第73話 現れるのが創造神だったら、あんまり効果は期待しないほうがいいかと

 空に広がった雲からは、大粒の雨がざんざか降ってきて、遊歩道を歩いていた人たちも雨宿りのため姿を消した。

 話の都合上、今までおざなりにしていた古鏡のつまみである龍のタッくん先輩(シャオロン)は、おれたちの周りに雨よけの薄いシールドを張ってくれたので、引き続き座ったままで話を続けた。

「この鏡は古代の、神とほぼ同じ能力を持った王が、邪神を崇める蛮族を排するためにも使ったものなので、本物の創造神が来たってどうってことないです」と、タッくんは胸(に相当する何か)を叩いて言った。

「左手で鏡の裏側を持って、ちょうど0時の角度、つまり私の頭が上になるようにして支えてください。ずーっと海の先のほうまで、人とか船がないのを確認したら、ためしに1時ぐらいの角度になるように、右手で私を回してみて」

 言われたようにしようと思ったけど、けっこう難しいんで、1時半ぐらいの角度になってしまった。

 鏡から強い光が海の上を照らし、地上に落ちた太陽さながら、浜辺と波打ち際とはるか沖までを水蒸気に変えた。いちめん灰色の海と空は、金色に満たされた。

「この光は正面、90度までの角度の、ほぼすべてのものを焼き尽くすことができます。理論的には太陽の表面温度ぐらいですかねえ」

「めっちゃすごいやん」と、おれは感心した。

 前におれをおふくろのところまで飛ばした超電磁砲、じゃなくて超電磁パチンコもそうなんだけど、古代の神とか霊獣って謎の科学技術力(みたいなもの)を持ってるんだな。

「3時のところまで回すと最大角度になり、そこより先に回すと焦点が絞られて、さらにすごい温度で、的となる敵を狙えます。でもこれ、ヒトに対して使用するのは今はもう禁じられてるんじゃないかな。神々同士の争いでは、うまく合意が形成されなかったときの、比較的無難な道具ぐらいにはなるかと」

「ふーん。反対方向に回したらどうなるの」と、おれは言って、タッくんのつまみを0時から11時方向にすこしだけ回した。

 闇がわずかに海を飲み込み、消えたわずかの海を埋めるように、たて方向に波が泡立った。

「それは闇の力ですね。すべてを無にできるんですが、現れるのが創造神だったら、あんまり効果は期待しないほうがいいかと」

「どうして」

「無にする以上にどんどん創造できるもんで。ああ、沖のほうに私の親分も現れた」

 空の雲と海とが交わるところよりやや手前、数キロほど先のところに、鈍い金属色の竜巻が、海水を天に向かって吸い上げていた。しばらくすると、雨と共に数千、数万もの、大小さまざまな魚を中心にした魚介類が空から降ってきた。

「応援ありがとう!」と、タッくんは言った。

 親分も応援するだけなのか。

 おれは緑の触角、赤い鼻、黄色い手袋、そして青い指輪のフル装備で、五色の霊獣が彫り込まれた古鏡を持って、海に向かって叫んだ。

「さあ、どっからでもかかってきやがれ」

 雨は次第にやんで、徐々に黒い雲は青い空に変わっていった。日の光が海を照らすと、灰色の海の一部に濃紺の、巨大な影が生まれた。その影はしだいにはっきりしてきて、海の中から姿をあらわした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る