Cパート

 薫は朝食を食べている間ずっと揚羽黄柚子の話をしていた。


 牡丹は薫の表情を見ながら黙って聞いていた。


 話が終わると同時に朝食を食べ終えた。こんなに楽しそうに食事をしている姿は見たことがなかった。病院食が味気ないこともあるが、薫が自ら話をしたことに充実感を覚えたのだろうと牡丹は感じた。


「それで薫君の夢の中で捕まえた女の子がその子という訳ね」


「そうです。夢の中でこの子の心を捕まえるんだ。そして抜け殻になった体を俺のそばで見守るんです。俺の使命なんです、きっと。誰かに言われた訳ではないんですが、そんな気がしてます」


「そうなんだ。それはそれで大変ね。でもこれは薫君にしかできないことだから頑張らないとね」


 薫の見るその夢は夢なのか。彼自身が作り出した単なる妄想の世界なのではないか。その世界で捕まえたそれが証拠らしい。甚だ疑問は尽きない。しかし、ここではそう簡単に答えを出す訳にはいかない。そうでなければ、こんなところに長居する必要はない……。


 と、思う一方で、牡丹は揚羽黄柚子の気持ちがわからない訳でもなかった。特に誰にも言えない悩みという部分に関しては。それに何とかしてあげたいと思い、行動した薫の気持ちもわかる。


 でも、私は誰にも言えない悩みを持っている薫に何かしてあげられるだろうか。高校生がこんなところにずっといてはもったいない。急ぐ必要はないけれど、少しでも早く外の空気に触れてもらいたい。たくさんの刺激的なことが経験できるよ、と心の中で願うだけ。それが今、私ができることになりそうだ。


「牡丹さん。ごちそうさまでした」


「はーい」

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