1-3 魔法の国への招待

『誠に不躾な、立ち入ったことを申し上げるようで、申し訳ございません』


 そう断りの一言の後、魔導式通信機器に、気遣いの言葉が表示された。


『ケイエスさん。お疲れなのではありませんか? 初めてご自宅でお会いした時、まとっておいでの魔力に、非常に乱れがあったものですから、どうなされたのかと気になっていたのです』


 機器のモニタに表示されたその文字列に、ケイエスはふと、胸を突かれる気がした。

 今は夕食と風呂を終えて、部屋に引き返してきた頃合いである。

 ごくシンプルに整えられたケイエスの部屋は、最近導入したばかりの魔法灯で、昼間のように明るい。

 風呂上がりに魔導式通信具をチェックしたら、マルリミヤーナからの通信が入っていた。

 話に聞いた時差だと、メイダルは今頃昼時なはず。

 忙しい仕事の合間の昼休み、マルリミヤーナが気遣いの言葉を伝えてくれたのかと思うと、ケイエスの胸に暖かい灯が灯った。


『お気遣いありがとうございます。確かに、そうかも知れません。家族にも、疲れているようだと、最近よく指摘されるのです。最近忙しいのに加え、我が商会と取引していた政府の要人が先ごろ失脚し、その余波で色々ありまして』


 まさか、自分の最大の汚点など、おぞましくて打ち明けられたものではない。

 ケイエスは、どうにか一般的感性で許容できる範囲に、事実の角を削っていく。


『そうだったのですか。我がメイダルとの接触の関係で、そうしたことが起こったのだとしたら、メイダル人として誠に残念に思います』


 その言葉に、ケイエスは慌てて否定の言葉を返す。


『いえ、決してそういうことではないのです。かの人物が我が女帝陛下の鶴の一声で失脚したのは、ルゼロス王国の新しい国王陛下の親書がきっかけだったそうです。何でも向こうの王妃様に、非常な無礼を働いたそうで』


『ああ、聞いたことがあります。あの方でしたか。ケイエスさんたちはあおりを食らってしまわれたのですね。何と災難なことでしょうか……。誠に、お見舞い申し上げます』


 その暖かい言葉に癒されながら、同時にケイエスは自分で自分に刃を突き立てる。


 よく言うぜ、調子のよい嘘つき野郎。

 お前があのミーカルを悪者扱いできた義理か?

 血を分けた弟を、奴の姦計をいいことに陥れたのは、どこのどいつだ。

 少なくとも、お前はあいつと同じ程度には悪辣なんだ。

 それを弁えたらどうなんだ?


『ケイエスさん。もしよろしければ、メイダルに骨休めにいらっしゃいませんか?』


 不意に表示されたその言葉に、ケイエスは瞠目した。


『ケイエスさんのような真面目な方だと、どうしてもご実家においでの間は、お仕事のことを考えてしまわれると思います。メイダルで環境を変えて、思い切って休まれてはいかがでしょう? 我が家の別荘にもご案内いたしますよ』


 それに続けて、自分も休暇を取るつもりであるので、それに付き合ってほしい旨が記されていた。


 ――お前は、彼女みたいな清らかな人に、こんな親切にされていい人間じゃない。


 しかし、理性の声はか細かった。


『本当にお願いしてよろしいのですか? ご親切に感謝いたします。願ってもありません。実際に、メイダルには一度でいいから滞在してみたいと願っていたのです。是非、お願いいたします!!』


 話は、まるで前もって準備でもしてあったかのように、とんとん拍子で進んだ。

 マルリミヤーナが予約してくれたニレッティア発メイダル行きの飛空船の電子切符が、ケイエスの通信端末に転送されてきた。


『空港でお待ちしておりますね』


 その言葉は、神使の祝福の言葉のように暖かく。



 ◇ ◆ ◇


「じゃあ、行ってくるな、親父、お袋、ディルアド」


「いってらっしゃい。気を付けてね。ゆっくりさせていただくのよ? お土産は持ったわね?」


「せっかくの機会だ。気分を変えてくるといい。見分も広がるだろうし、いい機会だ」


「メイダルって、本当に御伽噺の国みたいに綺麗なとこなんだろ? 土産話とお土産、期待してるからな!!」


 母、父、弟に見送られたケイエスは、辻馬車に乗った。

 本来なら大荷物なのも、メイダル産の魔導具、空間歪曲バッグに詰め込んだせいで、その辺にショッピングにでも行く程度の荷物になっている。


 やがて見えてきた、帝都の城壁の外側にある空港に停泊した、大型飛空船の巨大なシルエットに、ケイエスは胸が躍った。

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