第十一話 プッチンパポペ大賢者①
俺は気を失っているっぽい女の子を床に寝かせると胸に耳をあてて鼓動の音を確認する。
むふ。ちょっと柔らかい。
それをなんか疑わしい目つきで睨むソフィリーナとローリン。いやいや、いかがわしいことなんて考えていませんからね? ほんとだよ?
次に口元に耳を近づけて呼吸を確認する。少し弱いような気がするな。よし、ここは人工呼吸で呼吸の補助をっ!
しようとした所でソフィリーナに後頭部を叩かれる俺。
「いってーなっ! なにするんでいっ!」
「あんたこそどさくさでなにしようとしてんのよ」
「なにって、心肺蘇生を施そうとしてただけだろうがっ! 最初の3分が勝負って言われてんだぞっ!」
「心肺停止してねーだろ。て言うか今ちゃっかりその娘のおっぱい触ったでしょあんた? キモぉぉぉおお、お巡りさんここに痴漢がいまーす」
「な! さ、触ってねーしぃ? おまえこそ早く服着ろよこの痴女がっ! いつまで下着姿のままでいるんだよっ! 女神の癖に羞恥心の欠片もねーのかよおっ!?」
着替え途中だったソフィリーナとローリンであったが、この駄女神は特に恥ずかしがるわけでもなく堂々と下着姿のまましゃがみ込んで女の子の様子を見ている。
まあ、こんなビッチの下着姿なんか見てもなんとも思いませんけどね……なん……とも……。
「なに前屈みになってんの? まあいいわ。わたしは女神ですから、人間なんかに裸を見られたって動物に見られているのと変わらないし、大して恥ずかしくもなんともないから」
「あーそうですか」
ちなみにローリンは奥に引っ込んで首だけ出してこちらの様子を窺っていた。
「それにしてもこの子、変な格好しているわね」
よくよく見ると女の子は、白いシャツと赤いスカートの上に茶色いローブを纏っていた。
冒険者にしては随分軽装に見えるが、見た目からして魔法使いの様な感じに見える。そう思っていると女の子は突然目を覚まし、ガバっと上半身だけを起き上がらせた。
「あれ? ここどこですか?」
どうやら自分の置かれた状況が分からずに混乱している様子だ。
「や、やあ? 大丈夫?」
「む!? 誰ですかあなた? 痴漢ですか?」
なんでやねん。目の前の知らない人をいきなり痴漢呼ばわりするなんて失礼な奴だな。
「そうよ。この男、さっきあなたが気を失っているのをいいことにおっぱい触ってたから」
「なっ! なにを言っているのかなああああああああっ! そんなことしてませんよおおおおお!」
女の子は自分の薄い胸に両手を当てて擦ると頬を紅く染める。
「道理で、少し小さくなったような気がします」
いや、最初から小さかったから、この子馬鹿なのかな?
「と、とにかく。きみが店の前で倒れていたから、こうして保護していたわけなんだけど」
「そうだったのですか! それは助かりましたありがとうございます」
「うんうん、わかってくれてよかったよ」
すると女の子は黙り込みソフィリーナの方をじっと見つめて暫く考え込むと、絶望的な表情を浮かべて恐る恐るといった感じで口を開く。
「そ……そして私は……私もそこの女性の様に辱めを受けることになるのですねっ! このけだものおおおおおおっ!!」
ああああもうっ! めんどくさいなあっ! この馬鹿女神の所為で台無しだよほんとっ!
「助けて頂いた恩人の方に大変な無礼を働いてしまい申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる女の子、俺は女の子の放った魔法によって全身大火傷の重傷を負ったのだがパワビタンZのおかげで一命を取り留めたのであった。
「いやまあ、べつに気にしてませんよ」
まあ死ぬほど熱かったけどね。死ななかったけど。
「よかったです。申し遅れましたが私の名前は、ぽっぴんぷりん、と申します」
その瞬間、ぶっ! と噴き出す俺とローリン。いやまあ、失礼なのは承知してますけどいきなりの不意打ちすぎて堪えられなかったわ。
ちなみに駄女神とローリンは既に着替え済みです。
「む!? 今笑いました?」
「滅相もない、笑ってないですよ。ぽ……ぽっぴん……ぷっぶふっ!」
「やっぱり笑いましたっ! 人の名前で笑うなんて失礼な輩ですね」
いやだって、我慢しようと思ったけど声に出すとやっぱり堪えられませんよ。
するとソフィリーナが店内からデザートを持ってきてぽっぴんぷりんにそれを出した。
「まあまあ、これでも食べて落ち着いて」
笑顔でソフィリーナがテーブルの上に置いたのは、プッ〇ンプリンだった。
「ぶぅぅぅうううううううっ!」
おまえ! 絶対わざとだろ! ローリンも後ろを向いているが、口元に手を当てて小刻みに震えているのがわかるぞ。
「なんですかこれは?」
「プッ〇ンプリンよ。美味しいから食べてみて」
「ほほぉ。それはなんだか親近感の沸く名前の食べ物ですね。それでは遠慮なくいただきます」
蓋をあけて一口頬張るとぽっぴんは笑顔になる。お気に召したようでなによりです。
落ち着いてきた所で、なぜ店の前で行き倒れていたのか説明を聞いた。
どうやらあるお宝を探してこのダンジョンに一人潜ってきたらしいのだが、この下の階層まで行ったところで強力なモンスターに出会ってしまい、命からがら逃げおおせてきたのはいいが、ここまで来た所で力尽きてしまったらしいのだ。
「なるほど。それにしても魔法使いが一人でなんのアイテムも持たずにダンジョンに入るなんて無謀ですよ」
「魔法使いではありません。私は賢者です」
は? いやいや、賢い者だったらそんな馬鹿なことはしないでしょ? なにを言っているのかなこの子は、馬鹿なのかな?
「えっと? 誰が?」
「わ・た・し・ですっ!」
ぽっぴんは立ち上がるとその場で大見得を切り始める。
「私は大賢者ぽっぴんぷりんっ! この魔王のダンジョンにあるという【聖者の書】を探しに来たとても賢い美少女賢者ですっ!」
んー、なんだろうその頭痛が痛いみたいな自己紹介、きっと馬鹿なんだろうなあこの子。
その時俺達は、こいつの所為でとんでもない事件に巻き込まれるなどと想像もしていなかったのだ。
つづく
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