第42話 あんただけ行かせたりはしないよ、ナオ
「爆弾についた時計のカチコチ言う音、止まらないけどいいの?」と、おれは心配になって言った。
「ジュンコは『これが嘘のつきじまい』『爆弾は青の線を切れば爆発しない』って書いてるから、赤の線を切って、という意味なんです。それに、ジュンコは、私が敵であったのは悲しいことだと思ってるに決まっています」と、イチバンさんは言った。
まあ、切った途端に爆発したわけじゃないからいいか、と思ってデッキに戻ると、やっぱり爆弾は派手に爆発して、船は粉々に砕けて数十メートル四方に飛び散り、おれと酒虫のアルくん(アルチュール)を除く仲間たちはみんな焼死体と水死体になった。おれは吸血鬼だからいくら痛くても死なないし、アルくんを殺すには核爆弾でも使わないとだめらしい。
女性の場合は胸に脂肪があるから水の中では仰向けになって浮かび、おれとちびっこ探偵のブラノワちゃん(ブラン・ノワール)は脂肪が足りないのでうつ伏せで浮かんだ。
知ってるか、臨死体験状態になると「サウンド・オブ・サイレンス」の曲が聞こえるんだぜ。
ハロー暗闇さん ぼくの友だち
*
アルくんの特殊能力(のひとつ)であるタイムリープで、おれたちは黙祷時まで戻って、やり直しが可能になった。
「どうだ、死ぬとか死にそうになるって、けっこう痛いだろ。まあ楽な死に方もあるらしいけどな」と、おれはハチバンに言った。
「納得できねーよ!」と、ハチバンは怒った。
「この爆破装置、いつどうやってジュンコさんが持ち込んだのよ」
「船の整備のときじゃないかな」
「時限装置はどうして起動したの?」
「船のエンジンと連動して、洋上でおれたちが黙祷のためにエンジンを止めたら動きはじめたじゃないか」
「なぜあたしたちがここでエンジン止めるってジュンコさん知ってたのかよ。だいたい、なんであんなにカチコチの音する時計ついてるのよさ。デジタルでいいじゃんよ」
「うるさいなもう…確かに変だけど、そういうのはアクション映画とかじゃよくあることだろ」
「あたしたちの世界はアクション映画じゃないしー。コメディでもないしー」
そうかな。
「もういい! 今度はあたしがやる」と、ハチバンは言った。
みんなでまたエンジン室の爆弾を見に行って、今度はハチバンは赤と青の線の、青の線を切った。
「カチコチ止まらないね…」
やっぱり駄目だった。
*
「逃げよう」と、3度目にはおれはあきらめた。
非常用備品の中から救命胴衣を取り出して、せっせと海へ飛び込もうとしたところを、ハチバンが止めた。
「あんただけ行かせたりはしないよ、ナオ」と、おれを羽交い締めにしてハチバンは言った。
それは、危険なところへ行く人に対して言う言葉で、危険なところから逃げようとする人を止めるときに言う言葉じゃないんだが。
「限定商品は予約のかただけの販売になっております」と、イチバンさんはおれの胴を両手で抱えて、日本語で言った。
「そういうとき、日本の古いことわざがあるわ。案ずるより産むが易し」と、ブラノワちゃんはおれの足の片方にしがみついて言った。
やっぱり爆弾は爆発した。
*
ブルノワちゃんがやる番になって、今度は赤と青の両方の線を切ったら、無事にカチコチの音が止まって、おれたちはハイタッチして喜んだ。
「長年嘘つきの怪盗たちと知恵比べをしていた名探偵の私には簡単なことですわ」
だったら最初からやってくれよもう。
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