第45話 序章0 幕間

 さあさ御着席の皆さま、心の準備は宜しいでしょうか。

 いよいよ開幕の御刻限こくげんでございます。

 こうして黄昏の帝都に演者は集い、舞台の幕は切って落とされる。

 一癖も、二癖もある者ばかり。

 どいつもこいつも我が強い。


 だがそれが良い。

 それが一層、物語をいろどり、きらめかす。

 役者が良いからだ。

 さぞかしいびつな姿を演じてくれるに違いない。

 

 愛と勇気。夢と希望。正義と誠。

 ああ、何と綺麗な言葉。何と美しい響き。

 何とも素晴らし過ぎて、思わず欠伸あくびが出てしまう。

 さぞかし物語を退屈に彩ってくれるに違いない。


 臆と恨み。諦めと絶望。背信と欺瞞。

 ああ、何と醜き言葉。何と嘆かわしい響き。

 何とも愚かし過ぎて、思わず感嘆かんたんが出てしまう。

 さぞかし物語を鮮烈に彩ってくれるに違いない。


 さてさて気になる第一幕目は、彼らの黎明れいめい

 彼らが、私達が、一同に会する、とある夜。

 そしてその切欠きっかけとなる、とある事件。

 昭和の7年、皐月さつきも半ばの15日。

 そうです御存知、あの事件。


 え・・・、私も出るのか、ですって?

 それは当然。私、江戸川メフィストも一人の演者に御座います。

 舞台に立たぬ道理も無い。

 舞台に上がらぬ謂れも無い。


 では一つ、皆さま僕の歌劇を御観覧かんらんあれ。

 彼は、彼女はどうなるか。

 如何な未来をつむぐのか。

 それは幕が上がってからのお楽しみ。

 

 それではお待たせ致しました。

 今宵これより、帝国劇場の始まり、始まり・・・。

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