第80話 そもそもこれ、恋愛物語じゃないしなあ

 おれ(わたし)は、夜明け前から書きはじめて朝食前に物語の最後のテキストを完結させた。やったーっ、という気分になりながらも、書きながら考えていた別の物語に関するメモを見て構想を膨らますのはいつものことである。

 さて、この物語はうまく行っただろうか。世界観や登場人物にリアル感を含む共感を求められるような話になっただろうか。登場人物に対して与えた試練は適切だっただろうか。そういうことはあまり考えない。

 ハチバンは昨夜、おれ(わたし)のマンションに泊まって、勝手に朝風呂に入ったあげく、こ、こ、この原稿を書いているおれ(わたし)のうしろで、パンツ一枚(ズボン的なパンツではなく、下着的なパンツ)で牛乳を飲んでいる。

「わっはっはー、いいではないか。何を照れておる、男(女)同士だろう」と、ハチバンは調子に乗って言った。

 風呂上がりのハチバンは、おれ(わたし)と同じシャンプーの匂いがした。

     *

「思うんだけどさ、この物語って、男の体と男の心を持った主要キャラクターっていないよね」と、モニターを覗き込みながらハチバンはメタなことを言った。

「出てるやん。おれ(わたし)の親父」

 げえ、と、ハチバンは露骨に嫌な顔をした。

 まあ、そういう類の恋愛物語は、別のを読めばいいだけのことで。そもそもこれ、恋愛物語じゃないしなあ。いくらおれ(わたし)がハチバンを大好きだったとしても。

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