第百四十二話 止まる命と動き出す狂気⑤

 爆発音のした方へ振り向くと、壁に大穴が空いておりガラガラと異様な音を響かせながら入って来たのは、サイズはゴーカートくらいの戦車の様な機械であった。さらにドローンの様な飛行できる機械も侵入してくる。

 そして部屋全体に鳴り響く警告音サイレン、これはどう考えても俺達が標的ターゲットであった。


「皆さん下がってくださいっ! バーニングぅっ! ヘルフレアーっ!」


 ぽっぴんが獄炎魔法を放つのと同時にソフィリーナもゴッデスウォールを展開する、それほど広くはない部屋の中で逃げ場を失った機械達は、炎の熱でオーバーヒートを起こし爆発するのだが、次から次へと雪崩れ込んできてキリがなかった。


「くっそ、キリがねえぞ。これもティアラちゃんの仕業か?」

「おそらくそうでしょう。こんな兵器、これまで遺跡の中で見たこともありません。おそらくはちびっ子が解放し操っていると考えるのが妥当ですっ!」


 言いながらぽっぴんは次の魔法を放つ、機械達はまたも爆発して瓦礫となるのだが、次にその山を掻き分けるように入って来たのは巨大な二足歩行のロボット。そして、まるで口を開くかの様に顔が割れるとその中にモノアイカメラの様な物が見えた。


「やばいっ! 全員伏せろっ!」


 なぜだかはわからないが嫌な予感がして俺はそう叫んだ。次の瞬間、赤い閃光が放たれるとゴッデスウォールを貫き、床に伏せる俺達の頭上を通り抜けて行き後方で爆発が起こった。


「嘘でしょっ!? なんなのよあれ?」


 ソフィリーナは信じられないという表情をして叫ぶ。あの鉄壁の守りであったソフィリーナの防御魔法をいとも簡単に貫いたロボットの攻撃に俺達は戦慄した。


「サンライト・ダークフィラメントっ!」


 漆黒の炎がロボットに襲い掛かり燃え上がる。ロボットの装甲は少し焦げる程度であったが、関節部分に剥き出しになっている配線が焼き切れショートしていた。

 ロボットは燻るように煙を上げながら停止するのだが、駆動部から火花を散らしながらすぐにまた動き始めた。


「まずいわっ! またあの一撃がくる。皆伏せてっ! ゴッデスミラああああああっ!」


 ソフィリーナはアニキの光速拳を反射させた技を展開するとロボットの光線を跳ね返した。あの反射壁なら持ちこたえられると思ったのも束の間、ロボットの胸部が展開する。


 まさか!? まさかまさかまさかまさかああああああっ!


 無数のミサイルが発射されたところで俺達は死を覚悟したのだが。



―― エクスっ! カリボオオオオオオオオオオオオンっ! ――



 待っていましたっ! 最強の一撃がミサイルの雨を飲み込むと爆発することもなく消滅した。同時に、四肢を切断されバラバラにされたロボットの頭部に、刃を突き立てるローリンの姿を見て俺達は助かったと安堵した。

 そしてローリンは俺達の無事を確認するとその場に頽れるのであった。




「ん……うん……」

「大丈夫かローリン?」

「べん……りくん? よかった。皆無事だったんですね」


 気絶していたローリンは数分で目を覚ますのだが、はっきり言って危険なのはローリンの方であった。当然である、あの黒ずくめの女達を6人も同時に相手にしていたのだ。下手したら命を落としていた可能性だってあるのだ。今はA25が適切な手当をしてくれたおかげで、かろうじて危険な状態からは脱したに過ぎない。


「馬鹿野郎、他人の事よりまず自分の心配をしろよ」

「大丈夫ですよ。こんなこと慣れっこですから。それに……(ご褒美も貰えましたし……)」


 俺の腕の中で頬を赤らめるローリン。なんだか最後の方はなんて言っているかよく聞こえなかったがニヤニヤして嬉しそうなのはなぜだろうか? まあなんか大丈夫そうだからいいや。


 とりあえず機械の襲撃も止んだようなので俺達は一息吐くことができた。

 その間にこれまでの経緯をローリンに説明する。そしてローリンもあの後のことを説明してくれた。

 あの後6体の女の内3体がすぐにその場を離脱したらしい、それでもローリンは3体と戦闘を続け2体は撃破、残る1体は中破まで追い詰めたが逃げられたらしい。

 そんでもってあのロボット兵器達を破壊しながら進んでいたら、俺達と合流できたと言うのだからまったくもって恐ろしい女だ。はっきり言って腕力ではもう絶対に敵わないから、喧嘩になったら全力で論破するしかないだろう。

 それにしても、あんな自動ロボット兵器があるなんて、シンドラントってどんだけ文明の発達した国だったんだよ。


「A25、あれはシンドラントの兵器ですか?」

「はい、仰る通りですポッピヌプリム様。シンドラントの開発した対人自立型魔導殲滅兵器です」


 対人兵器、それは敵と見做したものを殺戮し尽くすまで攻撃を止めないものだとA25は説明した。

 なぜ、太陽を信仰し、魔法と自然の調和によって栄華を極めていたシンドラントが、そんな恐ろしい兵器を生み出すまでに禍々しい国へと変貌してしまったのかはわからないが、人類が時としてそんな間違った道を選んでしまうと言う事は、ここに居る誰もが知っていることであり、また理解できてしまうからこそ、俺達はなんだか居た堪れない気持ちになってしまうのであった。

 だが、いつまでもここでそんな風に凹んでいたってなんにもならない。俺達はメームちゃんを助け出し時の歯車を取り戻す為に、そして復讐と言う荊の道を歩もうとしているティアラちゃんを止める為に行かなくてはならないのだ。


 その為に覚悟を決めて前へと進まなければならないんだっ!


 そう強く心に誓ったところで、ユカリスティーネが冷や汗を垂らしながら指差す。



「あそこって……獣王さんが入っていたところですよね?」



 ゴッデスウォールを貫いた光線は見事、獣王を眠らせた壁の位置に直撃していたのであった。




 つづく。

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