第十八話 秘密の第五皇女様③
なぜローリンが給仕係りをやっているのか? 俺が驚き声を上げるとそれを窘めるように小声でローリンが言う。
「しっ! 大きな声は出さないで下さい。他の方々に気付かれます」
「ご、ごめん。でも、なんでローリンが?」
「前にも言いましたが、私はこう見えて帝国の聖騎士なんですよ? 潜入を手伝ってくれる伝手くらいありますよ」
マジかよ!? すげえなこの女子高生。なんか俺の知り合いの中で一番頼りになるんじゃね? マジで。
「ですのでべんりくん。もう少し我慢してください」
「我慢……。つまり、脱獄の手伝いに来たってわけじゃあないのか」
「当然です。脱獄なんてしてまた捕えられたら確実に言い逃れできませんよ。私の方でも色々と調べていますから今は堪えてください。ちなみに、尋問をしている者は誰でしょうか?」
「え? なんか赤毛の女騎士団長さんで、名前は確か……ジュリアロバーツみたいな感じの人」
「やっぱり……」
ローリンは口元に手を当てて考え込む。なにか知っているのだろうか? にしても給仕係が一人の囚人の牢屋の前にいつまでも居るのもおかしいだろうと、俺はローリンにそう促した。
「そうですね。では最後に、これを渡しておきます」
そう言うとローリンは胸の谷間からハガキくらいの大きさの厚紙の様な物を取り出して俺に手渡す。
「……なに? これ?」
「なにって。こないだ皆で撮った集合写真じゃないですか。挫けそうになったらそれを見て元気を出してくださいね。ソフィリーナさんもぽっぴんさんも、べんりくんのこと心配しているんですよ」
そう言えばそんなの撮ったな。ローリンが記念にとか言って、スマホで撮ったのを店のコピー機でプリントアウトしたんだっけ。
真ん中でソフィリーナが椅子に座って、その横にぽっぴん、後ろには俺とローリンが立ち、ソフィリーナの肩にそっと手を添えている。
なんだよこのおばあちゃんと一緒に家族写真みたいなのっ!
渡すものを渡すとローリンは「ご武運を」とだけ言い残して去ってしまった。
あの二人が俺の心配をしているだと? 嘘だね。
だいたい今の俺はこいつらを見ると元気どころか怒りが沸いてくるんですけど。人が連行されようって時に、おもしろい見世物でも見るかのようにせせら笑っていた糞女神に。
事の発端は自分だってのにその罪を全部俺に着せた馬鹿賢者。マジで許せねえ、こいつらの所為で俺は今ここで臭い飯を食わされ……今日はシチューかな? とってもいい匂いがしますね。しかも、あったかいんだからぁ。って古いか。
「飯食ってオナって寝ようっと」
次の日。
「だから虐待なんてしてませんってぇ」
「嘘を言うな。おまえが泣いて入れてくれと懇願する彼女を外に締め出して笑っていたと言うのを、何人もの冒険者達が目撃しているのだぞっ!」
また次の日。
「だから強制猥褻なんてしてないですからぁ」
「証拠ならあるのだぞっ! あの、びでお? とか言う記録水晶に。おまえが年端もいかない少女の胸に顔を押し付けて、そのあと、せ……せせせ、接吻をしようとしている姿が映っていたぞっ! しかも傍らには下着姿のオーエル女史まで従えて! この卑劣漢めえええっ!」
そんな感じで毎日取調べが続き。俺は自分の牢屋に戻ると写真を取り出しては二人の顔面に唾を吐きかけるのであった。
そうして一週間が過ぎ、碌に取り調べも進まないまま俺の初公判が開かれる。
学校の教室二つ分よりちょっと狭いくらいの部屋に通されると、まあTVやゲームなんかでよく見る裁判室みたいな感じになっていた。
正面には裁判官と思しきおっさん二名とおばさんが一名。左手はおそらく俺の世界で言う検察側、そこにはあの女騎士団長。右手にはローリンの姿があった。
そして傍聴席には馴染みのお客さんと、憎き二人の姿があった。
ソフィリーナとぽっぴんは黒い喪服に身を包み、ソフィリーナはハンカチを顔に当ててしくしくと泣いている。その膝の上には遺影が……。
「わらびもちじゃねえかよっ!」
ふざけやがってえっ! あの野郎、神聖な法廷で遊びやがって、マジであいつ女神なのかよ?
「あんたが殺したのよっ! あんたがスラリンを焼き殺して……返して! 返してよあたし達のスラリンをぉぉぉぉ」
「お姉ちゃん泣かないで」
ぽっぴんが、泣き叫ぶソフィリーナの背中を擦ってやっている。
なんだあの茶番は……あいつらマジでどういう神経してやがるんだ? 覚えてろよ。後で絶対に復讐してやるからな。
「おほんっ! 静粛に、静粛に願います」
小太りのおっさん裁判官が、あのハンマープライスみたいなやつをコンコン鳴らしながらそう言うと俺は被告人席に座らされた。
「これより。被告人ベンリー・コン・ビニエンスの罪状に於ける審理を執り行います。弁護人と検察官は前へ」
なんかそれっぽい感じで始まって、たぶん法律書なのか、聖書なのかは知らないが、神と精霊と皇帝陛下に誓って嘘は吐かないとかなんとか、そう言う宣誓をさせられていよいよ裁判が始まるのであった。
見てろよ! 俺は絶対に自分の無実を証明して見せてやる。あっちの世界では成〇堂君の生まれ変わりとまで呼ばれたこの俺が、絶対に逆転してやるからなっ!
つづく。
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