第八十八話 バック・トゥ・ザ・コンビニバイトPART2②
楽屋に向かう二人の後についていく振りをして俺は徐々に距離を取る。
後方から俺とオルデリミーナが口論になっている声が聞こえてくるのだが振り返らずに走った。
なんだかわからんがここにはもう一人の俺が居るらしい。
今それを見たら俺は気が狂い兼ねない、だから今はとにかく妨害しようとしている輩を止めることだけを考えよう。
その時、什器の陰でコソコソとなにかしている奴らが居ることに気が付いた。
俺は物音を立てないように什器の陰から聞き耳を立てる、そしてスマホで録画もしておいた。
「アルオデリオ様、配置は完了しましたっ!」
「うむ、ご苦労っ! オルデリミーナの奴、あんな大見得を切ったんだ。これでこの公演が失敗に終わればとんだ恥晒しってもんよ」
なんだか小物臭全開の台詞が聞こえてくるのだが、一体奴らはなにをしようとしてるんだ?
「しかし、本当に大丈夫でしょうか? 怪我人でも出たら……」
「おまえは阿呆か。使うのは単なる煙袋だと言っただろう。公演中にこいつを発動させれば火事が発生したと勘違いしてやつらも大慌てってやつよ。後から安全上の管理は適切だったのかと苛め抜いてやるぜ」
うっわぁ……せっこいなこいつ。中学生並みの嫌がらせじゃねえかよまったく。
まあそれでも、くだらないからこそ効果
「よぉーっし! それじゃあ計画通りにやれよっ!」
アルオデリオと言う男に命令された手下達は、敬礼すると散って行くのであった。
俺はすぐに獣王の元にこの事を報せに走った。
「べんり!? なんだ、今はミーティング中じゃなかったのか?」
「それよりも聞いてくれっ!」
突然現れた俺に驚く獣王であったがそんな場合ではない。一刻も早く奴らの仕掛けた煙袋を見つけないとこのステージが台無しになってしまう。俺の見せた動画の内容に獣王は緊張した面持ちで呟く。
「そいつは厄介だな……」
「ああ、子供じみているが実際に効果はあると思うぞ」
「いや、そうじゃない。煙袋ってのはそんなに大きい物じゃねえんだ。それでも伝令用の狼煙に使われるくらいの物だから相当量の煙はでる。それが何個、どこに設置されているのか、はっきり言って全て見つけ出すのは困難だぜ?」
なるほどな。確かに全てを見つけ出すのには時間がかかってしまうかもしれない。だったらやることは一つだ。
「だったら首謀者をぶちのめして吐かせるまでだっ!」
「本気かよべんり? 相手は貴族……いや、王族なんだぜ?」
「ああ本気だぜ……このステージが成功するか否かが懸かってるんだ。すべてが終わった後に俺一人が処罰されるだけでいいってんなら、その罰、甘んじて受けてやるぜ」
俺の決意に獣王は「わかったよ」と頷いた。そして走り出そうとしたその時、背後から何者かに止められる。
「待てっ! お前達っ!」
その声に驚き俺達が振り返ると、そこに居たのはアニキオリアであった。
「ア……アニキ」
「話は聞かせてもらった。べんり、その覚悟見事だ。だが味方がワールフだけでは心許ないだろう」
アニキはゆっくりと近づいてくると俺の肩に手を置く。そして力強い眼光で俺の眼を射抜くと言い放った。
「俺も手を貸そう」
「アニキオリアさん……ありがとうございます。でも……」
アニキが手を貸してくれると言うのであればこんな心強いことはない。だがしかし、これだけは言っておかなければならない。これは今回、絶対に犯してはならないタブーだ。
「でも、口を割らせるにしても絶対にアニキオリアさんと獣王は手を出さないでください。それをやってしまったら、今回のことがすべて水の泡です。むしろ奴らの思う壺です」
魔族が王族に暴力を振るったとなればそれは大問題だ。せっかく少しずつではあるが解消されてきた人間と魔族の間のわだかまりも、また元の木阿弥になってしまう。
一番いいのは証拠を押さえて犯人全員を捕えることだ。スマホの動画を動かぬ証拠として突き付ければ奴らも言い逃れはできまい。
「いいだろう、では俺達は他の犯人達を追う事にしよう。上手くいけばそいつらから聞きだせるかもしれない」
え? 一緒に来てくれるんじゃないの? 一応保険としてついてきて欲しいんだけど? だいたい俺、喧嘩とかしたことないから勝てるかどうかもわからないよ?
「それじゃあ俺は臭いで煙袋の追跡を試みてみるわん」
いつの間にか犬の姿になっていた獣王は自慢の鼻で煙袋を探してみると言っている。だったらそれでよくね? おまえの能力をフルに発揮して、いや今こそ限界を超えて見せろよ! 全部見つけて来いよっ!
「お……おおおうっ! 頼んだぜ、二人とも……」
俺がそう言うとアニキと獣王はそれぞれ違う方へ散って行くのであった。
マジかよ。あんなこと言うんじゃなかった。やべーよ、これで俺が負けたらすべておじゃんじゃねえか。
自分で自分を追い詰めた俺は、仕方がないのでトボトボとアルオデリオの居た場所へと戻るのであった。
つづく。
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