第十七話 秘密の第五皇女様②

 どうしてこうなった?


 この世に生を受けて二十余年、清く正しく美しく、勤勉でまじめに働き、虫さえ殺せないピュアなこの俺が、なぜ今犯罪者として拘束されているのか? まるでわからない、まるでわからないっ!!


 目の前でなにやらがなり立てている女騎士の言う事は耳に入らない。俺が一体なにをしたって言うんだ。


「以上が、きさまの罪状だ。なにか異論はあるか?」

「異論と言うか……」

「異論は一切認めないっ!」


 ええええ? 異論はあるかって聞いたじゃあん。


「きさまの罪は既に確定している。裏もしっかり取れているのだ。観念してお縄に付け」

「いやもう既に手枷嵌められているんですけど」

「うむ。大人しくしていれば悪いようにはしない。我らが帝国は君主制ではあるが法治国家であるからな。犯罪者の人権にもしっかりと配慮しよう」


 この人、絶対人の話聞かないタイプだ。

 なぜ俺が犯罪者に仕立て上げられたのかはわからないが、とにかくここは誤解を解かなくてはならない。俺は何も悪いことはしていないと、こういうことは最初にはっきり言っておかないと後で言った言わないの水掛け論になるのも嫌だしな。


「あ、あの! 俺の話を聞いてくれませんか? 抵抗はしないんでとにかく話を」

「問答無用っ! 引っ立てろっ!」


 えええええ!? 人権っ! 人権に配慮してよぉっ!


「いいいやああああああっ! ちょっ、おまえらなんとか言えよっ! 俺はなにも悪いことはしてないって!」


 この状況を黙って見ているソフィリーナとぽっぴんであるが、俺が引き摺られて行く姿を見てなにも思わないのであろうか?


 ん? あの糞女神ちょっと笑ってねえか? あっ! 笑った、今笑った! 絶対この状況楽しんでるだろあのやろうううううっ!


「ちょ、ちょっとお姉さん! あいつ! あいつも同犯ですよっ!」

「あの二名についても調べはついている。きさまに無理矢理働かされていたオーエル・ビッヒ・ステリックと、無理矢理地下で魔法を使うことを強制されたポプラ・スウィート・ミント、お二人には証人として後に法廷に出廷してもらうがゆえ、しばらく外出は控えていただきたい」


 無理矢理ってなんだよ無理矢理って、俺は強制した覚えなんてないぞ、だいたい地下の爆発事件の大元はぽっぴんが……ん?


「ポプラ・スウィート・ミントって……誰?」

「なにを言っているのだ? あの娘に決まっているだろう」


 そう言ってぽっぴんを指差す女騎士。ぽっぴんはなにやら視線を逸らして口笛を吹いている。

 え? あいつの名前はぽっぴん……ぷ……り……。


「ぶ……ぶふぅぅぅううううううっ! おまえ、本名じゃないとは思っていたけど。ぷぷぷーwww、スウィートミントって名前だったのかwwwww」

「なっ! なにが可笑しいんですか! 失礼な人ですねっ!」


 顔を真っ赤にしながら俺を睨むスウィートミントであるが、ソフィリーナとそして俺を連行しようとしている兵士の方々もちょっとクスクス笑ってますよ。女騎士さんだけは不思議そうな顔をしていますが。


「騎士様! そいつは今さっき私達の入浴を覗いていたんですっ!」

「なんだと? 覗きまでしたのかっ! なんて卑劣な」

「いやいや待て待て! むしろお前らの方が人が風呂入ってるところに侵入してきて、しかもチ〇コまで見たんだろうがっ!」

「な、ななななっ! 強制猥褻まで! 許せんっ! この女の敵をすぐに牢獄にぶち込めえっ!」


 なんでそうなるんだよっ!


 かくして、俺の留置場生活が始まるのであった。




 留置場での生活は主に取り調べの毎日。朝8時に叩き起こされて、そのまま尋問室まで連れて行かれると尋問官、とは言ってもあの女騎士が毎日毎日8時間近くにも及ぶ取調べを行う。途中1時間の休憩を挟むにしても、よくもまあ飽きずに続けらるもんだと逆に感心するよ。


「ですからあ。俺もなんであんな所でコンビニ開いてんだか、いまだによくわからないんですよ」

「よくもぬけぬけと、だからそのコンビニとはなんなのだ? 商店のことのようだが、もう少しわかりやすく説明できないのか?」

「何回も言ったじゃないですかあ。24時間営業のお店で、食品とか嗜好品とかその他生活雑貨とかを販売するお店の総称だって」

「そんなものは帝国広しと謂えど聞いたこともないと何度も言っているだろう? だいたいきさまは商会になんの届け出もせずにあそこで商売をしていたのだ。納税の義務も怠っているようだし、これは重罪であるぞ」


 またその話か。もう何度も聞いたよそれ。だってそんなの知らなかったんだからしょうがないじゃん。って言って許されるなら苦労しないよな。なんでそういうところは俺のいた世界と変わらないんだよ。皆に優しい世界だと思っていたのに、俺の安息の地はいったいどこにあるんだ。


 結局今日もそんな感じでお互いの主張は平行線のまま、尋問が終わると俺は牢屋に戻される。

 そんな生活が3日も続くと意外に慣れてくるもので、そろそろ夕飯の時間かなと俺はワクワクしていた。楽しみが食事くらいしかないからな。


 しばらく待つと足音が聞こえてくる。今日の献立はなにかな? 昨日は牛肉とサラダとパンだった。

 意外に豪華な食事で最初は俺も驚いたが、味付けも美味しいし、取り調べを受けている間以外は自由時間みたいなもんなのでここでの生活も意外に悪くない。


 フードを目深に被った給仕係が食事の乗ったトレーを中に入れると、俺は前回の空いたトレーを渡すのだが……。


「べんりくん……べんりくん」


 小声で話しかけてくる給仕係……この声は?


「私ですべんりくん」

「ろ、ローリン?」



 つづく。

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