4
掘り炬燵のある居間。暖房がついていて暖かい。
ミチルを前に、月影と陽向は並んで座っていた。そこに烏丸神社お手伝いのおばちゃん―沼崎奈都子がお茶を運んできた。はい、どうぞと言って、三人にお茶を出すとすぐにお勝手に戻って行った。夕方過ぎということもあり、奈都子は夕飯の支度をしていた。
月影は出されたお茶をそうっと口へ運んだ。数日ぶりに喉を潤すお茶は、月影にとって格別だった。
「二人に集まってもらったのは他でもない。泪とテラス君。これから君たちはどうしていくつもりかね?」
ミチルの言葉は真剣そのものではあったが、表情は仏を思わせる優しい笑顔だった。
「もちろん、夢見をします。さっき、泪と二人で話してました」
さきに威勢良く答えたのは陽向。
「うむ。泪はテラス君の言う通りでいいのかな?」
「えぇ。構わないわ。でも……」
「でも?」
陽向が月影に聞く。
「あくまで夢見をするのは私。君は私の指示に従ってもらう。夢絶は夢見の助手よ。勝手な行動はしないように」
月影はきつく言った。
「助手かよ? 一緒に仲良くやって行こうぜ」
「何が仲良くだ。君は思考回路が一本しかないんだから、下手すれば死んでしまうぞ」
「それはどういう意味だよ!」
「そのままよ」
月影は最後に小さく一言伝え、お茶を飲んだ。
「ふふふ……。では、決まりだな。早速、仕事に行ってもらおうか、二人とも」
「――!」
「――!」
「昨日と今日、テラス君がチラシを配ってくれたおかげで、昼間に連絡があってね。対象は高校生の女の子だ。その父親に様子を聞いたら、おそらく悪夢に取り憑かれていると思う。どうだい、行ってくれるかな?」
「もちろん、行くに決まってる!」
すかさず陽向が拳を見せて立ち上がった。月影も表情には出さなかったが、心臓が高鳴っていた。
なんだろう、このうずうずする感覚は……。ミチルさんの話を聞いている時から、陽向は笑顔を見せ高揚していた。私もそうなのか。四年もの間、夢見はしないと心に決めていたのに、今は夢見をしたくなっている。夢見をしたいのか? いや、悪夢を喰いたいのか……。
月影は残り少なくなった湯呑みの茶面を見ながら考えていた。ふと、そこに反射して見えた月影の表情に、わずかばかりの微笑みが現れていた。
「さぁ、行くぞ。準備しろ、泪!」
陽向は月影の手を取り無理矢理立たせた。
「えっ、ちょっと待ちなさい! おい、放しなさい。こら、放せ、陽向っ!」
月影は抵抗できず、陽向に引っぱられるように居間を出て行った。
「あら、もう行っちゃうの? 晩ご飯食べてから行けばいいのに……。せっかく全員そろって食べれると思ったのに」
奈都子がお勝手から顔をのぞかせた。
「大丈夫ですよ。きっと近いうちそうなりますよ。テラス君はあの泪を部屋から連れ出してくれたから。きっとここにも座ってくれるはずです」
「泪ちゃんと色々お話してみたかったわ、残念」
奈都子はミチルにそう言って、またお勝手に戻って行った。
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