第十七話 洞穴からの脱出
俺はミミズみたいなモンスターに追われ、もう既に出口がどの辺りにあるのかが分からなくなってしまった。
グネグネ曲がってるし、色んな所に曲がり角があるし、そこを必死に逃げていたら完全に迷ってしまったよ。
「はぁ……はぁ、ちくしょう。地下迷宮かよここは……」
そして何とかモンスターから逃げられたは良いけれど、ここからの脱出が困難になってしまったな。更にあの死人の少女もいる。本当にどうしたものか……。
「……生き埋め上等で天井ぶち破るか?」
『ここが地下深かったら死ぬわよ』
的確に妖精がツッコんで来やがった。
「分かってるよ……おわっ?!」
「見~つけた~」
適当にこの洞穴の中を歩いていたら、いきなり後ろから変な力で引っ張られた! あいつか!
「こ……の!!」
とにかく、俺はそいつに向かって後ろ蹴りを入れて、風の爆発を発生させると、そいつを吹き飛ばした。
「あっ……もう! 狭いところで暴れないでよ!」
「暴れるわ!」
相手の腕が俺から逸れたから、おかしな力から逃れる事が出来た。だから当然また逃げるさ。
あれだな……この特異力だけだと、戦闘が不安だな。俺もなにか魔法とか使えるようになりたいもんだな……。
「グジュルルル!」
「おっわ!! 今度はモンスターかい!」
死人の少女から逃げたと思ったら、目の前の角から今度はミミズみたいなモンスターが出て来た!! どうなってんだ? 回り込まれた?!
―― ―― ――
「はぁ……はぁ……」
『大丈夫~?』
あれから更に何回か追い回され、捕まりそうになったり食われそうになったが、何とか隠れられるくらいの隙間を見つけ、そこで息を整えている。
流石に2体の敵に別々で追われていると、考えが纏まらない。何となくこの洞穴に違和感を感じているんだが、それが何かを考える暇すらない。
「ちくしょう……あの野郎どもが……」
追われるのは慣れてるとは言え、流石に出口の見えない鬼ごっこは勘弁だな。
「しかし……ミミズみたいなモンスターのやつを撒いたと思ったら、今度は逃げてる先から出て来るとか……まるで繋がってるみたいな……」
あぁ、そうだった。洞穴だからって、どこまでもどこまでも続いてるわけじゃねぇだろう。全ての通路は繋がっていて、1つの家みたいにしているんだよ。何やってんだ俺……気付けよ。
つまり、俺はさっきから同じ所をグルグルと回っていた可能性がある。
「そうなると……先ずあのモンスターさえ何とかなれば……いや、逆に利用してやるか?」
ここに隠れていて気付かれなければ、上手く奴の体に引っ付いて、出口を探す事が出来るかもな。出来なくても、全体は把握出来るかもな。
あとはその間、死人の少女に見つからない事を祈るだけだ。
「……ん? 来たな……」
俺がそんな事を考えている内に、どうやらミミズみたいなモンスターが来やがったようだ。奴が這ってる音が聞こえる。
「ジュルルル……」
そして俺は、奴に見つからないように、体を壁に引っ付けて通り過ぎるのを待つ……が。ここで俺は、とんでもないミスをしてしまった事に気付いた。ミミズって目が見えないよな。じゃあどうやって獲物の位置を探すのか……光りは感知出来るらしいが、殆ど感覚器ってやつだろうな……。
奴の場合……俺の目の前にまで迫ってる、先端から伸びてるこのヒゲみたいなやつだよな! 来るな来るな! 俺を触るなよ!
「くっ、これ以上は……あっ」
「グジュルルル!!」
「こんな時にデカい胸が邪魔になるのかよ!! ちくしょう!」
必死に背中を壁に引っ付けて、なんとか奴のヒゲに当たらないようにしていたのに……デカい胸にその先が当たってしまったよ。
そしてその直後、そのヒゲが伸びている先端部分が、口のように思い切り開き、俺を食べようとして向かってきた。
「この野郎……ミミズは土食っとけよ!!」
調子に乗りやがって。モンスターを倒せないからって、むざむざとやられる俺じゃねぇんだよ!
とにかく、俺は急いで地面を蹴って風の爆発を起こすと、その爆風に乗って上に飛び上がり、奴の突進を避けた。そして、そのまま横からそいつの体に蹴りを入れて爆炎を上げる。それでちょっとはぐらついたが、それでも微妙だな。だが、そのお陰で奴の背中には乗れそうだぞ。
「へっ……ミミズの背中に乗るのもあんまり気乗りしないが、そうも言ってらんねぇな! って、うぉっ!」
思った以上にヌメヌメしていやがった! これは掴み辛いぞ、ちくしょう! それでもなんとかそのモンスターの背中に跨がったが、体中ヌメヌメしているからしがみつくのも大変だわ。
「ちっくしょっ……離すか!」
離すとまた追いかけられてしまう。こいつは今嫌がって暴れてるんだ。それで一旦外に出ようとしてくれたら、そのままあの死人の少女からは逃げられる。
そしてミミズみたいなモンスターは、そのまま暴れ続けて洞穴の中を進んで行く。よし、この調子なら……!
「あっ、はっけぇ……ぇんんぅ?!」
「はっ! くっ! もうちょい真っ直ぐに伸びろ! 落ちる、くそ!!」
「…………なぁにあれ? ビッグローションミミズに引っ付くなんて、気がどうかしちゃったのかしら?」
なんか今声が聞こえたな? あの死人の少女か?! だけど、追ってくる気配がない。なにかに驚いたのか?
『あんた今、凄い事になってるからね……』
ついでに妖精まで何か言ってくるが、俺はそれどころじゃねぇんだよ、脱出したいんだよ!
「ジュルル……グジュルルル!!」
「あだっ! くそっ! この野郎!」
すると今度は、そのミミズみたいなモンスターが壁に体を擦りつけ始めた。もちろん、その間に俺は挟まれるようになってしまったから、背中が擦れてしまってるが、なんとか体を起こして最低限のダメージに留めている。
しかし、このまま進まれたら流石に肩が脱臼したりする可能性も出て来るな。何とかしたいが、こいつの体更にヌルヌルになってきてねぇか?
『そいつ興奮したら更にヌルヌルになっていくからね。気を付けなさい』
「おっせぇよ、馬鹿!」
今更言われてもどうにも出来ねぇよ! なんとか踏ん張らないと。
「うぉっ?!」
だけど次の瞬間、俺の背中の壁がいきなり消えたようになり、思わず体が仰け反ってしまい、その反動でモンスターの背中から振り落とされてしまった。何が起きたってんだ?!
「いっつつ……あっ? 外?!」
とにかく起き上がって辺りを確認すると、そこは真っ暗な夜の闇が広がる草原だった。
どうやらミミズの野郎が、狭い洞穴内じゃなんともならないから、外に出て振り払おうとしたんだな。結果振り払われたが、外に出たらこっちのもんだ。
「ジュルル……」
「へっ……また俺を食おうたって、外に出たらこっちの……うぉっ?!」
逃げようとしたら足が滑ってコケてしまった! なんだ? 足が滑る!
「なんだこのヌルヌル! くそ……中々取れねぇ、気持ち悪ぃ!!」
「グシュルルル!!」
「いっ……やっべ!!」
なんとかしてまた立ち上がろうとしても、その度にこのヌルヌルで滑ってしまう。急ぐと駄目だ!
さっきはゆっくりだったから立ち上がれたが、今は急ごうとして体に変な力が入ってしまい、もの凄く滑ってしまう! 頭じゃ分かってるのに、焦ってしまって上手くいかねぇ! そうこうしている間に、奴の口が!
「グラース・ジョール!!」
「…………えっ? あっ……」
そして奴の口が俺の頭にまで来て、もう駄目だと思った瞬間、目の前のミミズみたいなモンスターは、氷の中に閉じ込められていた。というか、俺とその氷まで僅か数ミリじゃねぇか。危うく俺まで凍るところだったよ。ギリギリなタイミングだった。
「ジル……もうちょい、いや……良い、助かった」
「文句は僕が言いたいですからね」
「だよな……悪ぃ」
まぁ、説教はちゃんと聞くぞ。とにかく、今は助かった事に安堵させてくれないか。流石に終わったと思ったわ。
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