第二章 グランクロス国 ~王都に渦巻く陰謀~

第一話 王都ロザーンジュ ①

 そして翌朝、魔力充填の完了した飛行艇に乗せられ、俺はグランクロス国との国境を越えた。一応囚人として、護送の形でな。

 納得いかねぇが、そもそも俺は身分を証明する物がない。だから、客人にしてもその証明が出来ないから、入国出来ないわけなんだよ。


 それとこの飛行艇は、飛ぶだけでかなりの魔力を消費するらしく、国を超える程の移動となると、途中で魔力充填しないといけないらしい。意外と不便だったな。


 それでもこの世界にとっては、これが1番速い移動方法なんだろうな。


 そしてしばらく飛ぶと、その先からデカい城が見えてきた。

 おいおい、まるで塔みたいな高さじゃねぇか、どうなってる……それと、なんだあの無駄に高い壁は……。


「見えてきましたね、あれが私達の国のメイン都市、王都ロザーンジュです」


「へぇ……無駄にでけぇ城だな」


 すると俺の言葉に、ジュストが微妙な表情をしながらこう返してきた。


「あれは、我が国の負の遺産です」


「えっ?」


 負の遺産って……どういう事だ? あっ……まさか、魔王軍の下に付いた時に……。


「あれは、昔魔王軍側に付いた時に、変えられたんですよ」


 なるほどな……その城に徐々に近付いてきて、ようやく分かったよ。負の遺産って言った意味が。

 城の外壁真っ黒じゃねぇか! カッコいいな……とか言ったら、不謹慎なんだろうな。


 そういや、街並みも良く見たら、道路から家の壁の色まで、黒一色に統一されてて、模様が入るとしたら、赤いラインか、少し濃い目の青いラインが入っていやがる。


 あぁ、全部カッコいいと思ってしまうぞ。俺からしたら、最高にカッコいい街じゃねぇか! 三角屋根の家のてっぺんには、角みたいな装飾品があって、四角い家にも、その屋根には角みたいな装飾がしてある。


 ただ、その街は結構広くて、飛行艇は今見えている街の、その反対側に飛んで行く。つまり、城に引っ付くようにしてそびえ立っている、大きな壁の向こう側だ。


「うぉ!! なんじゃこりゃ!!」


「驚いたでしょう? これが、王都です。正に、今のこの国を象徴するかのようになっています」


 ジュストの言葉なんて耳に入らなかったわ。だってよ、反対側は真っ白だったんだ。おいおい、ツートンカラーの王都かい!


 しかも家の形も、反対側の黒い街とは違い、誰かのデザインなのか、芸術家が作りそうな、独創的な家が建ち並んでいた。

 もちろん家の色や、反対側の城の外壁は、白で統一されていて、青いラインが入っていた。


 嘘だろう、なんだこの見事なまでの、善と悪の分け方みたいな街は。ということは……黒い街並みの方に住んでる奴等って……。


「気付きましたか? そうです、黒い街に住んでいる人達は、魔王軍側に付き、その私腹を肥やしていた人達が住んでいます。今でも、裏でコソコソとなにか動いているようなんです」


 すると、呆然とその街を眺める俺に向かって、ジルがそう言ってきた。


 なるほどな……ということは、正に黒い街の方は、この国の闇……汚い部分ってわけか。良いねぇ、俺はその汚い中で過ごしてきた。別に、嫌な感じはしねぇな。


「マリナさん、気を付けて下さいね。一応黒い街と白い街は、高い壁で分けられていますが、扉で行き来できるので、門番はいても、その門番に賄賂を払って、反対側の白い街に来る人もいます。接触しないよう、気を付けて下さい」


「なんでだ?」


「あなたは、黒い街の人達から狙われてますから……」


「ほぉ……そいつらってもしかして……」


「えぇ、どうやら魔王の復活を試みているようなんです」


 厄介な街になってるもんだな。それで、白い街の奴等はそれに反対していると? お前達は、その白い街の方の人間ってわけか?


「それと、黒い街にも行かないようにして下さいね」


「分かったよ」


 それにしてもジルの奴、昨日俺に膝枕されたのに、顔色1つ変えやがらねぇ。起きた瞬間は、それはそれは大慌てで、とても可愛かったんだがな。


「……涎出てますよ」


「ほぅっ?!」


 なんか、セレストが変な目で見てると思ったら、思い切り涎が出てた! 何やってんだ、俺は!!


 くそっ、あの薬膳料理に合わせて、精神が体に引っ張られていってるのか?

 確かに、良く考えたら体の仕組みも変わってやがるから、脳の作りやその反応も、変わってんだろうな……なんせ男の時には、こんなに難しい事は考えなかったからな。


 すると、飛行艇はその高度を下げていき、野球場のように広い場所に降りた。因みに、その周りにももう2隻ほど、同じような飛行艇があったわ。ここは発着所か?


 近くに、屋根の低い建物があるくらいで、殆ど何もねぇからな。因みに、その建物も真っ白だったわ。


「さて……それでは。セレストさん」


「はい……」


「んっ? おっ? あぁ……そう言えば俺、囚人か……」


 飛行艇が降りた後、ジュストがセレストになにかを促した瞬間、彼女が俺をロープで縛り付けてきた。


 まぁ、確かに囚人だからな……と思ったら、縛り方がなんかおかしい。

 両腕を後ろに固定されて、そのまま両腕からロープが伸びていって首元に。更には、そこから胸や腹にかけて、器用にロープで甲羅の模様のように縛り上げていき、そして……って、ちょっと待てやぁああ!!


「これは危ない! セレスト、止めろ!!」


「…………」


 そのまま無言で解いていくんじゃねぇよ、なに考えてたんだ、こいつ。危ねぇな……あのSM定番の縄の縛り方してんじゃねぇよ。


「……いけない、つい願望が……」


「……んっ?」


「なんでもないです」


 まぁ、バッチリ聞こえたけどな。セレストってまさか……ドMなのか? そんな馬鹿な……きっと、誰かにこれをしたいんだろうな。まさか、ジュストにか? 恐い恐い……。


「……ジル、セレストと変わってくれ」


「分かりました」


 気付いたら、両手を後ろにされたままで、胸を強調されるように縄が巻かれていて……って、これも危ねぇからな! セレスト!! SMの緊縛プレイは止めろ!!


「ただ……マリナさんの事は、住民達も予言で耳にしています。あなたの事は知らなくても、その能力を知っている人は多いです。なので、足が自由になってるのは不安でしょうし、両手と足をまとめて……」


「もういい、他……誰かまともな奴はいないのか!!」


 そのまま吊すんじゃねぇぞ!! それと、俺はおもちゃじゃねぇぞ、楽しむじゃねぇよ!


「おやおや……いけませんねぇ、皆さん」


「ジュスト、そうだ言ってやれ!」


「ちゃんとこうやって縛らないと……おっとぉ!!」


 こいつが割って入ってきたから、ちゃんと縛れるのかと思ったら、よりにもよって、その縄で俺の大事な所に……そんな事をされる前に、蹴り入れたけどな。まぁ、俊敏な動きで避けられたけど……。


「さて、冗談はさておき。皆さん、上手く縄で拘束出来ないのなら、これをはめるだけで良いでしょう」


「なんだこれは?」


 するとジュストが、細かい装飾の施された腕輪を出してきて、それを俺の腕に付けてきた。危ないもんじゃねぇだろうな。


「魔力や恩恵を遮断する物です」


「だったら、最初からこれを使えば良いだろうが……なんで縄なんかで……」


 すると、俺の疑問にジルが答えてきた。


「ジュスト中佐の指示で……」


「てめぇかぁぁあ!!」


「おぉっと!! 暴力反対~」


 すました顔して、俺の蹴りを避けてんじゃねぇよ! こいつ、本当にムカつくぞ!!


 お前は、俺の抹殺リストの中に入れておいてやるよ。ただ、不良行為は出来ねぇからな、なんかしらの仕返しプランでも考えておいてやる。


「中佐にあんな風に絡まれるなんて……」


 その後に、セレストがまたなんか呟いたけれど、お前本音が漏れすぎだぞ。大丈夫か? というか、ジュストの事になると、本音が漏れやすくなるな。それはそれで面白ぇわ。


 だけどその前に、俺はこいつを蹴らないと気が済まねぇ!!

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