5.四匹目 屋久島るみ

Aパート

「おはよう!」


 朝、そう言ってスライド式のドアを開けて薫の病室に入って来た牡丹。


 病室のカーテンは閉まったまま。外は雨が降っていることもあり室内は暗い。


 牡丹は朝食を乗せたトレーを持ちながら、まだ寝ている薫のベッドに近づいていく。いつになく布団がきれいに整えられていることが牡丹は気になっていた。


「薫君?」


 牡丹はベッドの脇まで来て、薫が布団の中にいないとはっきりわかった。トイレに行く程度でまたすぐ戻ってくるのであれば、ホテルのベッドメイキング並みに布団を整えることはまずしないだろう。布団の中にダミーを入れて膨らます子供だましのようなこともしていない。


 牡丹は不安を抱いた。


 ベッド脇の台の上にいつも置いてある標本ケースがない。昨日、紅子がちょこんと座っていたティッシュ箱が台の上にあるだけだった。


 コレクション化しつつある標本ケースは、薫が持っていったに違いない。


 患者が勝手に病院から外に出ることはできない。院内のどこかをうろついているのだろうか。朝食の時間にうろついている人がいれば、見つけた看護師が連れて来てくれる。


 牡丹はほんの少し病室で薫を待ってみた。しかし、薫は戻ってこなかった。

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