第百六十一話 死に至る病に至るまでの病②
「あんたらは病み上がりなんだから家で大人しくしてなさいよっ!」
「それを言うならここは私の家でもあるので大人しくしつつ看病は私がします」
「いいえっ、皆さんには任せておけませんっ! べんりくんは病気なんですから大騒ぎしないでくださいっ!」
「おまえらは全員あてにならん。看病され歴なら我は自信があるからなっ! 我に任せておけっ!」
なんでこいつらは四人集まるとこうやいのやいの揉めだすのだろうか? と言うかマジで具合悪いからやめて。
「おまえ達いい加減にするわん。べんりは病気なんだぞ、余計な気苦労をかけるくらいなら看病なんてやめるわん」
見かねた獣王が止めに入るのだが、その言葉に女子達全員が獣王を睨み付ける。あまりのプレッシャーに獣王は冷や汗を流し唾を飲み込んだ。
「犬の癖に女神であるこの私に指図するなんていい度胸ね?」
「我のことを“おまえ”呼ばわりするとは、よもや命が惜しくないと思えるな?」
ソフィリーナとメームちゃんが絶対的殺意に溢れたオーラを流し始めると、後方にいるローリンとぽっぴんもそれぞれの得物を抜き出す。
ありがとう獣王、そして無茶しやがって。
俺は心の中で青空に浮かぶ獣王の姿に敬礼するのであった。
獣のことを協力して排除した女子達は、誰が俺のことを看病するかで再び揉めだした。もうこうなってしまっては収拾がつかないので俺はここで一計を案じてみることにする。
「げえっほ、げほっ、げほおおおっ! おええええええええっ!」
大袈裟に咳をすると揉めるのをやめて皆が俺の方を見る。
「だ、大丈夫ですかべんりくん? なにか飲みますか?」
「だ、大丈夫だローリン。それよりも、げほっげほっ。おまえ達が争っている姿を見る方が精神衛生上よくない。ごほっ」
わざとらしく咳き込みながら全員のことを見ると、申し訳なさそうにしている。よしよし、看病をしようと言う相手が自分らの所為で余計に容体が悪くなるなんて本末転倒だからな。これでこいつらも反省してくれるだろうと思ったのだが、ぽっぴんが何を勘違いしたのか余計なことを言いだす。
「わかりましたべんりさん。それはつまり、我々四人の中で誰が一番上手く、べんりさんをおもてなし看護できるのかを判定した上で、べんりさん自ら専任看護師を決めたいと言う事ですね?」
え? 違う。全然違うよぽっぴん。
ぽっぴんが何を言いだしたのかまったく理解できない俺に対し、他の女子達はなにやら納得した様子で、うんうんと大きく頷いていた。
「と言うわけで、これから一人ずつ順番にべんりさんを看病していって、誰が一番かを決めてもらいましょうっ! 持ち時間は1時間ずつ、各々得意なやり方でべんりさんを看病してくださいっ!」
ぽっぴんの提案に全員が「おーっ!」と右こぶしを突き上げて声を上げる。そしてまずは順番を決めると、ソフィリーナのスマホアプリでくじ引きを始めるのであった。
おい、看病はどうした?
そして三十分後。
全員売り場に出ていたのだが、ようやく順番が決まったのだろうか? バックヤードのドアが開き誰かが入ってきた。
「まずは私ですべんりさん」
おまえかよ……いきなり不安要素しかない奴が来やがった。
べんり看病選手権一番手:ぽっぴんぷりん(14)、職業:賢者。
コメント:得意魔法は火炎系魔法、これまでに看護師等の職務経験はなし、でも賢い大賢者なのであらゆる知識を駆使して患者の体内にある病原菌を駆除しちゃうぞ☆
「と言うわけでべんりさん。ふふふ……私が一番手とは運が良かったですね。逆を言えば奴らにとっては運が悪かったと言わざるを得ないっ! なぜならばっ、私が一番にべんりさんを治療することにより、病気が治ってしまうからですっ!」
拳を握りしめ力説するぽっぴんであるが、看病じゃなくておまえ今、治療って言ったよな? なにをする気だやめろぉぉぉぉぉおおっ!
「ウィルスをやっつけるならやはり火ですっ! 私の魔法でべんりさんの体内にある病原体を燃やしてしまいましょうっ!」
「まてまてまてっ! おまえ俺ごと燃やそうとしてねえかっ!?」
「大丈夫です。すぐにパワビタンで回復させてあげますから、熱いのは最初だけです。周りの酸素を失ってすぐに気を失いますっ!」
「おまえっ、自分で言ってて狂気じみてると思わないのかっ!? と言うか俺のこと燃やすの好きなのかっ!? え? マジで怖いんだけどっ!」
ぽっぴんはやれやれと言った顔をして首を横に振ると杖を構えた。
おいおいおいおいやめろおおおっ! 本気でそんなことをして治ると思ってるのか? こいつ馬鹿だわっ! やっぱ馬鹿だわっ! やめてマジで、インフルエンザが治る前に死ぬっ!
「と言うのは冗談です」
そう言うとぽっぴんは杖を下ろし壁に立てかけると、ウォークイン冷蔵庫の中へ行きなにやらガサゴソと持ってくる。
「先ほど凍らせておいたプリンです。そろそろ頃合いだと思うのでこれを砕いてですね」
そう言いながらシャーベット状になったプリンに、スプーンをざくざくと刺して砕くと、それを掬い俺の口元に持って来た。
「私も熱で食欲がない時にこれだけは食べれたので。冷たくて喉の痛みも気にならないので食べてみてください」
俺は騙されたと思ってぽっぴんの差し出すスプーンに乗ったシャーベットプリンを口に含んだ。
熱くなった口の中が冷やされると、身体の熱まで下がったような感じがする。さらに喉が腫れて食べ物を飲み込めなかったのだが、口の中でプリンが溶けて柔らかくなるのでこれはすんなりと喉を通った。
「どうですか?」
「あぁ、美味しいよ。朝からなにも喉を通らなかったから助かったよ」
それは良かったとぽっぴんは笑顔で言うと、俺を布団に寝かせて濡れタオルを額に乗せてくれるのであった。
つづく。
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