(13)

 結局のところ、ラウルは事の詳細を村人には告げなかった。

 ただ、卵を狙う不埒な輩がおり、その連中が卵を奪いに来たのだと説明するにとどまったのだ。

 とはいえ、死者の群れが村を襲った事実は変えようもない。しかしそれについては深く言及を避け、ただ二度とこのようなことが起きないよう、そしてこれからも卵を守り抜くことを告げる。

 そのことには村人も大いに賛同し、話し合いはどこか空虚な空気の流れる中終わった。

 そして戻ってくる、平穏な日々。

 冬が迫るエストに、今日もいつも通りの朝が来る。


「いいんですか、言わなくて」

「いいんだよ」

 カイトの言葉にそう答えて、机の上に雑記帳を広げるラウル。そこには、今までにもたらされた『影の神殿』に関する情報が箇条書きにされていた。

 とは言っても、彼が握っている情報はごく僅かなものだけ。シリンが持ってきた情報やゲルクの日記から割り出した情報だけだ。

 それでも、そこから何かの糸口を掴むことが出来るかもしれない。そう思って集めた情報を見直すも、そこから導き出される答えはまだなかった。圧倒的に足りないのだ。

「そう言えば、あの卵……」

 ふと雑記帳から顔を上げるラウル。

「ああ、奪われた贋物ですか?」

「あれ、ずーっとばれなかったら大笑いだよな」

「まっさかあ。そんなこと――」

 笑い飛ばそうとしたカイトは、しかしふと笑みを引っ込める。

「そう、ですね。そうしたら竜が孵るまで時間稼げますし、あいつらが変な儀式に使おうとしても、贋物なんだからうまく行くわけないし、ちょうどいいんですよね」

 そうすれば、この村が、そしてラウルが危険に晒されることもない。

 やけに神妙な顔つきのカイトを見やって、ラウルは肩をすくめてみせた。

「ま、いくらなんでもそううまくは行くわけないな。こっちが情報を得るまでの時間稼ぎになってくれりゃいいさ」

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