第83話 おやすみ

好意に預かり、私がシャワーを浴びている間に、料理の用意をしてもらい。2人と1匹でリゾットを食べ、大森さんが持ってきた赤ワインを開ける。


ミカンさんはワインに弱いらしく、1杯飲むと、椅子の上で身体を丸め、大きなあくびをすると、頭を体に埋めて丸い毛玉になった。


「小夜ちゃんの部署は大変そうだねー」


身に降りかかる最近の出来事を私が話すのを大森さんは聞き、苦笑いしながらワイングラスを揺らす。


「私ばかり話しちゃってごめんね」


「いいのいいの、気にしないで」

大森さんが顔を赤らめて笑う。

眼帯には「貴方から見て何目?」と哲学めいた言葉が描かれている。


「ねえ」

私のよびかけに「なに?」と片手をテールにつき、頬を支えながら顔を傾ける。


「幽霊が見えるのって、どんな感じ?」


「んー」

片目を瞑り、苦しそうな顔をする。


「その質問の答えが1番難しいんだよね」


「どうして?」


「私は小さい頃から幽霊が見えていたから、私にとってはそれが普通であって、幽霊が見えないのは私にとって普通じゃないんだよね」


そう言うと、ワインを口に含んだ。

だいぶ酔っているようで、眠そうな目をしている。


この子にとっては常に身近に幽霊がいることが普通なのだ。裏飯屋にいた幽霊店員を思い出し、少し腕に鳥肌が立つ。


色々な事が起こっていたので、感覚が麻痺気味だったが、思い返してみると、幽霊店員も、店内にいた客も恐ろしい風貌で、夜中に一人で遭遇したら卒倒していただろう。


それがこの子の日常。

私から見たら普通の女の子に変わりないのに。


「みんな幽霊が見えるようになればいいのに」


大森さんの心の声が漏れたが、それは私としてはごめんこうむりたい。



「今日は泊まってく?」



酔っぱらった女の子を夜遅くにを帰すわけには断じていけない。私の問いに対し、嬉しそうに答える。


「ありがとう。そうするー」


テーブルに腕枕を組み、今にもその場で眠りだしそうだ。


「ほらほらベッドに行くよー」


脇に両腕をまわし、身体を持ち上げる。

小柄な体格なこともあり、とても軽い。つい、私の体重と比較してしまい、心が傷付く。


「一緒に寝るー」


ずるずると引きずり、ベッドの上に寝かせると、寝ぼけながら腕を掴まれる。


「はいはい、わかりました」


ブランケットを一枚持って行き、椅子で丸くなっているミカンさんにかける。どちらが頭かわからなかったが、あっていただろうか。


スリッパを脱ぎ、ベッドに横になると、大森さんが抱きついてきた。


「ねえ、私の事は、凛って下の名前で呼んでほしい」


私は頷き答える。

「わかった」


「ずっと、呼び捨てで話し合えるような友達が欲しかったの、幽霊が見えて変かもしれないけど、これからも仲良くしてほしい」


「もちろん、こちらこそよろしくお願いします。今日はもう寝ましょ」



「うん。おやすみー」


「おやすみ」








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