Cパート

 牡丹は、薫の病室を訪れてからお昼を過ぎるまで、ずっと薫のそばにいた。その間、泣きながら赤星稲穂の話をした。心の奥底にたまっていたモノを全て吐き出すかのように。


 薫の話を聞いていると、夢の話ではなく過去に赤星稲穂という女の子とタッグを組んで任務をこなしていたのではないかと思えてきた。


 薫の話が昨日の出来事の延長線上であるならば、今回の話も夢の中の出来事なのだろう。しかし、薫の話では稲穂が死んでしまったことに対して、友達というよりも恋人を失ってしまったような悲しみを帯びている。


 高校生の男子が夢の中でみたことをまるで体験したかのように人前で涙をながしながら話せるのだろうか。


 牡丹は自分が高校生時代に、同級生の男子が涙ながらに話す姿などみたことはないと振り返った。やはり薫が特別な感情を持ち合わせていたのだろうか。


 牡丹は薫が落ち着くまで、ずっとそばにいた。同じ話を何度も繰り返そうとも、薫の目を見ながら頷いてあげた。


 ただ、私はそれ以上のことをしてあげられない。何か模索しても答えは出ない。


 時折、別の看護師が戻ってこない牡丹を心配して病室にやってくることがあったが、牡丹は平気だというサインを送り返していた。


 牡丹は薫の夢の話で、一つ疑問を抱いていた。朝、薫の話では稲穂のことを忘れようとしていたと言っていた。しかし、夢の最後では蝶のままの稲穂を心に住まわすことになっていた。それでも忘れようとしていたのはなぜか。まだ続きがあるということだろうか。


 結局は、薫の夢であり、心情の波にばらつきが生じていたのだろう。


 牡丹はそこまで考えて、思考を止めた。


「牡丹さん」


 落ち着いた薫が言った。


「何かな?」


「俺、いつかこの病院を出ることができたら行きたい場所があるんです」


「……どこ?」


 外国か、見たことのない世界を見てみたいというのだろうか。意外にも身近で落ち着ける場所か。大学への進学か。そんなことを思いながら牡丹は聞き返した。


「お墓参りに」


「……」


 牡丹は呆然として何も言えなかった。


「彼女を亡くしてからの三年間、一度も手を合わせに行ってあげられなかったから。というよりも、俺自身が彼女から逃げていたんです。今日、牡丹さんに話をしてわかりました。忘れようとしても意味がない。ただ苦しいだけで、ちゃんと向き合えば接し方かも変わってくるんだと思います。彼女を心の中で再認識しました。俺の心の草原で彼女は優雅に羽ばたいていました」

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