第72話 塩
大賀補佐から私宛に言付けがあり、午前中は補佐が昨夜の出来事を報告するので午後からの出社で良いとの事だった。
それと、出社する前にヒナミさんの所へ行き、面長のツヨシを元に戻せないか確認してきてほしいと、大森さん経由で伝えられた。
昨夜何をしたか覚えていないが、大賀補佐に迷惑をかけたのは間違いないだろう。会うのが怖い。
朝食を食べ終わり、出勤する大森さんと一緒に家を出る。
新しい歯ブラシを貰ったりと、いたれりつくせりで頭が上がらない。
「また遊びに来てね」
そう言うと、大森さんは駅の方へ歩いて行った。
私は人形を抱えて、自宅に向かう。
大森さんの住むアパートは私の自宅に近く、歩いて数分の距離だった。
「ねえ」
自宅に着き、人形に声をかける。
「人の視線を感じたんだけど、気のせい?」
大森さんの家を出てから、自宅に着くまでの間、誰かに見られている感覚がした。視線がする方を見るが、誰もいない。
「気付いたか?」
人形は嫌な返し方をした。
「たくさんの幽霊がお前を一目見ようと溢れていた」
私は背中に悪寒を感じて、急いで玄関扉を開け、中に入ると鍵を締めて遮断した。
腰から崩れ落ち、お尻を冷たい玄関の床にぶつける。
「なんで?」
「幽霊や妖怪は噂好きな連中だから、昨夜の出来事が一夜で広まったんだろう。化け猫と酌を交わす人間ってだけでも珍しいことだが、妖怪と相撲をとる人間はもっと珍しい。一躍有名人だな」
人形は私の腕から離れ、部屋に向かって歩く。
「途中、ふんどし姿の落武者が相撲とりたそうにお前を見ていたぞ」
両腕に鳥肌が立ち、まだ誰かに見られている感覚がする。
「塩! 塩をまかないと!」
慌てて、人形を飛び越え、キッチンに向かう。
収納棚から塩の入った瓶を取り出す。
「塩って、本当に幽霊に効くんですか!?」
「塩ならだいたい効力がある。クレイジーソルトが香草とかが入っていて1番効果あるけどな」
食塩の赤い蓋を外して、ところ構わず塩を振りまく。
お風呂場とトイレには念入りに塩を振りまく。
「汚い部屋がもっと汚くなるな」
そう言う人形にも食塩をお見舞いする。
人形をひとまずトイレに閉じ込めて、仕事用のスーツに着替え、リュックサックに念の為、瓶ごと塩を入れる。
身体の痛むところに湿布を貼る。ミカンさんに手酷くやられたようで、痣になっている。
鏡を見ると、首の痣も残ったままだ。働いてから傷が耐えないのは私だけだろうかと、自然とため息が出た。
早々に同期の家にもお邪魔してしまって、大森さん迷惑だったろうな。
思えば、私はまだ大森さんの事を何も知らない。
まだ出会ったばかりなのに、友達と呼んでくれて、何一つ嫌な素振りをしなかった。
色々話して、もっとお互いを知って仲良くしないとな、と反省した。
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