのさ。ひとが《悪意》に堕ちるのはよい。だが《悪意》をひとに堕とされてはな。

 数年後の未来、そなたはあの虫どもに蘇らされ、魔王の依り代となるだろう。適任であろうなあ。わらわの本質に触れながらいまだを保っているそなただ。魔王たるに充分な素質よ』

「……僕に何をしろというんだ」

『そなたの望みは、分かっている』

 死の世界の暗闇に囚われ、一歩も動けぬクルス。ディズヴァードは長い身体をくねらせ、クルスの周りを包み込むように取り巻いた。《悪意》の鱗が肌に触れ、意外な温もりで驚かせる。耳元で真竜ドラゴンが囁き、その甘い響きで彼の心をとろかしていく。

『救いたいのだろう、愛するひとを。

 変えたいのだろう、この世界を。

 未来を変えてあの少女を守るには、企業コープスを潰さねばならぬ。だが奴ばらは欲望の所産。たとえひとつ潰しても、新たな組織が必ず現れ、あの娘の力にしゃぶりつく。

 商人の次は。狩人の次は。いついつまでも果てることなく搾取され続けるのがあの子の宿命。

 ならば、そなたの想いを遂げるためには――』

「人類の……醜い我執の全てを滅尽するしか……ない」

『それゆえに我らは利害を共有できる』

 《悪意》は全てと《融合》する。

 生理とも。

 社会とも。

 きらめくように純粋な、愛とさえも。

『ヒトよ――《悪意》の共犯者とならぬか?』



 かくしてクルスは、魔王になった。

 世界の真実を知り、この手で変えねばならぬと確信し、力と意思の全てをこの事業に注ぎ込んできた。全てはカジュを守るため。彼女をやがてくる確実な破滅の未来から救うため。

 だが……

 ――あのとき知った世界と

 カジュは語った。リッキー・パルメットは生きていると。そんなはずがない。クルスは確かに見たのだ。あの寒々しい尖塔で、カジュが級友を焼き殺す瞬間を。

 それだけではない。“力ある九頭竜パワー・ナイン”が一柱、《火目之大神クレイジー・バーン》。“勇者の剣”を受け継ぐ新勇者ヴィッシュ。なにもかも、あの時見た世界の未来には存在し得ない事象。

 かつて確かに見たはずの真理が、眼前に広がるこの世界と、徐々に食い違い始めているのだ。

「起きているんだ」

 出来かけの真竜ドラゴンにすがるように手を触れて、魔王は眉間に苦悩の皺を刻んだ。

「この世界に……想定外の異変が」



(つづく)

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