第百七十話  アンドロイドは電気あん摩でナニをするのか?⑥

 マーク2という呼び名を継続すると言う俺の言葉に全員が、「なに言ってんの?」みたいな顔をする。

 マーク2も怒るでもなく落胆するでもなく、ぽかーんとしていた。


「ちょっとべんりくん。いくら考えるのがめんどくさくなったからってそれはないんじゃないの? なんか適当にロボ子とか、ぴゅーことか、なんかそういう名前にしちゃいなさいよ」


 ソフィリーナが耳元で囁くのだが、俺は首を横に振った。


「俺の話を最後までちゃんと聞いて欲しい。マーク2の名前をなぜそのままにしようと思ったのか。それは、ぽっぴんの考えてきた名前の候補から始まった話だ」


 俺は紙切れを取り出すとそれを皆に見せた。


 パルルレムピリア。この名前になにかを感じた俺は、A25に相談してヒントを得たこと。そして、ティアラちゃんから受け取ったDVDを見てわかったことを皆に説明する。


「ソフィリーナの言葉が切っ掛けだった。そもそも、A25とマーク2は同じMM1000シリーズだと言っているが、まったく似ていない。これはつまり、二人は同じシリーズではないんじゃないのか? 或いは同じシリーズであるけれど、ティアラちゃんがマイナーチェンジを加えたんじゃないかと思ったんだ」


 皆は俺の説明を黙って聞いている。勿体ぶっていないで早く話の核心を言えとソフィリーナがせっついてくるのだが無視。俺はさらに説明を続けた。


「あのDVDの動画、あの中に出てくる少女はティアラちゃんの家族であると俺は思った」

「えー、でもあの娘っこ達は金髪だったじゃないですかぁ」


 ぽっぴんが眉を顰めながら俺に反論してくる。


「それに関しては、まあ長い年月の間になにかがあったんだろう。そもそも、ティアラちゃんのあの姿は大量生産されたホムンクルスなんだろ?」

「全然説明になってないですよそれ」


 不服そうなぽっぴんであるがそれも無視。俺は持論をさらに展開する。


「そしてその中に出てくる男性と女性。あれはティアラちゃんの両親だろう。初めて俺らの前に現れた時に連れて来ていた男のアンドロイド。あいつにどことなく似ているし、女性の方は、ティアラちゃんを守っていたMM1000達に似ている。当然マーク2もだ」


 俺がそう言うと、マーク2はハッとしたような表情になり、俺のことを見つめている。きっと思い当たる節があるのだろう。そこまで説明すると、皆なにかを察したのか真剣な表情になり俺の説明に耳を傾け始めた。


「きっとティアラちゃんは、どんどん薄れていく記憶の中にある母親の姿を、MM1000達に残すことにより。家族のことを忘れまいとしていたんじゃないかな?」

「べ……べんりさん。それって……」

「そうだよマーク2。ティアラちゃんはきっと、おまえ達に母親の代わりになってもらいたかったんだと思う。二代目の母親として」


 そう言うと、目を見開き黙り込んでしまったマーク2。他の皆も顔を伏せ聞いていた。


「パルルレムピリア……これがきっとティアラちゃんのお母さんの名ま」

「ああああああああああああああっ! 思い出しましたあああああっ!」


 そこまで言うとぽっぴんが突如声をあげる。なんなんだよまったく、ちょっといい感じに〆ようと思ったのにうるさい奴だな。


「なんだよぽっぴん」

「いやぁ。どっかで聞いたことある言葉だなぁと思ってはいたんですよ」

「はぁ……なにが?」


 ぽっぴんは自分一人だけ納得したような感じで、うんうんと頷いているので早く説明しろと俺が言うと。


「パルルレムピリア。これを現在の言葉にすると“奥さんいいじゃないですか”って意味になります。いやぁ、こないだ遺跡の中の記憶の泉で色々と調べていた時に、うっかり18禁のデータにアクセスしちゃって咄嗟に閉じたんですよねぇ。その時に目に入った言葉だったんだと思います」


 は? なにそれ? え? じゃあ、あの映像に映ってる女性の、ティアラちゃんのお母さんの名前じゃないのそれって?


 俺が愕然としていると今度はA25が、もじもじと前に出てきて申し訳なさそうに言ってくる。


「あ、あの……べんりさん」

「な、なに? まだなんかあるの?」


 A25は頭を下げると謝罪してきた。


「あのDVDは、古代シンドラントのTVCMの映像なんです」


 はあああ? え? なにどういうこと?


「結構流行ったCMでして、いつもあなたの傍にと言うキャッチフレーズで、幸せそうな家族のバックに映っているロボットペットのCMなんです……」

「え? じゃあ、あの女の子や母親がティアラちゃんやマーク2に似ているのは……」

「えぇ……単なる思い込みではないかと?」


 その場に流れ始める不穏な空気。皆の方を見ると呆れ顔で俺のことを見ている。

 おかしい、おかしいぞ。俺の思い描いていた流れはこんな流れではなかった。家族のことを思うティアラちゃんと、それを受け継いでいるマーク2の存在という形で感動の涙に包まれるはずだったのに。


 するとぽっぴんが、やれやれと首を振りながら俺に告げた。


「だいたいA25とマーク2が似ていないのは当然です。MM1000シリーズとはフレーム素体の型番のことであって、外見はキットを組んだ人の好みの姿にできるのですよ。そんなの常識でしょう」


 知らねえよっ! 俺アンドロイドなんて作ったことねえもんっ! そんな、聖闘士には一度見た技は通用しない。みたいな感じで常識とか言われても、そんなこと俺知らねえもんっ!


「べんりさん……」


 なにか殺気の籠った声で呼ばれた方へ振り向くと、バスターソードを振り上げているマーク2の姿が俺の最後の記憶であった。



 結局、マーク2はマーク2のまま、今後もマーク2と呼び続けることに相成るのでした。



 おしまい。

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