第七十九話 そんなの勇者のすることかよ

 舞歌祭本番までの日数は残り5日間となっていた。


 無駄に一週間も漂流していた為にその間なにもできなかったのは痛手である。

 しかし、あの漂流期間はエミールを精神的に強くしてくれたと思う。ちょっとやそっとのことじゃ動じないメンタルの強さを身に着けたエミールは練習の際にも率先して皆を引っ張って行った。



 そして、本番三日前。


「全員集合してくださーい」


 俺は休憩中の皆を集める。全員がなぜ集められたのかを察しているようでなんだかソワソワして落ち着きのない様子だ。


「皆さんもうお察しのようですが、いい加減本番形式でフォーメーションの練習もしないといけないので、いよいよセンターの発表をしたいと思います」


 俺の言葉に皆が色めき立つ。遂にこの時がやってきたと不安気な表情で祈る様に俺のことを見つめる者、いたって冷静に務める者、はたまたソワソワと落ち着きない様子の者など反応はそれぞれであった。しかしその思いは皆一つである、この時の為に地獄のような練習にも耐えてきたのだ。


 俺は「コホン」と一つ咳払いをすると少し勿体ぶって焦らすのだが、皆が早くしろと視線で訴える。俺はそれに応えるようにゆっくりと発表を行った。


「今回、センターを務めて貰うメンバーは……」


 ごくり……。誰かが喉を鳴らす。いや、全員が固唾を飲んで俺に注目をしている。


「エミールとリサ! この二人によるツーマンセルでセンターをやって貰う事にした!」


 その言葉に全員が驚きの色を隠せない。当の本人達、エミールとリサも同様に驚いている。


 二人は六日間も練習をできなかったのに、本当に大丈夫なのかと疑問の声も上がるのだが俺はそれを一蹴する。


「まあ、納得のいかない者も居るだろうが、それは二人のダンスを見てからにして欲しい」


 そう言うと俺はエミールとリサにこれから二人のダンスを皆に見せるように促すのだが、二人は困惑した様子で俺に問いかけてくる。


「べんりさん。いきなりそんなことを言われても、二人で合わせたこともないのに」

「エミールの言う通りです。べんりさん、一体なにを考えているのですか?」


 しかし俺は二人の肩に手を置くと大きく頷いてみせた。


「大丈夫だ。あの地獄の六日間で得た経験を活かせば、おまえ達は二人で最強のアイドルに必ずなれる。さあっ! おまえらの実力を思う存分皆に見せつけてやるんだ」


 その言葉に二人は頷くと準備をする為にステージの袖へと下がって行った。


 「べんりくん。本当にあの二人は大丈夫なんでしょうか?」


 ローリンが怪訝顔で俺に聞いてくる。安心しろ、あの二人なら大丈夫だ。それは俺が保障する。


 そして準備ができると部屋の明かりが落ちる。そしてBGMが流れ始めた。


 ちゃららららら~ん♪ ちゃらららららーらら~ん♪


 オリーブの首飾りが流れだすとステージがピンク色の照明に照らされ、二人が舞台袖からでてきて妖艶なダンスを始める。そして場が盛り上がってくると服を一枚また一枚と……。



「ストリップじゃねえかああああああっ!」



 ソフィリーナにぶん殴られて俺は床を転げる。

 さらに追い打ちでぽっぴんが杖でバシバシと叩いてくる。痛い、マジでごめんなさい痛いからやめて。


 そして二人はステージから引き摺り下ろされて、三人並んで正座させられるとこっぴどく叱られるのであった。




 結局センターはシッタシータが務めることとなり、サイドをソフィリーナとリリアルミールが固めることになった。

 残すところあと三日間、それまでにこのフォーメーションを徹底的に体に叩きこんでやると俺は意気込むのだが、そこへ尻尾を振りながらやってきたのは獣王であった。


「べんり、久しぶりだわん。頼まれていた例のもの、おまえが居ない間にも準備は進めておいたわん」

「おおっ! まじか、悪いな任せっきりになっちまって」


 ここのところ獣王の出番がなかったのでケモナーの皆さんはさぞがっかりしていたと思うが、実はある計画の為にこいつには別行動を取ってもらっていたのだ。


「気にするなわん。今回おまえがやろうとしていること、俺はその心意気に感動したんだわん。俺の出来ることならなんでも手伝わせてもらうわん」

「かたじけねえ」


 二人そんなことを話しているとリリアルミールさんが近づいてきて俺に質問する。


「二人でなにをコソコソと計画しているのですか?」

「あ、聞こえちゃいました? まあ、それは当日のお楽しみと言う事でまだ秘密です」

「え~、べんりさんいじわる~、教えてくださいよぉ」


 そう言って俺の腕にしがみ付きながらくねくねと駄々をこねるリリアルミールさん。

 事あるごとにこうやって、その豊満なバストを押し付けて俺のことを誘惑してくるのだから、はっきり言って……超ラッキーだね俺っ!


「それにしてもリリアルミールさん。毎日こんなことをしていてメームちゃんのおとうさ……旦那さんはなにも言わないんですか?」

「それは大丈夫ですよ。主人はもうとっくの昔に他界していますから」

「あ、すいません。なんか俺、デリカシーなかったですね」

「いいんですよ」


 そう言うとニッコリ微笑むリリアルミールさんであったが、その笑顔が少し寂しげに感じたのは俺の思い過ごしだろうか。失礼だと思いながらも俺は旦那さんのことを質問してみることにした。


「メームちゃんのお父さんって……どういう方だったんですか?」

「え? なんですかいきなり?」

「すいません、なんか気になっちゃったんで」

「勇者ですよ」


 は? 今なんて?


「え? 勇者?」

「はい、勇者です。私の元夫、あ、私の前の魔王なんですけど、それを倒しにきた勇者です」


 は? ちょっと待って、混乱して意味がわからないんですけど、それってつまり……。


「今から400年とちょっと前に、前魔王を討伐にきた勇者は見事勝利して世界の覇権とついでに私を手に入れたのです。そしてその時に身籠ったのがメイムノームですよ」

「それなんてエロゲっ!? それって完全に寝取られ展開じゃんっ! 鬼畜勇者じゃんっ!」


 ニコニコと嬉しそうにその時の出来事を話すリリアルミールさんであったが、俺は聞いてはならないことを聞いてしまった気がして、舞歌祭本番を目前にテンションが駄々下がりになるのであった。



 つづく。

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