第十一話 街の捜索
あれから俺は、街を探そうとしたのだが、軍の奴等が大量にいて、家の中を一つ一つ調べ、更には細い道まで、くまなく探していたから、もしこっちに隠れていたら、その内に間違いなく見つかるだろうな。
それと、軍の奴等に見つかるわけにはいかないから、隠れながら移動していたよ。それが思っていた以上に大変で、時間がかかっちまった。
とにかくこっちの街は、それだけ調べられている。だけど、そんなのは向こうも分かっているだろうな。ということは……。
「黒い街の方か……」
そして俺は、高い白い壁の前に着くと、それを見上げた。高ぇな……やっぱり。どうするよ。
扉の前にいる門番に見つからないように、家の陰に隠れているが、まさかその門番が、2人もいるとは思わなかった。そうなると、隙を突いて扉を通るのは無理そうだ。
「……壁を越えるか?」
『爆発の音で、確実にバレるけどねぇ……』
「……ちょっと待て、黒い街にジルやソフィを連れて行こうとしても、必ずこの扉を通らないといけないだろ? 門番が気付くよな? もしかして、門番が買収されていたのか?」
そうだとしたら、壁を越えて探した方が良いだろう。だけど……そうじゃないとしたら、白い街の方に、抜け道かなにかを作ったか?
実はこの扉、1つしかない。つまり、この門番が買収されていたら……アウトだ。
しかしその時、そいつらの前に赤い髪をした男性が現れた。エリクだ。
「あっ……お疲れ様です!! エリク様!」
「お~お前等、ちょっと良いか?」
「はっ?」
「俺達になにか隠しごとか、やましい事とかあるか?」
「いや……ないですよ! そんなのあったら、エリク様にバレるでしょう!」
「まぁな~おし、分かった。お前等は買収されてねぇな。この前の奴等は、簡単に買収されやがってよぉ……」
……エリク、お前も「特異力」持ちか? 嘘を見抜くとか? 隠しごとを見破るとかか? ヤバい……隠しごとだとしたら、俺が元々男だって事がバレて……いや、今はそれどころじゃねぇな。
「買収はなしか……つ~ことは、抜け道か……」
しかし抜け道なんて……これだけの軍の奴等が捜索しているんだ、見つかるだろうに……見つからないのか?
だとしたら、盲点になっているところ……ちょっと待てよ、門番の奴等が買収されていないなら、俺を監視していた奴はどこから? 更に、奴等と連絡は取り合っていたのか?
そもそも、どうやって攫った? 教会に侵入した跡はあった。 だが、見張っていた軍は何も見ていない。透明になってるわけでもない。ダメだ、俺の頭で考えても、余計に分からなくなるだけだ。
単純に教会か? 軍の奴が真っ先に調べてるわ。
それなら、軍の関係施設……俺の宿泊の為に手配された宿屋、実はあれも軍が運営を……。
「……待てよ」
そうだ……軍は、自分達の運営の下でやっている場所が、よもや抜け道にされているなんて、そうは思わないだろうな。
しっかりと管理して、宿屋の店主も軍の関係者を使えば、そこが黒い街への抜け道になるなんて、あまり考えないだろうな。
だがな……その店主が買収されてたら?
あんな質素な宿屋の屋根に、誰かが上っていたら、周りも気付くだろうが……それとな、俺が屋根にいた奴を蹴り飛ばした後、あんまり騒ぎが起きなかったんだよなぁ……。
「くそっ!」
とにかく、それに気付いた俺は、急いで走り出した。
冗談じゃない、ふざけるな!
もし、あの宿屋に抜け道があったとしたら、俺が胸騒ぎがして教会に向かった直後、奴等はすれ違い様に宿屋に……いや、もしかしたらあの時既に、ジルとソフィはあの宿屋にいたのか?!
「ちくしょう……ちくしょう、ちくしょう!! ちょっと注意して見ていれば、分かった事だろうが!」
自分が情けないわ。あんな騒ぎを起こしておいて、店主も出て来ない。周りの家からも誰も出て来ない。そんなの不自然だろうが!
とにかく、俺は全速力で走った。
―― ―― ――
「……はぁ、はぁ」
そして宿屋に戻った俺は、急いでそこに入っていく。
「おや? どうされました?」
「……悪い、ちょっとここの1階、調べさせて貰うわ」
「えっ……? いや、いけません!」
「なんでだよ?」
「それは、他のお客様が……」
「客ぅ? 俺がここに来てから、誰かが居た気配がないぞ? まぁ、夕方なら出掛けてると思って、気にしなかったが。今の時間になっても、誰もいなさそうなのは……どういう事だよ?」
「そ、それは……」
お~お~目が泳いでるぞ、はげ頭の小太りおっさん。嘘が下手だねぇ。まぁ、ただ買収されただけなら、こんなもんだろう。
「とにかく、客が居るって言うなら、一旦部屋から出てくれるよう、言ってくれないか? こっちは、人攫いの捜索してんだよ。ジュストの指示でな」
「ジ、ジュスト中佐の……?」
まぁ、連絡するならしろよ。その瞬間、ジュスト達がここにやってくるぜ。
あとは、どっちの言葉を信じるかだが……ジュスト達からしたら、俺の方が筋が通ってるし、信じたくはないだろうが、これだけ探しても抜け道がなければ、ここも探ると言うだろう。
もし、まだ片付けが終わってなければ、お前等はジ・エンドだ。
「ジュストに確認しても良いぞ」
どっちにしても、お前はもう積んでるんだよ。
すると次の瞬間……1階のある部屋の扉が吹き飛び、中から誰か出て来た。
「おっさ~ん。こりゃあもう、誤魔化せねぇぜ~まっ~たく、素人はこれだから駄目なんだよ~」
そいつは、黒で統一された衣装を着ていて、パンク野郎の着ている服みたいに見える。そしてその服は、沢山のネックレスとかアクセサリーがぶら下げられていて、ジャラジャラと歩く度にうるせぇ。
髪は濃い青色で、針のようにして思い切り立ち上げていて、口はデカくて、歯は犬歯ばかりかと疑う程に尖っていやがる。更には手足も長ぇ。
それで口角を上げてにやけられているから、まさに定番の悪役って感じだな。
「あ~しかし女かぁ~こりゃ楽そうだ」
「てめぇ、ここで何してた?」
「あ~? 言わなきゃいけねぇのかよ~」
あぁ……この喋り方、思い出しちまう。
俺に喧嘩ふっかけてくる奴等は、皆揃ってこんな喋り方してやがった。はは……久々に血がたぎってきた。
こんな奴が、力でねじ伏せられて、顔を真っ青にしながら恐怖している姿は、凄く滑稽なんだよ。
「あぁぁ……ギー様、私は何も失敗は……かっ……あ……」
「うるせぇな~どっにしろ、この作戦が終わったら、てめぇは殺すつもりだったんだよ~」
「なっ……あっ、そんな……」
刺した……刺しやがった。パンク野郎の所に懇願しに行ったおっさんの胸を、躊躇なく腕で突き刺しやがった。しかも、その腕が槍みたいに尖ってるぞ。
「てめぇ、どうかしてやがるぞ……」
「あ~? な~んの事かなぁ~?」
その後、はげ頭の小太りのおっさんは、体が数回痙攣した後、そのまま動かなくなった。
目の前で、人が殺された。お互い命をかけた戦いじゃない。
戦えない者を、容赦なく……殺した。
それはやっちゃいけねぇだろう。俺は暴力は振るっても、人の命だけは取らなかった。
それをやってしまったら、人じゃなくなってしまう。そんな恐怖が、俺の中にあっんだ。人じゃなくなったら、俺はあのクソ両親以下になってしまう。そんな思いがあったからな。
だからこいつは……あのクソ両親以下だ!
「てめぇ……てめぇ等なんかに、高笑いしながら人を殺すてめぇ等なんかに、好き勝手させるか!!」
「は~? な~に言ってるんですかぁ? この、ギー・ブゴー様に向かって言ってるのか~? この雌豚が~」
そして、そいつはそう言うと、腕に突き刺していたおっさんを放り投げ、俺に近付いて来る。舌を出して、俺を見下すようにして笑いながらな。
その余裕の表情、一気に崩してやるよ。
例え心が折られようと、この世界に恐怖しようと、この闘争心こそが、何よりも揺るぎない、俺が俺だっていう証拠なんだからな!!
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