第二百四十六話 魂の容量、命の使いどころ④
咄嗟にメームちゃんが魔王の鎧を纏い雷を防ぐのだが、その一撃で鎧は砕け散ってしまった。衝撃で地面を転がるメームちゃんの元に駆け寄り俺は抱き起こす。
「メームちゃん、大丈夫?」
「うん、めーむはだいじょうぶだよ。でも、よろいはもうげんかいだった」
ここに来るまでに度々使用してきたらしい魔王の鎧は消耗し限界がきていたようだ。
そして再び空から声が響く。
―― おまえらは、世界というプログラムのなかでは不要なコード、ウィルスの様な存在なのだぁ。このまま放置しておくわけにはいかないべ~ ――
「な、ななな、なんですか、今の滝○順○みたいな声はっ!?」
おい待てぽっぴん。なぜおまえが知っている? なんでおまえがド○ロベ○様の声を知ってるんだっ!
まあそれはいい。空から響いてきた声は○口○平だけど、これは一体? その答えを確認しようと俺はソフィリーナの方を見た。すると、ソフィリーナは青褪め微かに震えているようにも見えた。
「ソフィリーナ?」
「べんりくん……。この声は、全能神様よ」
駄女神―ズの言っていたその名前。その神の前でクロノスフィアとソフィリーナは結婚の誓いを行うと言っていたのだが、結婚式自体がクロノスフィアのでっち上げた嘘だったわけだから、当然全能神もここには来ていないはずだ。
「くそ、一体どこに居るんだっ!? 姿を見せろっ!」
俺が叫ぶと再び空で雷鳴が響き雷が降り注ぐ。
「エクスカリボオオオオオオオオンっ! くっ、このままではいずれ、あれを喰らってしまいますよ」
間一髪ローリンが雷を相殺する一撃を放つのだが、確かにいつまでもこうやってやり過ごせるとは思えない。全能神も俺達が反応できるように雷を落としているようにも感じる。
「とりあえず、今は一旦ここを離れて安全な場所に……うっ」
走り出そうとした時、俺は再び腹の辺りに違和感を感じて吐血した。その場に膝を突くと大量の汗をかき、自分の身体が異変を来していることを知る。
前腕の外側に爬虫類の鱗の様なものが薄く浮かび上がって来ていた。ソフィリーナが俺の顔を覗き込むと震える声で言う。
「べんりくん……眼が……」
「な、なんだ? 眼がどうしたんだ?」
ソフィリーナは涙目になると俯き黙り込んで唇を噛んだ。それ以上なにも言えないといった様子であったが、メームちゃんが俺の頬に両手を添えると、自分の方へ向かせて目を覗き込む。
「べんり、みぎめがきんいろになってる」
それは、クリューシュやレイドエルシュナ、そして竜力転身したアモンやアマンダの瞳と同じ色。竜族の持つ黄金の瞳を意味しているということだ。つまり、俺の体は徐々に竜へと変わっているという証拠に他ならない。そして、魔力を持たない俺はその力に抗うことができないのだ。
「だいじょうぶだよべんり。めーむもいっしょだから。べんりがしぬときにはめーむもいっしょだから」
そう言うとメームちゃんは俺の頭を抱き撫でてくれる。その横で獣王も、なにもすることのできない己が許せないと、自分のことを責めていた。
覚悟はしていた。わかってはいたことだ。クリューシュに言われた時から、そう遠くない内に俺は死ぬんだとわかってはいたけれど。
「こんなの……。こんな……嫌だ……。死にたくない。まだ、なにも終わってないじゃないかっ! なにも救っていないのに、こんな終わり方は……嫌だ……」
「べんりくんっ!」
「べんりくんっ!」
「べんりさんっ!」
ソフィリーナもローリンもぽっぴんも、我慢しきれずに泣きながら俺に抱きついてくる。
「嫌だっ! 死にたくないっ! なんでこんなっ、なんで俺がこんな目にあわないといけないんだよっ! なんで俺ばっかり、誰か助けてくれよっ! お願いだから助けてくれよぉぉぉぉ」
「ごめんねべんりくん。ごめんねごめんね。べんりくん、ごめんねぇぇぇ、あぁあああん」
泣きながら謝るソフィリーナ。その間にも俺の体は徐々に変わって行き苦痛が全身を覆う。
怖い、死にたくない、苦しい、痛い。なんでこんなことになっちまったんだ。神を倒して世界を救えばなんとかなるだろうと思っていた。なんだかんだで正義の神様とかが現れて、「よくぞクロノスフィアの野望を砕いてくれた。褒美にお前の身体の内にある呪いを解いてやろう」とかなるんじゃないかと思っていた。でも、そんな都合のいい展開はこなかった。
たった数回だぞ? たった数回この無敵の力を使っただけなのに、どんな漫画やアニメの主人公だって、最強の力をたった数回使ったくらいじゃ死なないだろうよ。チート能力を手に入れた代償がこんなんじゃあ、俺最強ラノベ主人公として成り立たないじゃないかよぉ。
「ごめんソフィリーナ。ごめん皆……。なにもできなくて、最後の最後まで役に立たなくて」
「そんなことないっ! 前にも言ったでしょ? べんりくんがなにもしていないなんてことは一度もなかった! べんりくんが居なければ、べんりくんじゃなかったら! 私達は皆……そんな……そんなべんりくんが大好きなんだから」
その言葉に、俺は死の恐怖が和らいだような気がした。
あぁそうか、人はきっと死ぬのが怖いんじゃないんだ。人はきっと、死の際に孤独であることが怖いんだと、俺はその時そう思った。
だから俺は、きっとこれは幸せな死の内に入るんだろうなと、そう思うとなんだか急に申し訳ない気持ちになってしまった。
だから、俺は全員の顔を見ると最後に笑った。
「ありがとう、こんな俺を好きになってくれて」
雷が落ちると真っ白な光が辺りを包み込み、俺の意識はゆっくりと薄れていくのであった。
つづく。
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