貪食

「なんで片山ちゃんだけが処分されんの…おかしいよ」

 女子社員には、良い顔をしたがる、本音は違う。

 昔からそうだ。

 でも、上に逆らうことは無い。

「俺は言ったんだよ、おかしいってね」

 口だけ…しかも立ち話のときだけ。

 会議に参加しても、黙ってるだけ、問題が起きると決め台詞。

「そうなると思っていたよ…」


『カセ・コウジロウ』

 一応は、『彼』の上司だそうだ。

 『彼』自信には何も言えない。

「片山ちゃんのやりたいようにやってよ、フォローはするからさ」

 コイツがやるのは、成果が上がってからの報告書にハンコを付くだけ…それだけ。

 無能力者、ただ長い事、会社に寄生しているだけのいわば老害。

 本社で使えないと判断されて、地方へ左遷させられた。

 表向き、課長の職に就いてはいるが、仕事ができないため、1日中ヒマな男。

 気に入った、女性社員の所へ行って、無駄話しているだけの男。

 給料泥棒・無駄飯喰らい、そんな陰口を叩かれている。

 そんな話が自分の耳に入ると、言ったヤツを徹底的に追い詰めていく。

 陰険な男。

 気が小さいから、ささいな悪口にも過敏に反応する。


 性質たちが悪いのは、お互いを嫌いあっているくせに、『ワタベ・マユミ』と気に入らない対象が一致したとき、協力して追い出しを画策することだ。

 ヒマだから、そういうことに全労力を注げる。

 その成果たるや見事なものだ。


 被害者が退職するから問題にもならない。

 社内で問題にならないのか…ならない。

 自殺者が2名でているからだ。

 なおさら、問題になりそうなものだが、実際はそうじゃない。

 会社ぐるみで、そんな不都合な事実は隠さなくてはならないのだ。

「そんな実態は確認できない」

 人事部の一貫した回答である。


 そう、これを問題にした『彼』への回答であった。


 幸いにして、自殺したのは『彼』の部下ではない。

 しかし、『彼』の部下も3名、退職に追い込まれている。

 何人が、この2人のために人生の転機を余儀なくさせられたのか。

 それが許せないというわけではない。

 弱い者が淘汰されるのは仕方のないことだから…。

 許せないのは、『彼』に矛先を向けたこと。

 自分たちの思い通りにならない人間、それが『彼』だ。

 『彼』の部下が退職に追い込まれたのは、『彼』のせいでもある。

 彼らには何の非も無い。

 この2人は、『彼』を困らせたいがために、『彼』の部下に嫌がらせを繰り返したのだ。

 知っていた…だから上に報告したのだから…自分の為に。


 『彼』は、こういう奴が大嫌いだ…。

 ついでに言えば、ストーカー紛いの気色の悪い男も嫌いだ。


 そういえば『コトネ』が前に言っていた。

 不細工な男って、なんで行動も不細工になるんだろう?

 不細工に産まれても、身なりとか、行動が紳士なら、顔はそれほど重要じゃないよね~。


「中身が普通なら、顔も良い男のほうがいいだろ?」

「うん…当たり前だよね」


 正直だよ…キミは、私が出会った女性の中でも2番目にね…。

 純粋無垢、不思議だ。

 風俗嬢に、そんな姿を見るなんて…。

 逢いたいな…。


 そう…この男は、キミが嫌う不細工で気持ちの悪い男。

 キミに出会わぬように…キミが不愉快にならないように…。

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