怠惰

 リストラの後、仕事の大半は『私』に押し付けられた。

 本社も人員を削減され、捌ききれない業務は支店に振られた。

『私』の業務は激務を極めた。

 効率化を求められ、推進しても他部署が付いて来れない。

 周りに合わせれば仕事にならない…自分のペースでは周りが付いてこない。


 結局、残業と休日出勤で補う毎日。

 それが数年間続いた。

 ようやく部下が揃ってくると、今度は、『私』が邪魔になってくる。

 支店長であった『フジカワ・タカヲ』は、『私』に言った。

「オマエ、独りが使えても、周囲のレベルと合わなければ、いないほうがいい。一時期はオマエのその能力に頼ったし、救われたけど、今はそういう状況じゃない。求められている能力が変わったんだ」


 理由はどうでもいい。

 要は邪魔になってきたということだ。

『フジカワ・タカヲ』、この男は、基本的に何もしない。

 仕事以外の事は、どうでもいいのだ。

 人をまとめる管理能力が無い。

 そもそも、他人に興味が無い。


 自分にさえ関わらなければ、社内での問題なんて取り合わない。

 だから、人間関係が崩壊した。

 ただの荒れた不良校のように秩序が無い。

 ただ、上に言われたことだけに素直に従う。

「オマエに仕事させるなと言われたんでね、引き継ぎしといて」

「ふざけるな」

「そういう命令なんだ、従え」

「………」

「理解してくれよ…オマエさんの評価は高い、社長だって認めている…だが、組織として、オマエしか扱えない自作の管理ソフト、もう…誰もオマエの手綱を握れなくなってしまってるんだ…」

「それを望んだのは、会社だろ?俺、1人に仕事を押し付けておいて、それを熟すために俺が…」

「解っているよ!! オマエはやりすぎたんだ…それを、当たり前のレベルだと認めるわけにはいかないんだ!! オマエを基準にしてしまえば、他の連中はどうなる?オマエ係長ですらないんだぞ、もう…ヒラ社員だとした会社の判断は、どうなる?取引先に示しもあるんだ」

「知るか!! 俺をヒラだと辞令をだしたのはお前等だ」

「そうだ…他をあげることはおろか…全員降格だ…」

「そうしろよ…当然だろ、無能なんだから」

「その性格さえなければ…オマエは…」

「なんだ?どうだっていうんだ?」

「高い能力があるのに…その性格で失うんだ、何もかも…残念だ」

「大きなお世話だ…自分よりバカに仕える気はない」

「あぁ…そうだろうな」

「いいんだな…解雇は免れないんだぞ」

「……好きにしろ…それと、何もかも失う?俺がか?」

「少なくても職は失う…再就職だって簡単ではないだろう…」

「何もかも失うのは…本当に俺か?」

「どういう意味だ?」

「いや…俺だけか…そういう意味だ」

「何を考えている?言っておくが、今更、オマエが会社に何を報告しても、誰も取りあわんぞ」

「会社?そんなものに…お前等なんぞと交渉する気はないね…もう決めたんだ…」

「ん…辞表も手遅れだ…オマエは懲戒処分だ」

「好きにしろ…俺が怖いんだろ?」

「……そうだ…みんなオマエが怖いんだ…抜身の刀だよ…オマエは鞘が無ければ触れることもためらうほどの」

「いずれ、教えてやる…俺は…猛獣は手負いの方が怖いんだということを」

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