第13話 内定書

「簡単に言うと、地方公務員ですね」


やった。内心ガッツポーズをした。

でも、おかしい。こんな簡単に内定を貰える訳がない。まず、筆記の公務員試験を受けていない。



「ただし、表向きは存在していません」



ですよね。うまい話には裏がありますよね。


存在してない会社に採用される。しかも、自治体を名乗る。絶対、共済保険には入れないだろう。



「安心して、保険には入れるから」


「あの、さっきから心読んでます?」



大賀さんの微笑みが、本当の悪魔的な笑みに変わった。


「ええ、少しばかり」


なにそれ、やばー。


まずい、採用が取り消される。

何も考えないようにしなくては。


無心、無心アンド無心。


大賀さんは立ち上がると、膝の埃をパンパンと叩いている男性の耳元に口を近づけ、囁いた。


しかし、地声が大きいのか、丸聞こえだった。

「少し心配になるぐらい、図太いです」

それは、褒め言葉として受け取って良いのだろうか。



男性は椅子に座りなおすと、シャツの胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出した。


「改めてだが、自己紹介しておこう。私は課長だ。名前はない。ただ、課長と呼んでくればいい」


「それと、これが」


取り出された紙を差し出すので、受け取った。


A4版の白紙が無造作に四つ折りされて、手のひらに収まるくらいの大きさになっている。



「君への内定書だ」



しわしわと広げると、確かに内定書と書かれていた。むしろ内定書としか書かれていなかった。




「あの、名前とかが書かれてないんですけど、有効ですか?」


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