第二百三十九話 あの素晴らしい日々を取り戻す為に②
長い長い旅をしてきたような気がする。深夜のコンビニアルバイトをしていただけなのに、異世界にやってきて色んな事があった。その極めつけが神様達の住む世界でその神様を相手に戦う、て言うか結婚式を邪魔して花嫁を奪い取ろうなんてことになるなんて誰が想像できただろうか。もし、俺の人生という物語を描いている、そんな神の様な存在が居たとしたら、そいつでさえも当初はそんなこと考えてもいなかっただろう。
というわけでそんな前置きもここまでにして、いよいよクロノスフィアとの直接対決。決戦の日である挙式の日がやってきたのである。
「それにしてもクロノスフィアの奴、私達を招待しないなんてマジで嫌な奴よね」
駄女神ーズは誰も結婚式に招待されなかったらしく皆してブーブー文句を垂れていた。たぶん、おまえらを呼んだら式がむちゃくちゃになるって思ったんだろうな。三日間一つ屋根の下で生活して、こいつらの堕落っぷりはよくわかったからな。
「まあいいわ。べんりくん、作戦通りお願いね」
「ああ、わかってるよ。新婦が入場した所で俺が乱入して連れ去った後に、おまえ達駄女神ーズが突入して誤魔化すって段取りだな」
「駄女神ーズって言うなっ!」
だって、駄目な女神達の集まりじゃん。まあそれは置いといてこの段取り、はっきり言って上手くいくわけがないと俺は思っている。たぶん、ローリンとぽっぴんも思ってる。元々ガバガバな作戦な上に、これまでの流れから見てすんなり行かないことは明白だろう。必ず何かしらの妨害や問題が発生する、まあそれは駄女神ーズ達には黙っておこう。
結局考えたところで俺達のできることは、強引にソフィリーナのやろうを連れ戻すということだけだ。クロノスフィアの家に乗り込んで連れ去るってこともできるが、だったらいっそのこと結婚式に乗り込んで、親族の前で連れ去ってしまったほうがバツが悪くてソフィリーナも戻り辛くなろうだろうしな、なによりクロノスフィアの野郎が悔しがるだろうからザマぁみろってんだ。
「ところで今更なんだが」
俺が真面目なトーンで話し始めたので皆も神妙な面持ちで見てくる。俺は深呼吸をすると大事なことを告げた。
「ここに居る突入部隊の中で、ぽっぴん以外は誰もクロノスフィアのことを見たことがないんじゃね?」
俺の言葉に全員がハッとなる。マジで誰も気づいてなかったのかよ?
クロノスフィアが現れた時、俺は竜力転身を初めて使った反動で気を失っていた。ローリンは地上で聖騎士として帝国軍と共に居たし、獣王はなにをしていたのかすら知らんし興味もない。
「ぽっぴん、クロノスフィアってどういう外見だったんだ?」
「とにかくいけ好かない感じの野郎でした。常に余裕ぶったニヤケ面で偉そうに喋って人の神経を逆撫でする上に、似合わない長髪とぶっとい眉毛が生理的に受け付けなかったですね」
酷い言われようである。とりあえずクロノスフィアの野郎、ぽっぴんには相当嫌われているとうことだけはわかった。
「まあなんでもいいや、行けばわかるだろう」
すると獣王が前に出てきて俺のことを見上げて不安気な表情を見せた。
「べんり、メイムノーム様のことなんだが」
「わかってるよ獣王。おそらくメームちゃんのことだ。ここまでクロノスフィアの身辺になにもなかったってことは、今日の結婚式を狙ってくる可能性が高いはずだ」
獣王は真剣な表情で頷く。俺は全員の目を見ると大きく頷いた。
「メームちゃんと合流して、ソフィリーナを連れ去ったら俺達の勝ちだ。その後のことはその時考えればいい。クロノスフィアとやりあうにしても、
俺は決意を新たに拳を突き上げると、皆も一緒に声を上げるのであった。
出発の間際、女神の一人で一番落ち着いた雰囲気のお姉さんが俺に近づいてくると、小さな声で話しかけてきた。
「べんりくん、これを持って行ってください」
「これは、スターサンドの砂時計ですか?」
俺がそれを知っていたことに女神は驚くのだが、前にユカリスティーネに同じものを貰ったと言うと女神は、ならもう使い方は知っているだろうと言って微笑んだ。そして、すぐに真剣な面持ちになると俺に告げる。
「べんりくん。一度廻り始めた運命の歯車は、そう易々と止められるものではありません」
「え? それってどういうことですか?」
「神が聖戦を起こすと言ったのです。今は人間と竜族の直接的な対決は
俺はなんとなくその大きな力の存在を想像する。
火竜レイドエルシュナ、そして
だとしても……。俺は大きく首を横に振ると笑顔で女神に告げた。
「俺は時の歯車の力によって、そんな運命の、世界の摂理の外側に居るらしいんです。だとしたら、俺は絶対的な運命であっても変えられるって、そんな風に思えるんです。これで少しは、異世界に転移してきた主人公らしいことができるかな? だから、絶対に取り戻して見せますよ」
そう、俺は絶対に取り戻して見せる。
あの、異世界での楽しかった、素晴らしい日々を。
つづく。
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