39:おばけビルを探せ! その一
自宅で
最近はネットにリンク出来る携帯電話の普及で、リアルタイムに様々な情報が貼り付けられるようになって来たのだ。
おかげで更に情報の信頼性は混沌として来ていて、内容の真偽は著しく怪しくなってはいるのだが、それだけに世間に害があると思われる情報をバッサバッサと狩りまくる当局の検閲に引っ掛かる前に、とんでもないネタが紛れ込むことすらあったりもするんだよな。
「中央都市、異変、っと」
その表示された膨大な項目を更にふるいに掛けるために検索箱のサブ機能の種類選択をチェックして判別を待つ間、頭上で戯れている蝶々さん達の気配がしたので、ちょっと新機能を試してみることにした。
パン、パン、パンと、拍子を取って手を鳴らすと、スタンドライトから登録した音楽が鳴り始め、蝶々さんは、その音楽に合わせてクルクルと舞い始める。
ふっ、案の定由美子の式の蝶が戸惑っているぞ。
式の行動能力は、主に術者の労力次第だが、短時間で適当に仕上げたこいつに上等な自己判断が出来るとも思えない。
こいつが放たれてからこっち、せっかくの一人暮らしなのに妹に監視されてる俺の鬱憤を考えれば、この程度じゃあ大した気晴しにもならんが、蝶々さんのダンスは想像したよりかわいらしかったので、一応良しとしよう。
てか、式のほうも混乱から立ち直って、蝶々さんに追随するという基本命令に従って行動様式を変えることにしたらしい。
思ったより能力が高い。
由美子よ、こいつ、どの程度の性能なんだ?お兄ちゃんはなんか怖いです。
しかも悔しいことに、この二匹、互いにクルクル回ってなんだか楽しそうに踊ってやがる。
いや、べ、別に羨ましくないぞ!
いいさ、もういい加減本題に戻るし。別に虚しさから逃げてる訳じゃないんだからな!
誰に言い訳してるんだよ、俺。
振り分けられて出て来た情報の、民間の場所で収集された『一般』のほうを読んでみる。
民間だとやっぱり
「なになに、影踏み鬼に知らない子供が混ざってる、か。これは昔からある噂の類だよな。そもそもこの遊び自体が
終天のことを考えると本能的な憎悪に支配されるのでただでさえイライラする上に、更にちまちました探索でイライラさせられるとか、どうにもやってられない気分だ。
と言っても、由美子のほうはずっと探索虫を複数放っているんだから、俺がこの程度で音を上げる訳にはいかないよなあ。
やっぱお兄ちゃんとしては頑張らないとな。
「ん? これはなんだ? おばけビル?」
それはグループチャットのタイトルらしかった。
幸いなことに
(俺俺):俺も見た!やっべ、センタービジネスビルとトーゴーの間に別のビルがある!って叫んだら、ツレはしらっとしててさ、嘘ならもっと上手くつきなよって言う訳よ、写真撮ってもうつんねえし、マジやべえって
(昼の蛍):またまたそうやって噂に便乗して都市伝説を作ろうとして、俺俺さんはふかすから信用ならない
(俺俺):ふかしてねえし、俺は確かにお調子者かもしんねーけどよ、人をだまそうとして嘘をついたりしねーよ!バーカ
(愛マイ):まあまあ、今度表でまた探索会をしませんか?目撃報告もそれなりにありますし、この件は実にうちらしいテーマですからね。
―告知―
謎々探検隊では来たる十月十八日に「表で裏を探そうぜ!第十二回集会」を行います。一般参加OK!
語られている内容はわかるが、どうもお遊び感覚だよな。
噂を調べるって、休日に仕事でもないのにこういうことをするのって何が楽しいのだろうか?
う~ん、さっぱりわからん。
世の中には変な連中がいるもんだな。
それはともかく、この噂はなんとなく気になるな。
幻覚の類は怪異の
古くからある都市伝説の一つって訳でもなさそうだし、少し、探ってみるか。
「え~っと、確か噂は『おばけビル』だったな」
改めておばけビルという単語を入れて検索箱を起動する。
時系列トップは例のチャット広場なのでそこを無視して下へと進んだ。
そうやって追って行くと、最初にこの話題が出たのは九月の頭ぐらいと判明した。
時期的にぴったりだ。ますます怪しい。
こうなったら面倒だが目撃情報をリスト化してみるか。
う~ん、マジで面倒くさい。
ぼやいても始まらないな、頑張ろう。
―― ◇◇◇ ――
結局、あれから無事リストを作り上げるまでにだいぶ時間掛けちまったんで、翌日の日中の俺は精神的疲労がMAX状態だ。
なんかこのところずっと、ハンターの仕事が本業に支障をきたしてる気がする。
いかんな、もっとしゃんとしないと。
今日は机仕事じゃない分、眠気も抑えられる。
製品とその部品のサンプルをみんなで検分しながら、俺はこっそり欠伸を噛み殺した。
ポットの本体デザインは、主な消費ターゲットの女性を意識して丸っこくなっている。うちの女性陣が可愛いだの大き過ぎるだの感想を述べていた。
絵柄は定番の花柄で無難に纏めてあったが、なんとなく全体的に野暮ったい雰囲気があるんだよな。
皆の総意を纏めると、女性が使う日用品としては重量的にちょっと重いのではないか?という結論に達した。
重心の置き方によって重さの感じ方は変わるものだが、安定性を考えれば底部に重心を置くしかない。
底部をぼってりさせている原因の絶縁体カバーをもう少し薄くするのはどうだろう? 現実的かな?
後で改善をテーマに部門会議か。
いや、先に改善案の各自提出だよな。今から考えておかないとまとめるのが大変だ。
課長がまだ顔色を悪くしてないから日程にゆとりがあるとわかる。
追い立てられることはないだろう。
女性陣はいつの間にか製品見本のスイッチを入れて水を生成してみているようだ。
なんかあっちは楽しそうでいいな。女性陣はみんなバックアップの仕事だから開発責任は無いもんな。
「木村ちゃん、これってさ、姫ダルマに似てないか?いっそもっと大きくして底にバランサー入れて起き上がりこぼし的な売りにしたらどうよ?」
「あんまりぼってりしてると使う人はお湯を注ぎ辛くないですか?」
安定の佐藤案が炸裂する。いつも突拍子もない。
「そこだよ!」
どこだよ。
「持ち上げて注ぐものだと決め付けるから発想が不自由になるんだよ。このポットは基本動かさないんだから、置いたまま注ぐことを考えるべきなんだよ」
む?なるほど、言われてみれば一理あるかも?
しかしこれにポンプを組み込むとなると、外装デザインから全部考え直しだぞ?
俺はちらりと課長を見る。
「確かに大型の既製品にはよく見る仕組みですね」
「そおそお。木村ちゃんが行けそうと思うなら二人で詰めちゃう?」
「そう、……ですね」
うん、改善案を出すのは社員としての義務だし、別に案を出すだけなんだからいいよな?
……みんなから恨まれないといいな。
結局、嫌な予感はしたものの、方向性としては面白いと思ったので、俺は佐藤と案を詰めて詳細な改善案を提出したのだった。
提出したら、たちまち課長の顔色が悪くなったのは、見なかったことにするべきだろう。
文句は佐藤に言ってください。
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