第百四十八話 血反吐に塗れ辿り着く復讐の果て③
「死ねやおらああああああああっ! エレメントアマテラスっ! サンライズぅっ、あいたあっ!」
再び魔法を撃とうとするぽっぴんの頭を、後ろから思いっきり引っぱたいて止める。苦悶の表情を浮かべながら振り返ると、ぽっぴんは恨めしそうに俺のことを睨み付け、涙目で抗議してきた。
「なんですか急にっ! べんりさんはあいつの味方なんですか? おのれええ、おまえから灰にしてやろうかあっ!?」
「いいから落ち着け馬鹿野郎。ティアラちゃんはもうとっくに奥に引っ込んじまったよ。これ以上ここで大暴れしたってなんの意味もねえだろうが」
ぽっぴんはティアラちゃんの居た玉座を見上げると正気を取り戻し、やっちまったぜ! みたいな顔をして自分の頭にコツンとげんこつを落とすのだが、なんかムカつくわ、その反応。それを横目で見ていた真面目な聖騎士様がちょっとイラつきながら声を張る。
「皆さんは彼女を追ってくださいっ、ここは私が引き受けますっ!」
相変わらず頼もしい騎士様ではあるのだが、はっきり言ってこの中で一番ボロボロなのはローリンだ。見るからに満身創痍、こうやって今も戦闘を続けていること自体が奇跡と言ってもいいほどの怪我を負っているのに、ローリン一人に任せられるわけがない。
「そうは言ってもおまえ、本当は立ってるのもやっとなくらいだろ?」
俺が心配する素振りを見せると、ローリンは首を振り俺達に背中を向け敵を見据えた。
「確かに、このままではちょっと分が悪いかもしれませんね」
このままではとはどういうことだ? 相手がまだ二人居るから分が悪いってことか? いや、そもそも一人でも結構やばいんじゃないのか? さっきだってフラフラだったじゃないか。
しかしそんな俺の心配を余所に、なにをとち狂ったのかローリンは鎧を脱ぎ始める。なんでストリップを始めるのか、ダメージが脳まで達していたのか? 可哀相に。
俺はコンビニに戻ったらすぐにパワビタンを飲ませてあげようと思っていると、脱いだ鎧をローリンが床に下ろした瞬間に、ズシンと地面が揺れたように感じる。よく見ると鎧を置いた床がひび割れて陥没していた。
さらに籠手や脛当てなんかも同様に外し投げ捨てると重い音が響く。
おい……、まさかこれって……、嘘でしょ? だって、この建物ってアダマントとか言うファンタジー素材で出来たものなんだろ? 名前からしてすっげー堅そうなのに、て言うかその鎧は何で出来ているんだよ?
その様子を俺だけではなく、ソフィリーナもぽっぴんも、そしてロボットであるMM―1000達でさえも、呆気にとられながら見ている。そして震える声でぽっぴんがローリンに尋ねた。
「ローリンさん、ま、まさかその鎧って?」
「お察しの通りですぽっぴんちゃん」
鎧の一部を取り去り、まるでビキニアーマーのような恰好で仁王立ちをするローリンからは、なにか黄金のオーラのようなものが溢れ出ているように見えた。
「その鎧もアダマントで出来ていますっ! 総重量500キログラムっ! それは防具ではなく言わば拘束具、私の本当の力を抑える為に身に着けていた物なのですっ!」
ローリンが叫んだ瞬間、同時に襲い掛かる二体のMM―1000であったが、攻撃はローリンには届かない。
「それは残像だ」
MM―1000達はなにが起きたのか理解できていない様子。俺達には最早ローリンの動きはまるで見えなかった。二体が飛び掛かってきた瞬間、消えたと思ったら背後に回り込みなんか余裕の表情で立っているローリンが現れたのだ。
なんなのあいつ? なんでそんなにかっこいいんだよばかぁっ! 主役は俺だぞくそったれがああっ!
「なんなのよあいつ! 美少女バトルヒロインであるわたしの座を狙ってるの!? きぃぃぃぃいいいいい悔しいいいいいっ!」
ソフィリーナがハンケチを噛みながら地団太を踏んでいる。俺は大人なのであそこまで露骨に悔しがったりはしないが、正直気持ちはわかるぞ。
「さあ皆さんっ! ここは私に任せてティアラさんを追って、って? あれ?」
ローリンが言うよりも前に俺達は、ティアラちゃんの後を追う為に玉座の奥の通路へと駆け出しているのであった。
なんか後方からローリンが涙声で叫んでるのが聞こえるけど放っておこう。あいつなら大丈夫だ。もうあいつならどこでだって一人で生きていけるよ。どんな強敵にだって打ち勝つことができるよ。ローリン、おまえがナンバーワンだっ!
最早天井知らずのローリンの戦闘力に、俺達はなんだかげんなりしてしまうのであった。
走りながら俺はぽっぴんに問いかける。
「おまえ、なにをあんなに怒ってたんだよ?」
「はあ? あれで怒らない方が意味がわかりません」
「なんか魔法と科学を侮辱されたって言ってたけど、どういうことだ?」
その質問にぽっぴんは走る速度を緩めると足を止める。俺とソフィリーナも立ち止まると黙って俯いているぽっぴんのことを見つめた。
「魔法や科学と言うものは、それを知らない者からすればまるで神の起こした奇蹟のように見えることがあります。何もないところに火をおこし、風を吹かせ、水を生み出す。天を引き裂く稲妻でさえも生み出せてしまうのですから」
ふむ。まあ現代の科学技術なんて、何百年も前の人が見たら最早魔法、それこそ神々の為しえる業に見えるだろうな。
「さっき言いましたよね。魔法とは、なんだかよくわからない不思議パワーで使う物ではないと、そんななんでもありのものではないのです」
「そういやそんなこと言ってたな。それと侮辱されたってのとなんの関係があるんだよ?」
なにが言いたいのかわからず首を捻っているとソフィリーナがぽつりと零す。
「魔法は万能ではない……ってことかな」
その言葉で俺はようやくピンときた。
なるほど、だからぽっぴんはあんなに怒っていたのか。ティアラちゃんのやろうとしていること、いや、やったことを考えればそれも納得いく。
ぽっぴんの探究心や知識欲はそれはもうすごいものだ。夢中になると寝る間も惜しんで没頭してしまう、それくらい魔法や科学に対して、いや、この世界に於ける森羅万象すべての現象に本気で真摯な気持ちで挑み臨んでいるのだろう。
「過去の改変なんて神に対してだけでなく、これまで営々と築き上げてきた人類の叡智への冒涜ですっ! 私はそれを決して許しませんっ!」
拳を強く握りしめて、言い放つぽっぴんの言葉にただ黙って俺は頷くのであった。
つづく。
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