ロシアン・ルーレット

第21話 野良犬と飼い犬

 犬は狼を飼いならした結果なのだろうか…。

 それは進化か…そう呼べるのだろうか?

 俺には退化としか思えない。


 全ての生命は進化の途中であると私は思う。

 今、私の目の前で、笹をモチャモチャと食べているパンダだって、元は肉食だ。

 狩が下手なだけで、誰も食べない笹を主食に生き延びようと必死に進化している最中なのだ。

 強いだけで、獲物を狩れない虎より、よほど真面目に一生懸命生きている。


 それも自然界では…という話だ。

 牢屋に繋がれた動物には、必死さが無い。

 その枠の中から出ない限り必死に生きる必要が無くなる。

 そして、その力を持って、柵を飛び越えたとしても…一時の解放感と引き換えに殺される。


 そう…私のように…。


 動物園というのは、社会の縮図なのだ。

 会社、あるいは組織と言う名の柵で飼われる人間も、所詮、ココと変わらない。


 その爪も、牙も、何のためのモノであったのか…いつか思い出す虎もいるのだろう。

 そこへいくとパンダは、実に前向きだ。

 自然界でも、動物園でも、好物を諦めて、誰も食べない笹を主食へ切り替えようと必死なのだから…いつかコアラのように小型化して、さらに愛玩動物としての地位を築くのかもしれない。

 200年後には、家庭でペットにパンダを飼う時代になっているのかも…。

 会社との契約期間は昨日で終わりだ。

 私は、柵を越えたというわけだ。

 後は、撃ち殺されるだけなのかもしれない…でも、その前に、自分の爪と、牙を存分に奮って自身の手で、自分が獲物を狩る存在だと、思い出さなければならない。

 パンダのように賢くはないが…。

 俺は、それでも虎でありたい。

 痩せこけて、孤独であっても…倒れるその瞬間まで…。

 爪が在る限り、牙が折れぬ限り。


 私は、まだ地元には帰れずにいた。

 コッチで仕事が入ったからだ。

 残弾は2発、まぁ1人殺するには問題ないのだが…今度の依頼は2人だ。

 弾丸の補充は問題ない、コッチで都合をつけてあるそうだ。

 受け渡し場所が動物園のコインロッカーというだけだ。

 動物園の入口に突っ立つ大きなコインロッカーの中には、レポートと弾丸が入っていた。


『イトウ・シュンジ』 『ナダチ・アキラ』

 同じ会社の総務部 『イトウ・シュンジ』は常務取締役 『ナダチ・アキラ』は総務部部長。

 両者とも銀行の出向組。

 出向させられた側が…というなら解らないでもないのだが、出向させられた側をとなると…。

 まぁ、余計な詮索はしないが…。


 レポートに目を通す。

 動物園というのは、当然だが臭い。

 なぜ、こんなところで食事をしようと思うのか、目の前で持参したお弁当を広げる家族連れを見て心の底からそう思う。


(こいつらにも、家族はいるのだろう…)

 俺は、そういう繋がりを断ち切るのだ。


 それは無慈悲な断罪。


 どちらが悪い…恨まれる奴か…恨む奴か…。

 あるいは、手を汚す奴か…。

 なんで、殺されるほどに恨まれるのだろう。


 何をしたかはしらない…。

 でも…何もしていないのに殺しを依頼されることはないはずだ。

 何をしたのかはしらない…でも…なにかしたのだ。

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