第17話-03 世界滅亡の序曲



 《火の息》に追い立てられ散開してしまったヴィッシュたちへ、《火の矢》《電撃の槍》《電光石火》が襲い掛かる。ヴィッシュはすんでのところで《火焔球》の直撃を避けるも行く手を《石の壁》に遮られ、足が止まったその瞬間を《鉄槌》に狙われる。危機に飛び込む緋女の太刀。渾身の力を籠めた一撃で《鉄槌》を弾き飛ばしたその瞬間、周囲から包み込むように迫る《烈風刃》。

「《凍れる刻》っ。」

 とっさにカジュが術を飛ばし、一瞬の猶予を得たヴィッシュたちは危地を脱した。だが魔王の攻撃は止まらない。走る《激震》。吹き寄せる《鉄砲風》。《ねばねば》に足を取られた隙に《竜火》が猛然と襲い掛かる。人間はおろか岩巨人ですらひと撫でで蒸発させる超高温の炎は、もはや炎とさえ呼べない白色の閃光となってヴィッシュたち3人をまともに飲み込む。

 かと思われたその直前、もうひとつの閃光が3人の前に飛び込んだ。勇者ソール。彼が気迫とともに繰り出した魔剣は、《竜火》の高熱と白光とを同時に、無へと返した。

 そのときカジュは確かに見た。右往左往する彼らを悠然と眺め見る魔王の口許に、会心の笑みが浮かんだのを。

 《闇の鞭》が蛇の如く素早く走る。ヴィッシュたちを庇うために全神経を集中していた勇者の手に、足元から伸びあがり食らいつく。途端に勇者を襲う激痛。さすがの彼もこの痛みには耐えかねて、小さく呻きながら魔剣を手放してしまう。

 放物線を描いて放り出される勇者の剣。そして無防備になった勇者へと、魔王の術が四方八方から殺到する。《火の太矢》《招雷》《石の従者》《超力招来》《光の槍》《炎の鞭》《爆裂火球》《大きな光の矢》《魔力砲》……!

 ――しまったっ……!

 戦慄する勇者。逃れる術はない!

 そのとき、咆哮と共に飛び上がる影があった。彼は空中で、魔王の術めがけてがむしゃらに剣を振り回した。《火の太矢》が、《大きな光の矢》が、《魔力砲》が、白金の刃に吹き散らされて消えていく。包囲の一角に穴が開いた。と悟るや、勇者はすぐさまその場を飛び退き難を逃れる。

 勇者の背後に術が着弾し爆発を起こす。吹き飛ばされて地面を転がり、すぐさま態勢を立て直し、勇者は驚愕に目を見開いた。

「……痛ぇ!」

 毒づきながら立ち上がるのは、ヴィッシュ。土砂に塗れ、血と汗に濡れた彼の手には、勇者の剣が握られている。

「無事……なんですか」

「あ?」

 茫然と呟く勇者ソールに、ヴィッシュは眉をひそめる。勇者の顔に浮かんだその表情を、ヴィッシュは理解できずにいる。なぜだ? この危機の中にあって、なぜ勇者は頬を緩ませている? まるで、とでも言わんばかりに――

「ヴィッシュさん、まさかあなたが……!」

 だが彼の真意を問いただしている暇はない。動きの鈍った彼らの頭上へ、残るありったけの術が雨霰の如く降り注ぐ。ヴィッシュが吼える。カジュが歯を食いしばる。緋女は無言で身構える。そして勇者は、誰よりも速く先陣を切った。常にそうであったように。

 だが、彼らが全力を尽くしてなお、魔王はあまりにも……強い。



   *



 全てが収まり、静寂が戻る。

 魔王は空中に浮遊したまま、地上の光景を見下ろしていた。

 緋女は太刀を握りしめたまま前のめりに倒れ伏し、カジュは血の海に横たわってぴくりとも動かず、ヴィッシュは路傍のごみの如く転がるばかり。ただひとり、勇者ソールのみが、微かな呻き声をあげながら、必死に立ち上がろうともがいている。

「かつて先代魔王ケブラーは、勇者を侮ったがために滅びた」

 魔王の囁き声は乾いた風に乗り、勇者の耳へと運ばれていく。

「“セレンの剣”を受け継いだ少年……その存在を察知していながら、多忙にかまけて部下に対処を丸投げし、結果、かえって君の成長を促してしまった。

 だが僕は彼ほど甘くはない。魔王の脅威となるものは最初の一手で徹底的に排除する。ずいぶん苦労しておぜん立てをしてきたけれど、ようやく報われる時が来たようだ」

 魔王が《風の翼》で上空へ舞い上がっていく。勇者の遥か頭上の空で、闇色の衣を翼のごとくはためかせながら、魔王が呪文を唱え始める。この世の物とは思えぬ不気味な声が狂風と化して辺りに吹き荒れ、魔王の手足から伸びた血赤色の光が天を覆い尽くすほどの巨大魔法陣を描いていく。

 ――ああ、これは、だめだ。

 とてつもない術が来る。魔王が全身全霊を込めて放つ最大最強の一撃が来る。その確信がかえって勇者を奮い立たせた。彼はそういう男だ。まだ仕事が残っている、やらなければならないことがある、その事実が、朽ちかけた肉体の奥底から魂の力を引きずり出す。勇者は懸命に這いずって、ヴィッシュの側へ寄って行った。彼の腕に手のひらを触れ、その温かさにほっと胸を撫でおろす。

 ヴィッシュはまだ生きている。

 希望はまだ、潰えてはいない。

 勇者が小声で呪文を唱えると、ヴィッシュの身体が淡く発光し始めた。緋女も、カジュもだ。《転送門ポータル》の術。一歩間違えば命を失いかねない危険な禁呪……魔術が苦手な勇者ならなおさらリスクは大きい。だがそれは、裏を返せば、命を捨てる覚悟なら使って問題ないということ。

「ヴィッシュさん……

 あとは……頼みます……!」

 ヴィッシュたち3人の姿が光の中に飲まれて消え、たったひとり残った勇者は、剣を杖にして立ち上がった。ゆっくりと身体の調子を確かめていく。右腕の骨は完全に砕け、内臓は3つほど破裂し、片足は根元から千切れかかっている。長くはもたない。

 勇者の剣を振るえるのは、あと一度が限界か。

 ――よかった。あと一度なら戦える。

 勇者は顔を上げた。

 天空を埋める魔王の魔法陣。その中央に忌々しい真紅の光が収束し、巨大な、あまりにも巨大な、光の球体を形作っていく。あの魔王が、これほどの時間を費やして編み上げた術だ。どれほどの威力を秘めているか、想像に難くない。

 だが勇者は笑っている。

 希望はいつも、絶望の先に立ち上がる。

「エイジ! ぼく、ついに見つけたよ。ベンズバレンの後始末人ヴィッシュさん……彼こそぼくらの探してたひとだったんだ!

 まだ希望は潰えていない。

 あとのことはお願い。

 いままで……ほんとうに……ありがとう」

 魔王の術式が完成した。

 禍々しい赤の光球が、悪魔の絶叫を思わせる金切り声をたてながら、眼下の大地めがけて投げ降ろされる。

「最終禁呪――《世界滅亡の序曲オーヴァチュア》!」

 そのおぞましい光を正面に見据え、勇者は跳んだ。

 魔剣を構え、一直線に最終禁呪めがけて飛び上がった。

 なぜなら彼は、勇者ソールだ。

 勇者の戦いはつねにまっすぐ。

 為すべきことへ、常にまっすぐ!

「だ―――――っ!!」

 ふたつの光が天地の狭間で激突した。



   *



 爆風が大地を薙ぎ払い、火焔と黒煙が天を埋め尽くす。渦巻く暗雲のただなかに、魔王はひとり、悠然と浮遊している。感情の籠らぬ双眸そうぼうが眺め下ろす先には濃密な粉塵が立ち込めている。何ひとつ見通せぬ闇。まるで世界がこれから歩む道を暗示するかのように。

「さすがは勇者だ。命を賭して禁呪の威力を殺したか」

 風が吹きすさぶ。煙と塵とが洗い流されていく。地上の光景が見え始める。

 そこには、何もなかった。

 広大な土地が精密な真円形に切り取られ、完全に消滅していた。残されたのは遥か地平の彼方にまで広がる巨大なクレーターのみ。その外縁の崖が砂山のように脆く崩れ始めた。裂け目から内海の水が流れ込み、大穴の底を潮の中に沈めていく。

「大陸ごと吹き飛ばすつもりだったのに」

 魔王は、少し不満げに苦笑した。

消せなかったよ」



   *



「あ!?」

 声にならぬ声を上げ、ナダムは跳ね起きた。状況が掴めない。悪夢の中から突如現実に引き戻された不愉快な朝のように、記憶と認識が混濁している。辺りを見回す。ここは……城だ。石造りの壁に立派なベッド。そこに横たえられていた自分。

 腕を持ち上げてみる。完全に腐り果てた皮膚を、包帯でぐるぐる巻きにして辛うじて覆い隠した、どうしようもなく醜悪な腕。ナダムは膝を曲げ、背を丸め、ここまで全く呼吸をしていなかった自分に気付き、喘ぐように息を吸った。

 彼はミュート。死術士ネクロマンサーミュート――ナダムではなく。

「ちくしょう、またか」

 囁きながら自嘲気味に笑う。死んでいる間に夢を見ていた気がする。ペチュニアの鉢植えか何かに生まれ変わる夢だ。詳しいことは何も思い出せないが、穏やかな暮らしを求めていたのに周囲の環境がそれを許してくれない、という不愉快さばかりが頭に残っている。ちくしょう、またか。どうにもならない諦観と絶望の中で、ミュートは再び毒づく。ようやく望みが叶ったと思ったのに、ゆっくり死なせてももらえないのか。それはそうだ。一度蘇らせることが可能なら、何度だってできて当然……

「は!」

 ミュートは己の境遇を笑い飛ばし、軽業師顔負けの身軽さでとんぼ返りしながらベッドを飛び降りた。新しい身体はすこぶる快調。身体を覆う包帯も真っ白な新品。巻き方は、へたくそというか、気まぐれというか、あっちに巻いたりこっちに巻いたり落ち着きがないが、少なくとも下手なりに懸命ではある。間違いなくの仕事だ。

「ん~。魔王様が手ずから包帯巻いてくれるなんて、愛情感じちゃうね!」

 部屋の窓を押し開ければ、憎いくらいに晴れ渡った青空が広がっている。見覚えのある風景だ。ここはベンズバレン王国、王都ベンズバレン。はるか上空には、浮遊する魔王の姿が豆粒のように小さく見える。魔王の周囲に鮮やかな赤の魔力光が駆け巡り、巨大な魔法陣を描き出していく。

 《遠話》の術式に似ているが、かなりアレンジが入っている。より広範囲に、無差別に声を送ろうとしているらしい。名付ければ《演説》とでもいったところか。

 それにしても、しっちゃかめっちゃかな術式の組み方だ。術者の性格がよく出ている。あっちで歪み、こっちで間違え、しかしその後のアドリブで見事に辻褄つじつまを合わせて、結果として精密無比な魔法陣を完成させる。

 彼がここで、こんな術を使っているということは、いよいよ行動開始というわけだ。練りに練った計画が、発動する日がやってきたのだ。ミュートは窓辺に頬杖を突き、恋する乙女の視線で魔王を見上げた。

「かっこいいじゃない。ワクワクしてくるねえ、大将!」



   *



 その日、魔王の声は、突如として全世界の人々へ届いた。

『もう、我慢しなくていいんだよ』

 ある者は明るい陽光の下でそれを聞いた。またある者は穏やかで満ち足りた食事のさなかに声を受け取った。大多数の者たちは、不意に耳元で響きだした不思議な囁き声に眉をひそめ、いぶかり、小さな不快感を覚え、あるいは気にも留めずに聞き流した。

 だがそうはできぬ者たちがいた。

 ある魔族の剣士は、路地裏の暗がりの中で魔王の声に気付いた。彼は怯え、警戒し、つい今しがた犠牲者の血を吸ったばかりの剣を油断なく構えた。彼は暗殺者だった。彼は震えていた。追い立てられ、狩り殺される危険から逃げ続けてきた。この11年、人の世の闇の中でずっと。眠る暇さえないほどに。

『もう、怯えなくていいんだよ』

 別の街では、売春宿の寝床の上で、裸の太った男がうつぶせの娼婦の尻を撫でていた。彼は魔王の声に首を傾げるばかりだったが、娼婦は違った。白く美しい肌を好き勝手に揉みしだかれ、その屈辱に歯を食いしばって耐えながら、魔王の囁きへ慎重に耳を傾けていた。彼女はエルフだった。敗北し、肉体を略奪されつくした、魔族の娘の成れの果てだった。

『君たちには、牙をき抗う権利がある』

 人里にほど近い森の中では、一匹の小鬼ゴブリンが、狩人の追跡から逃げ惑っていた。道なき道を喘ぎながらひた走る。猟犬はぴったりと彼についてきている。狩人の弓矢がそこらじゅうの物陰で狙いを定めている気がする。腕も、脚も、腹も、顔も、身体という身体にあまさず傷を負い、疲労の限界にありながらそれでも足を止めることは許されない。泣きながら逃げ続ける小鬼ゴブリン、彼の名はコバエと言った。

 彼は駆けながら魔王の声を聴いた。平易な単語を選んで練られた魔王の言葉は、知能に劣るコバエでもところどころ理解することができた。

『僕が力を与えてあげる』


『我が名は魔王、クルステスラ』


「うー……」

 雨に濡れた山頂に、盲目の娘がうずくまる。娘は鬼だった。言葉は分からなかった。だが愛の歌は知っていた。なぜだろう、魔王の言葉が音楽的に彼女の胸に響く。思い出すたび切なく胸を締める、大好きなひとのあの歌声のように、魔王が彼女を魅了する。

 鬼の娘は立ち上がった。使いすぎて半ばで折れて、それでも握りしめて離さずにいた手作りの棍棒が、ぶらりと腕から垂れ下がる。

「うっ、うっ……うーっ!」


『愛するものを得んとして、得られず悶えるものたちよ』


「ボスゥ! なんすかこの声!?」

 焼け野原と化した辺境の街で、竜人ヴルムフォークの盗賊が声を裏返した。竜人はその名の通り、ヒトとヴルムの血を共に引く一族。全身は強靭な鱗に覆われ、四肢には大鬼や巨人すら凌駕する筋肉を備え、ヴルムそのものの頭部からは爆炎を吹くことさえあるという。

 その圧倒的な武力でもって辺境を荒らしまわっていた盗賊団が彼らであった。

 竜人盗賊団の首領が、のそり、と長い首を持ち上げた。彼は戦いが済んだ後、後始末を手下どもに任せ、自分は面倒くさそうに横になって牛の丸焼きをつまんでいたのだ。それがぎらりと黄ばんだ眼を輝かせ、大地さえ振るあげるほどの大音声を響かせる。

「なんでえコイツァ。魔王だあー?」

 首領が地面を踏み割り立ち上がる。足元の牛の死体が風船のように弾け潰れる。まっすぐに立った首領の体躯は、他の竜人たちが子供に見えるほど。彼は近くに突き刺しておいた分厚い鉄板を――否、巨大という表現さえ追いつかないほどの巨大剣を、玩具のように軽々と肩に担ぎ上げる。

「いいね!! おもしろ強そうじゃねーかァ―――――ッ!!」


『平和の時代の狭間に埋もれ、振るうべき力を持て余したものたちよ』


「うふっ、うふふふふ!」

 コープスマンは上機嫌に笑っている。彼が意気揚々と歩みを進めるは、超大型飛行魔獣“マンタレイ”の中央通路。ついにこの日がやってきた。“企業”の将来を占う超大型プロジェクト、その総責任者として、コープスマンは慎重に慎重に計画を練ってきた。耕し、種をまき、丹念に水やりをして、愛情たっぷりに育ててきたのだ。

 その集大成、“魔王計画”が、ついに花開く時がやってきた。

「さーてみなさん! 大変長らくお待たせいたしました!

 シーファちゃーんっ! 出番だよーっ!!」

 彼の呼び声に応え、闇の中からが滲み出る。


『正義という暴力に押し殺され、自らを磨り潰すしかなかったものたちよ』


『君たちの懊悩が、僕には分かる。

 君たちの苦悶が、僕には聞こえる。

 力ある者どもが、ただ力あるというだけで、他者の人間性を蹂躙する権利を持つのなら、僕らが立場を逆転させて何の問題があるだろう?

 君たちの望みは、分かっている。

 願いは扉。

 言葉は鍵。

 ふたつが揃ったとき、僕らは新たな世界へ導かれる。

 ゆえに集え。世界の隅々で苦しみ続けるものたちよ。

 刃を取れ。いじめられたもの、奪われたもの、まつろいきれぬものたちよ。

 我が名は魔王、クルステスラ。

 僕が君たちに、戦う力を与えてあげよう!』



 魔王が世界の中心で、両腕を振りかざし舞い踊る。彼の動きのひとつひとつが術式と化して力を放ち、地の底から地獄の亡者どもの朽ちかけた肉体を引きずり上げた。湧き出た血の結晶に城の石壁が覆われていく。複雑に絡み合う骨がおぞましい城壁となってそびえ立つ。城の中心からは血赤色の天守が雲を貫かんばかりに伸びあがる。荘厳華麗でしられたベンズバレンの王城は、今や悪夢の如く禍々しく、しかし妖美と形容するほかない姿へ生まれ変わった。

 魔王城の完成だ。

 そこに世界中から魔物どもが集まってくる。魔族の剣士が、術士が、娼婦に身をやつしていた姫が、あるいは生きるために小さな盗みに手を染めるしかなかった小物たちが。小鬼ゴブリンが、岩砕き鬼が、大鬼が。墓の下から這い出してきた雲霞の如き死霊アンデッドの群れが。ひときわ異彩を放つ巨人ゴルゴロドンの巨大骸骨が。大小さまざまの魔獣どもが。ヴルムが。どさくさに紛れて人間社会のつまはじきものどもが。一縷の希望にすがるように、魔王の元へ馳せ参じてくる。

 それら魔物どもを率いるは、いずれ劣らぬ英傑たち、ひと呼んで魔王軍四天王。

 死を超えた者――死霊軍団長、玉杯のミュート。

 盲目の鬼娘――魔鬼兵隊筆頭、契木ちぎりぎのナギ。

 一騎当億――ドラゴン旅団長、竜剣のボスボラス。

 魔王軍の金庫番――財務主任、奇貨のコープスマン。

 そして、最強――狂気の剣士、道化のシーファ。

 彼らは城の大広間にひれ伏し、一様に頭を垂れた。

 城を埋め尽くす魔物たち。それらから向けられる尊崇と畏怖と野心の全てを平然と受け止めながら、魔王は、ひょいと食卓につくような気楽さで骨灰色の玉座に腰を下ろす。

「さあ、ちょっと世界を滅ぼしてみようか」

 魔王は悠然と片肘をつき、にこりと無邪気に微笑んで見せた。

「なにしろ僕は、魔王だからね」



 この瞬間、人間たちの勝利と栄光の時代は終わりを告げた。

 時代が動く。

 戦いが始まる。

 後の世、この戦いは“第二次魔王戦争”と呼ばれることになるだろう。

 “後の世”などというものが、残っていればの話だが。



(つづく)

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