第八十七話 バック・トゥ・ザ・コンビニバイトPART2①
今俺は、舞歌祭のステージを妨害せんとする輩との戦いの最中だ。
「くそっ! 獣王、そいつらはおまえに任せたっ!」
「任されたぜべんりっ! おまえはあのいけすかねえ馬鹿貴族を止めろっ!」
数人の兵士の相手を獣王に任せると俺はステージ裏を全力で走るのであった。
なぜこんなことになっているのかと言うと。ぽっぴんに貰ったデジタル時の歯車で異世界に戻ってきたのはいいが、なんだかわからないけどちょっと時間が進んでいたのだ。
時間は更にちょっと前、べんりが異世界に戻った直後に遡る。
そこでは特に何事もなかったかのようにステージが行われようとしていた。
バタバタと俺の前を行き交う魔族達。今回のステージの為に裏方を引き受けてくれた奴らだ。
そしてなにがなんだかわからずにステージ脇でぼーっとしていると、獣王が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「まずいぞべんり、あの皇女殿下の従兄の馬鹿が、何人かの部下を連れてこそこそとなにかやっているらしい」
え? 誰って? オルデリミーナの従兄ってなんの話だ? そのキャラ俺の中ではまだ登場してないんだけど。
「そ……そうか、じゃあ、とにかくあれだ。あれだろ?」
「おう。あいつら絶対にこのステージの妨害をしようとしてるに違いねえっ!」
「そうそれっ! 俺が言いたかったのはそれえっ!」
えー、妨害ってなにー? まためんどくさいことになってんじゃーん。もう次から次へと問題ばかり起きやがって、どうしてこう何事もなくスムーズに終わることができないんだよ。
「わかったよ獣王。本番までもう時間がない。とりあえず俺は奴らの動向を調べる。おまえはメンバーの周りになにか不審な物や人なんかが居ないか見張っていてくれ」
「了解、気をつけろよべんり」
俺は振り返ると背中越しに親指を立てて返事をするとその場を離れるのであった。
建物から出ると一度深呼吸。とりあえず落ち着いて今の状況を整理しよう。
「できるわけねええええっ! なにこれ? なんか途中すっぽ抜けてねえ? えぇぇぇ、ほんの数時間抜けるだけで意味不明だよぉ。時間って大事だなっ!」
どうしていいのかわからずに俺はその場でしゃがみ込み頭を抱えていると誰かが声をかけて来た。
「べんりさん? こんな所で何をしているのですか?」
その声に顔をあげると目の前には可愛らしい衣装を着ためっちゃかわいい女の子が俺のことを心配そうに覗いている。
「え? どちらさまですか?」
誰だ? こんなかわいい子と知り合いだったっけ俺? あれ? なんかこの子の衣装どっかで見たことあるな?
「もう、ふざけてるんですか? さっきも同じ反応しましたよね。もういい加減そのネタは飽きました」
ほっぺをぷくーっと膨らませながらちょっと怒った調子で言う女の子、そんな仕草がまたかわいい。
困ったぞ、マジで誰だろこの子? そう思っているともう一人同じ格好をした子が俺達の方へ駆け寄ってきた。
「そんな所でなにをしているんだっ! ん? なぜべんりが居る? さっき楽屋に居なかったか? まあいい最後のミーティングを始めるから戻って来い」
それはオルデリミーナであった。
ああ、この衣装はあれか。ステージ衣装だ。と言う事はこの目の前にいる女の子は、え? こんな子メンバーにいたっけ? 急遽誰かが出れなくなって代役でも立てたのか? んなアホな。
「ごめんなさい姫殿下、今行きます」
「もうエミール、今はジュリアって呼びなさいって言ってるでしょ。あと敬語も」
「ご、ごめんジュリア、なんだか慣れなくて」
はああああああああああああああっ!? エミールって言ったよな? 今この子のことエミールって言ったよな? え? なに? そういう設定? ああ、あれか? あまりにもモブ顔すぎるから替え玉か? どういうことだってばよっ!?
「ちょ、ちょっと待て? エミール? え? 誰が?」
「もうっ! いつまでふざけてるんですかべんりさん。何度も言ったじゃないですか」
「そうだぞべんり。コンビニの化粧品でローリンがメイクアップして見違えるように美しくなったエミールに驚くのはわかるが、あまりしつこいと流石に鬱陶しいぞ」
そんなアホな? は? メイクでどうこうとか言う問題じゃねえだろ。もうこれ完全に顔変わってんじゃん、整形レベルだぞこれ。だいたいメイクでどうやったら黒豆に毛が生えたみたいな目してた奴が、こんな大きくてしかもハイライトが入った目になるんだよ。
鼻の形だって違うじゃぁぁん。鼻なかったじゃんおまえぇぇぇぇ。ザ・モブ顔・オブ・モブ顔だったのに、なんでそんなメインヒロイン顔負けの
俺が驚愕のあまり茫然としているとエミールが振り返って微笑みながら言う。
「さっ、行きますよプロデューサーさん❤」
ズキューン!
くっそがあっ! エミールのくせにエミールのくせに……無茶苦茶かわいいんだけどぉぉぉぉぉ。
こうして異世界に戻ってきた俺の心を、大変身を遂げたエミールが掻き乱すのであった。
つづく。
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