sette(7)

「解ったか?」

「はい、覚えてましたよ、『A・GEHAアゲハ』だそうです。ビリヤードなんかもできるプールバーですね」

「アゲハ…蝶々か、バタフライね…」

「はい、間違いないんじゃないでしょうか」

「ホントに子供の暗号遊びみたいだな…いい歳して、こんなもんに振り回されて、クソッ!!」

 俺は、履き古した革靴で電柱を蹴飛ばした。


 三度、S市警察署へ向かい、『PooL Bar A・GEHA』のことを聞いて回った。

 言い噂は聞かない。

 辿って行けば、チャイニーズマフィアに行き着くのだそうだ。

 闇カジノの噂もあったのだが、裏付け捜査の途中で店は潰れた。

「情報が漏れた…で、たたんだんだ…」

「でしょうね…」


 大体、繋がってきた…この街が『片山 崇』の始まりだったのかもしれない。

『悪魔』が産まれた街…。

 産まれたのか…産んだのか…。

『片山 崇』が、この凶行を現実に出来たのは、この街で繋がりのあった連中在りきだったわけだ。

「一度、署に戻って、まとめるか」

「そうですね…案外、スルスルと出てきましたね」

「証言だけじゃな…物証はひとつもない…今できるのは、仮説をたてることくらいだ」

「いいじゃないですか、仮説でも、それに…なにか他に出て来るかもしれない」


 署に戻って、何日かは過去の事件から現在の『片山 崇』に繋がる拳銃の入手ルートを絞ってみた。

 ただ…だろう話に過ぎないのも事実。

 それでも、やらないよりはマシなのかもしれない程度の捜査許可が下りるかもしれない。

 ところが…東京で『片山 崇』と思われる射殺事件が起きてしまった。

 範囲が一気に広がったのだ、同一犯の犯行であると断定されれば、もう県警中心の捜査ではなくなる。

 本庁が乗り込んでくるのは時間の問題だった。


 しかし、本庁は捜査本部を解散させたのだ。

 非公開捜査に切り替えた。


「公安に委ねるんですか?」

「そのようだな…」


 捜査は打ち切りになった、すべての資料は公安がさらっていった…根こそぎだ。

 読む気があるとは思えないほどに、乱暴にダンボールに詰め込んでいく。

 PCはデリートされHDDごと引き揚げて行った。


 俺はパソコンが苦手だった…。

 それが幸いだったのか…アイツは公安より早く、俺の手帳を盗んで、そして辞表を提出した。

「警察は…事実を塗り替えることしかしない」

 アイツは最後にそう言って、俺に盗んだ手帳を差し出した。

 俺は受け取らなかった。

 餞別のつもりだった。


 一応は本物だ、なにかの役に立つこともあるさ…。

 アイツは、『片山 崇』を追うのだろう…警察ではソレができない。

 だがな…一般人では捕まえることはできないんだ。

 止めたいのか…違うな…アイツは、きっと…。

『修羅』

 止めるには…殺すしかないかもしれないんだぞ…。


 コイツの死体が発見されたのは羽田空港の事件の、しばらく後のこと…。

 押収品を盗み出し、その拳銃で自殺とされたが…。

 自殺で額なんか撃ち抜くもんか…。


 誰に殺られたかはしらない。

 警察?マフィア?教団?…思い当たる節がありすぎて…。


 俺は、その後…窓際で、新聞を読みお茶をすするだけの日々に戻った。

 定年を迎える日まで…もう、何も起こってほしくないものだ。


 この事件の結末を、オマエに報告してやりたいがな…それも出来そうにない。

 カツ丼の三つ葉を水で流し込んで、俺は出前のカツ丼を掻きこんだ。

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