第二百三十八話 あの素晴らしい日々を取り戻す為に①
決戦は三日後の金曜日。
時の神殿内で行われるというクロノスフィアとソフィリーナの結婚式。その場に乗り込んでソフィリーナを強奪して式をめちゃくちゃにしてやろうという作戦だ。
世界をリセットする聖戦を止める為、クロノスフィアを倒しにこの神界にやってきたはずなのだが、いつの間にか結婚式をぶち壊しにすることになっていた。まあそれは仕方ない。仕方ないのだが。
「本当に上手く行くのかよぉ?」
怪訝顔で駄女神ーズに尋ねると、女神達は笑いながら答える。
「大丈夫大丈夫、全能神様はそういうメロドラマみたいな展開大好きだから」
「そうそう。大体クロノスフィアはソフィのことを好きなわけじゃないんだから、べんりくんだって引き下がれないでしょ?」
ヘラヘラと笑いながら答える女神達はいつの間にか酒盛りを始めていた。
こいつら、昼間っから飲んだくれてまるでソフィリーナみてえだな。
というわけで酒を飲みながら当日の作戦を立てることになるのだが、話を進めていくうちに妙な話しになる。
「あなた達の持ってるギアム。随分旧式なのね」
「これを知っているのですか? そう言えばあのいけすかねえ野郎も私のぐるぐるロッドを型落ちギアムと言ってました」
ぽっぴんは杖を見つめがら「むぅ!」と不愉快な顔をする。そしてローリンもエクスカリボーンを取り出すと女神達に見せた。
「私のエクスカリボーンも同じでしょうか?」
「こっちはもう初期型も初期型。こんな大型で重量もあって汎用性のないギアムじゃ使いづらくなかった?」
「いえ、特に不便だと感じたことはないですが?」
ローリンも怪訝顔で答える。確かにエクスカリボーンって異常に重いし、エネルギー波を放つだけでぽっぴんみたいに色んな魔法を撃てないよな。て言うか、なんで女神達はこんなにシンドラントのギアムについて詳しいんだ?
「なんでそんなに詳しいんだよ?」
「なんでって? そりゃわたし達女神だし」
なんだそりゃ、全然答えになってないじゃないか。俺が不満気な表情をすると、女神達はごめんごめんといった表情で付け加える。
「ソフィリーナも
「はあ? なにを」
「ギアムを」
なにを馬鹿な事をと思っていると、ぽっぴんが驚きの声を上げて立ち上がるのだが、なにか合点がいったような表情になると再び椅子に座った。
「なるほど、やはりソフィリーナさんのゴッデスウォールやゴッデスミラー、ほかの技はギアムを使って繰り出していたのですね」
「そうよ。あの子、防御系のギアムの操作が得意だったから。いくつか攻撃系のギアムも使えるけど、やっぱり防御かなぁ」
つまりソフィリーナはギアムのことを知っていたのだ。やっぱりなにもかも知っていて黙っていたのだろうか。メームちゃんのことも……。ローリンも同じように思ったのだろうか、女神達に質問をする。
「どうして、シンドラントのギアムのことを知っているのですか?」
女神達は顔を見合わせると困ったような表情になり苦笑する。しかし、その質問にはっきりとは答えてくれなかった。「それは、いずれ追々話すわ」とだけ言って、それ以上ギアムの話はしなかった。
明らかに女神達がその話を切り上げたいといった雰囲気をだすので、俺達もなんだか深く聞けずに、話題はどのタイミングで結婚式の邪魔をするかに移った。
話している内に喉が渇いてきたので、俺もオレンジジュースを飲むのだがなんだか変な味がして吐き出してしまった。
「なんだこれ? 変な味がする。腐ってんじゃないのか?」
「えぇ? さっき冷蔵庫から出して封を開けたばかりですよ?」
ローリンが臭いを嗅いで少し口をつけるのだが、特に変わった感じはしないと言う。ぽっぴんも同じく普通のオレンジジュースだと言って、俺の味覚がおかしいんじゃないかと言われてしまった。
確かに変な味がしたんだけどなぁ。と思いつつ再び俺はそのジュースに口をつけるのだがやっぱり不味い。なんだかそれ以上なにかを口にする気がしなかったので、それでやめるのであった。
そんなこんなで、俺達が乗り込んで行ったところで、新型の高性能ギアムを使うクロノスフィアを相手にするのはかなり骨が折れるだろう。実際アモンを赤子の様にあしらったのだ、強力なギアムであることは間違いない。とは言っても、あいつ自身は特別戦闘に慣れているわけでもないから、チャンスはあるだろうというのが女神達の言い分であった。
あとは、その場にいる親族達や列席者達を巻き込まないように、細心の注意を払いつつ作戦を決行しようということで話は終わった。
結局、作戦と言うような作戦ではなく、ノリと勢いで花嫁を掻っ攫えといった感じだが、いつもそんな感じでなんとかなってきたし。他の神々の居る前でクロノスフィアも無茶はしないだろうと高を括ることにした。
そうして話し合いもお開きになろうとした所で俺はある違和感を覚える。なにかが足りないような気がするのだが一体なんだ? いつもはこう、もう一人、なんだかうだつの上がらない奴が話題に混じってきていたはずなんだが……。
「あ……」
「どうしたんですかべんりくん? なにかありましたか?」
ローリンが怪訝顔で尋ねてくるので俺はその違和感の正体を口にするのであった。
「獣王は、どうしたんだ?」
慌てて駆け付けると、一晩中木に吊らされ続けていた獣王は、干物の様になっているのであった。
つづく。
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