Cパート

 すでに消灯時間は過ぎている。


 病室のカーテンはベッドの所だけ開いていて、月灯りが差し込んでいる。降り続いていた雨は昼のうちにやみ、雲は晴れた。


 薫と牡丹は晴れた星空に浮かぶ月を眺めていた。その月は、満月を過ぎて欠け始めている。牡丹は昼間の勤務を終え、私服姿であった。


「壮大な話ね」


 一度聞いただけでは理解できなかった私は、説明を受けながら薫の話を聞いていた。たびたび壮大だと思っていたが、感想はその一言に尽きた。


「未来は誰にでもあると言います。今という現在もあるのに。自分以外の何かにとらわれながら、皆、明日は満月になろうとしている。もし、満月になったら、円満を保っていられると思ってますよね」


「……」


「満月の未来は欠ける他ないんです。俺という月と同じで。根本的に俺に満月の時はなく、初めから欠けている状態だったのに……。この子たちは俺にとらわれてしまった。どうしようもないのに」


 薫は、標本ケースを大事に持っていた。すでに白絵も標本の中に加えられている。


「白絵さんは自分の体に戻れて良かったみたいだし、こうして薫君の手の中におさまった。ということは、白絵さんや他の子たちにとって、どんな状態の薫君であっても薫君が拠り所なんだと思うよ」


「この子たちの拠り所が俺……」


 薫は首をかしげて、


「そうなのかな。仮にそうだとして、俺の拠り所はどこにあるんですかね、牡丹さん。ここが拠り所で入院しているのかな。いや、ここはとらわれているって感じだし」


 薫は薄暗い室内を見回した。


「ここを薫君の拠り所にしたらダメよ。今はいいけど、まずはお家に帰れるようにしないと」


「そ、そうですね」


 薫は手に持った標本ケースに目を落とした。


「さぁ、そろそろ寝ましょう。これ以上は体に障るわ」


 薫は標本ケースをベッド脇の台の上に置き、布団の中に入った。


「彼女たちをつかまえて来たのは薫君だし、薫君が彼女たちを求めていたのかもしれないよ」


「そうなのかな。わかりません」


 薫は半身布団から出て標本ケースの中にいる子たちを見つめた。


「この子たちと相談してみます。近いうちに」


 そう言って薫は布団に入り直した。牡丹は布団をしっかり薫にかけた。


「そう。わかった。おやすみなさい、薫君」


「おやすみなさい」


 牡丹は満ち欠けた月を見ながら静かにカーテンを閉めた。


 ――満月は次の日から欠けてしまうけど、十四日目の月には明日がある。明日という希望が……。

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