第二百話   それは、あなたの下着です。

 くそっ、このおしゃれ泥棒め。こいつの戦闘スタイルは大体把握したぜ。なんらかの能力で相手の衣類を奪う事により動きを封じて、その隙に攻撃を仕掛けるという卑怯な戦い方に違いない。

 ズボンを奪われたブッチャーハシムは、イチモツを隠す為に内股にならざるを得ず俊敏な動きを封じられた。また、両手で隠さなくてはならず攻撃も封じられる。最後にその羞恥心から攻め気と大胆さをも封じ込められてしまった。

 戦士にとって鎧とは戦場に立つ上での戦闘衣装だ。それを失えば闘志も失われてしまうだろう。


 シャックスのエンリカス、恐ろしい奴だ。しかし、相手が悪かったな。おまえがこれから戦おうとしている奴は、そんな羞恥心なんて物を微塵も持ち合わせていない奴だ。リサを相手におまえの技は通用しない。


 そう思い俺はリサの方を見るのだが。


「べ、べんりさん……二人目にして、お、恐ろしい相手が現れました。よもや、あんな奴が敵に居ようとは、奴は最早私にとって天敵と言ってもいい程の能力の持ち主です」


 青褪めながらエンリカスのことをそう評するリサ。


「なんでだよっ! あれほどおまえにとって御しやすい相手はいないだろう? とっとと脱がされて来いよっ!」

「なにを言っているのですかこの鬼畜外道があああああっ!」


 えぇぇぇぇ? なんで? なんで涙目で俺のことを睨み付けてるんだよぉ?


「これでも、私だって花も恥じらう乙女なのですよ? 自分で脱ぐのならまだしも、殿方に衣服を強引に剥ぎ取られるなんてっ! そんな辱め、耐えられませんっ! それともなんですかっ? べんりさんは私が奴に辱められる姿を見て劣情を催すような特殊性癖の持ち主なんですかああああっ!」


 はああああああああ? こいつ何言ってんだよ? テンションが上がると人前だろうがなんだろうが遠慮なく脱ぐくせに、今更なにを恥ずかしがってんだよ! マジいらつくわぁ。


 ふざけんじゃねえと文句を言ってやると、「ふざけていませんっ!」とびんびん泣き始めるリサ。そんな感じで二人口論していると呆れた様子でエンリカスが話しかけてくる。


「あ、あのぉ。すみませんが、私を無視しないでくれませんか?」


 ちょっと寂しそうな感じのエンリカス。ちっ、しょうがねえな。気は進まないがここは俺がやるしかあるまい。

 俺は一歩前に踏み出すとエンリカスを指差し言い放つ。


「エンリカスっ! ブッチャーの仇だ。この俺、ベンリー・コン・ビニエンス様が相手になってやるぜっ!」


 とは言ったもののどうすればいい。とりあえず殴りかかって見るか? どうしたもんかと相手の様子を窺っていると俺はある違和感を感じる。


 そういえば、奴はブッチャーのかっこいいビンテージジーンズを奪ったと言っていたが、なにかおかしい気がする……なにかが、決定的ななにかが抜け落ちているような? そんな違和感を俺は拭えずにいた。


「ふふふふっ! いいでしょう。ベンリー・コン・ビニエンス。魔王十二宮を攻略し、絶滅要塞から世界を救った英雄とあれば相手にとって不足なしっ!」

「なにっ!? おまえ、俺のことを知っているのか?」

「当然ですっ! 相手のことを知らずして戦いを挑むなど愚の骨頂っ! 私はあなたを侮りませんよっ、最初から全力でいかせて頂きますっ!」


 そう言うとエンリカスは構える。なにか気を溜めるようなそんな素振りを見せると右手を前に突き出して叫んだ。


―― ソォォォォオオオオルバインドっ! スティール・フルモンティっ! ――


 何かをされると思い俺は咄嗟に身を躱すのだが、気が付くと上半身裸になっていた。


「い、いやああああん、まいっちんぐっ! きさまあ、何をしたあっ!?」

「ふはははははっ! どうですか私の技は? 何をされたのかわからないでしょう?」


 くそお。一体どうやって俺のTシャツをあいつは剥ぎ取ったんだ? まさか。メームちゃんのように時間を止めて? いや、それはありえない。時間操作能力なんて、ドラゴンですら難しいはずだ。ましてや、そんなことができるのであればいちいち服を脱がしてないで攻撃をすればいいのだ。


 俺は再びエンリカスと睨み合いになる。俺に残された衣類はズボンとパンツ、それに靴下とシューズだけだ。

 これらが全て奪われたら俺はもう二度と立ち上がることはできないだろう。ゲームオーバー、ここで試合は終了だ。


 そんな俺の考えを見透かすかのように、エンリカスは口元に笑みを浮かべると挑発してくる。


「ふふふ。上着を剥ぎ取られて胸を隠す為にあなたは今左腕を使えない。片手では到底私には敵わないでしょう」

「さあて、どうかな? 右手だけでもできることはごまんとあるぜ?」

「強がりを。あなたは、私がまだ止めを刺さずにいると思っているようですが、次が最後です。次の一撃で、私はあなたの身体だけではなく、心までも丸裸フルフロンタルにしてさしあげましょうっ!」


 くっ、一気に勝負を決めに来るつもりか? このまま俺はパンツも奪われて下半身を曝け出してしまうことになるのかっ!? パンツを奪われて……!?


 その時、俺の脳裏に電流が走る。なぜ、こんな重要な事に気が付かなかったんだ? あいつはジーンズを盗んだと言っていたんだ。しかし、ブッチャーは下半身丸出しで絶命していた。


 いや、あれは、ブッチャー自身が……。


「べんりさんっ! 上ですっ!」


 その時、背後からリサの声が響く。俺はその声に咄嗟にジャンプした。



「ブッチャーっ! おまえの置き土産、確かに受け取ったぜっ!」



 空から舞い降りる一枚の布切れを手にすると俺はそれを胸に捲く。そう、それはブッチャーの褌であった。


「両手が自由になったところでえええええええっ!」

「遅いっ!」


 エンリカスが技を放とうとした瞬間、俺はビンテージジーンズにちょこっと空いていた穴に指を差し込みそのまま引き裂くと、ダメージジーンズにしてやるのであった。




 つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る