第四十五話 史上最低の魔法対決? 大賢者対呪術王①

 十二宮に辿り着き、各宮を守護する魔闘神達との戦闘を始めてからの所要時間はだいたいこれくらいだ。


 第一の宮リサ

 移動時間と戦闘を合わせて約四十分。


 第二の宮ブッチャーハシム

 移動約一時間。戦闘三分。


 第三の宮アルパ・カシーノ

 移動約一時間。ティータイム一時間。戦闘四十分。皆が起きるまで一時間。


 合計で五時間と二十三分、メームちゃんに呪いをかけられてからここに来るまでに約二時間半ほどかかっているので合計で約八時間。

 つまり、俺に残された命の刻限タイムリミットは、あと十六時間と言うわけだが、一つの宮にかかっている時間が移動時間と合わせて大体一時間強だから、残りがあと九個で九時間から十時間かかる。そこからメームちゃんのお母さんである魔王に会って結婚の許可を貰って式を挙げるまでにどれくらい時間を要するのか?

 できれば式は盛大に挙げたいので三~四時間くらいの尺を用意したい、準備なんかを考えた場合に今のペースだと……。


「ちょっとキツイと思わないかねきみたちっ!」


 俺の説明を黙って聞いていた皆であったが何も答えない。と言うか途中から聞いていなかったような気がする。メームちゃんだけはなんだか嬉しそうな様子で俺を見つめてニコニコしている。うんうん、俺と意見は一緒ってことだね。


「ねえローリン、最近ちょっと太った?」

「え? そうでしょうか? やっぱりコンビニ弁当ばかり食べてあまり運動をしていないせいでしょうか?」

「ローリンさんはもう胸が大きくなりすぎて、食べた分の栄養が胸で吸収しきれなくなっているのではないでしょうか」

「ぽっぴんさんそれセクハラですよっ! そんなことないですっ!」


 俺のことは完全に無視してローリンのおっぱいの話で盛り上がっている女子達。できることなら俺もそのトークに混ざりたいが、今はそんなことをしている場合ではない。


「おまえら、そんなゆっくりお喋りしながら歩いてないでもうちょっとキビキビ歩けよっ! 俺の命と人生の一大イベントがかかってるんだぞっ!」

「はあ? なに偉そうに言ってるのよ。大体ここから先戦うのはわたし達であって、べんりくんは見てるだけなんだから、もうちょっと謙虚な態度を示しなさいよね」


 偉そうなのはおめえの方だろうが糞女神、だいたいここまでの戦いでおまえはまだなにもやってないだろうが、俺は精神的に追い詰められたり犬の応援をしたりと身体張ってるんだからな! おまえよりも役に立ってんだよっ!


「次の宮こそは私が戦いますよっ! いい加減腕が鈍ってしまいます」


 ぽっぴんが杖をブンブンと振り回しながら息巻く。危ねえからちゃんと周りを見ろよアホ。


 そうこうしている内に第四の宮に辿り着いた所で俺達は一度足を止めて作戦を立てることにした。


「べんりくん、次の相手はどんな奴だと予想しますか?」


 ローリンがまた俺に質問してくる。どうやら俺がなにか確信めいたものを持って先にいる敵のことを予想していると感じとっているらしい。たぶんあとでネタ明かししたら呆れるんだろうな。


「そうだな。次の宮に居るのはとんでもないクズだ。近年でこそ名誉挽回してきたものの、こいつの所為で多くの六月後半から七月後半生まれの小学生たちが辛酸をなめさせられてきたんだ」


 なにを言っているのか理解できないローリンは、頭の上に「?」を浮かべて聞いている。


「とにかく、こいつは力こそが全てだと思っている。強者が弱者を虐げるのは当然の権利だと考えるようなクズだということだ」

「それだけではどんな相手なのかわかりません、対策の立てようがないですよ」

「どんな相手であろうとこの私の魔法で一網打尽にしてみせますよっ!」


 まあ当の本人がそう言ってることだしとりあえず行ってみようか。


「たーのもーっ!」


 ぽっぴんが大声を上げながら中に入って行くと、第四の宮を守護する魔闘神の姿が見えてきた。


「ククク、お待ちしていましたよ皆さん。次はこの第四の宮を守護する呪術王インポテックがお相手いたしましょう」


 またも四貴死の一人、呪術王が魔闘神の一人であった。それを見て獣王はなにやら悟ったような表情に、と言うかもう投げやりな感じになっている。


「獣王、おまえ……」

「なにも言うなわん……なにも聞きたくないわん……」



 落ち込む獣王は放っておいてぽっぴんとインポテックが対峙する。


「ほほぉ、どうやらあなたは魔法を使うようですね。とてつもない魔力を感じます」

「むむ、私の実力を一瞬で見破るとは中々できる相手のようですね。さすが、クズとは言っても魔闘神の一人です」

「えっ? クズってなに? え、なんで?」


 突然クズ呼ばわりされたインポッテックはかなり動揺した様子だ。

 そりゃそうだろう、一度会ったことがあるくらいで話したこともない女の子にいきなりクズとか言われたら、俺だったら泣いちゃうかもしない。現にインポテックもちょっと涙目になっている。


「フッ……とぼける気ですか? この最低のドクズ野郎っ! おまえみたいなロリコン犯罪者予備軍はこの賢い大賢者のぽっぴんぷりんの魔法で灰にしてやりますっ! 汚物は焼き払えええええっ!」


 いや、俺はそこまで言ってないからな。インポテック完全に泣いてるじゃん。謂われのない悪口を言われてもう戦意喪失しているよあれ。


「バーニングっ!ヘルフレあ……」


 そこまで言ってぽっぴんは魔法をやめる。


「ふっふっふ。どうやら気がついたようですね? あなたはこれで一度痛い目を見ていますからね。敏感にもなるでしょう」


 どういう事だ? インポテックは一体なにを言って……!?



 まさか、これは……。



 あたり一帯に充満する強烈な硫黄臭に、俺達はあの時のトラウマを呼び起こされるのであった。



 つづく。

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