第二百三十話  異世界ダンジョンにコンビニごと転移した日から②

 コンビニのあった場所に開く大きな洞穴、アモンの放った一撃で俺達は帰る場所を失った。真っ暗な穴を見つめながらローリンは膝を突き泣き出してしまうのであった。



 竜王の城を出た俺達はメームちゃんの向かった場所を報告しに、リリアルミールさんの元へと戻った。クリューシュは、クロノスフィアとの最終決戦には必ず駆け付けると約束して魔界に残った。

 ミルルフィアムとメルルシャイムは一足先にメームちゃんの後を追うと言って俺達とは別行動となった。

 そのメームちゃんの向かった先とは俺もよく知っている場所、時の狭間である。ユカリスティーネと初めて会った場所であるがあそこはほんの一部分であって、竜王曰く時の狭間とは時の管理棟を入口とし、広大に広がる神の住まう場所だと言うのだ。


 リリアルミールさんは俺が一人で突っ走ったことを責めはしなかった。ただ「メイムノームのことをお願いします」そう言って微笑んでくれた。そしてビゲイニアも。


「次の戦いはおそらく、クロノスフィア・クロスディーンとの直接対決になるであろう。今度こそ、その時には私も駆けつける」


 と、眼鏡をくいくいと上げながら息巻いていた。


 そして、俺達は再びコンビニへと戻ってきたのである。



「コンビニもなくなって、パワビタンも無くなっちまってここから先の戦いも厳しくなるだろう。ローリン、またおまえに負担を掛けちまうと思う」

「ちがいますべんりくんっ! そんなの、そんなことはどうでもいいですっ! 悲しくないんですか? 悔しくないんですかっ!? 私達皆の想い出の詰まったコンビニがなくなってしまったんですよ? 私は辛いです。私の大好きな場所がなくなってしまったことが、とても寂しいんですっ!」


 俺は泣きじゃくるローリンの頭を撫でてやり慰める。そりゃあ俺だって悲しい、仕事先がなくなってしまったんだぞ、この先どうやって生活して行けばいいんだっ!


 なんてのは、向こうの世界に居た時にはそう思ったのだろう。けれど、今はコンビニがなくなったことが本当に悲しかった。俺もローリンと思いは一緒だ。このコンビニごと異世界へやって来たからこそ、俺はこれまでこの右も左も知らない世界でなんとかやってこれたんだと思う。コンビニがなければ、ただ単に着の身着のままでこの異世界に放り出されていたら、俺はとうの昔に野たれ死んでいただろう。


 だとしても、どんなに悲しくてもどんなに辛くても、俺は前を向いて進まなくちゃいけないんだ。たとえコンビニがなくなったとしても、そこで働いていた俺達が居るのだから。そう、だから俺はこう言い切れる。



「俺が、コンビニだっ!」



 その瞬間ローリンとぽっぴんは「はあ?」と揃えて声を上げた。


「いやいやべんりさん。なんですか? コンビニマイスターにでもなったんですか?」


 ぽっぴんおまえ、なんでガン○ム00を知ってるんだよ? 


 ローリンもどうやらそのネタはわかったらしく、クスクスと笑っていた。そして涙を拭いながら立ち上がると俺のことを見て微笑んだ。


「ほんと、おかしいです。でも、べんりくんらしいです。私は、そんなべんりくんの事が好きです。大好きですべんりくん」

「おー、それはよかった。俺もおまえのことは好きだぞ?」


 ん? 待てよ? あれ? なんかこの返事は違うような気がする。あれ? これってひょっとして?


 ローリンは俺の返事に顔を真っ赤にしながら驚いた表情になると、目がうるうると潤み始める。そしてなにか言おうとしたその時。


「ちょおおおおおおおおおっと待ったあっ! なに二人だけの世界に入ろうとしているんですか? はあ? 私のことは無視ですか? それを言うなら私だってべんりさんのことが好きですっ!」

「は? おまえいきなり何言ってんだよ。そんなこと張り合って言うもんじゃないだろ?」

「はああああっ!? べんりさんこそ何を言っているんですかっ! 私達は熱いくちづけを交わした仲であるということをもう忘れたのですかっ!?」


 ぽっぴんもなにをムキなっているのか、真っ赤になりながら捲し立ててくる。ローリンは唖然とした表情で俺達を交互に見るとふるふると震えながら叫び声をあげた。


「く、く、くくく、口づけってなんですかああっ!? そ、そそそ、それって、ぽっぴんちゃんとべんりくんが、き、きききき、キスしたってことですか? え? なんですか? 冗談ですか? ははは、やだなぁ、二人とも」


 落ち着けローリン、目が笑っていないぞ。俺はなんとか誤魔化そうとあの時のことを説明することにした。


「と言うわけで、あれはそのなんだ。魔力の充電であって、そういうのとはちが」


 黙って聞いていたローリンであったが真っ青になると、ひゅーひゅーと呼吸しながら気を失いそうになっている。よろめいたローリンを抱きかかえるのだが、俺の腕の中で上目遣いになり甘えた声をだすローリン。


「私もう駄目です。もうこれ以上戦う気力が湧いてきません。この無気力状態を治すには、べんりくん?」

「はい? な、なんでしょうかローリンさん?」


 俺が質問をすると目を瞑って顔を近づけてくるローリン。なにこれ? 馬鹿なのこいつ? できるわけないでしょう、そんな理由でキスなんて。


 そこへぽっぴんも俺の腕に掴まり、火竜との戦いでMPが尽きたのでまた充電してくれとせがんでくる。

 ちがう、ちがうぞお、異世界チートハーレム主人公を一瞬夢見た俺だけど、なんかこれは違うぞお。


 二人して目を瞑り俺に迫ってくるのだが、その時背後の穴の奥から何かが飛び出してくると、俺は顔になんだかモフモフした感じと唇に湿った感触を受けた。



 俺は女子二人とではなく、穴から飛び出してきた獣王とディープキスをしてしまうのであった。



「「おええええええええええええええええええええええっ!!」」




 つづく。

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