第168話 ◆希望の果実(その1)

◆希望の果実(その1)


「復活の神」に言われたとおり、ミキは広大な「復活の木」の果樹園の中をどんどん歩いて行く。

木々には、「復活の実」が鈴生りに実っていて、独特の甘い香りがあたり一面に漂っている。

まるでケーキ工房の中に居るようだ。


ミキはもう2日間も西に向かって歩いていた。

『もう少し西へってさぁ・・・もう少しの単位がわからなくねっ?』

記憶は無くしていても、たまに語尾を女子高生っぽく話す特徴は相変わらずである。


そして3日目の夕方。 陽が沈む方角に太陽とは違う光り輝くものが見えてきた。

それは、ミキが想像していたものとは大きさが全く違っていた。

遠くにまるで東京タワーのように、そびえ立っている。

『あれが、希望の木なの? 凄い・・夕日と同じくらい光ってる』


その木を見つけてから、根本に辿り着くまでにミキは更に2日を要した。

ミキの髪と服は「復活の神」の電撃で黒焦げのままで、しかもココまで何日も歩いて来たため、それはそれは酷い格好であったが、幸いなことに誰とも遭うことは無かった。


ミキは、もし誰かと遭ったら超格好悪いなっと思っていたのだ。

果たして、「希望の木」の高さはどのくらいなのだろうか?

幹周りなどと言う半端な表現はとても使えない。

右を見ても左を見ても壁のように永遠と続いている。


『この木になっている金色の実って・・・』

東京タワーの下から展望台を見上げるよりも更にクビを後ろに倒す。

どこまでも続く垂直の壁・・・


『これじゃ、絶対に登れないよ! 希望の木なのにこの木に登って実を見つけて食べるなんて絶望的じゃん』

ミキは、「希望の木」のあまりの大きさに絶望感を抱く。

惨めな格好のまま、ミキはその場にしゃがみ込んでしまった。

『この幹の周りをぐるりと歩いて行ったら、どこかに登れるような場所が見つかるのかしら?』

そう想ってもみるが、今は気力が無い。


はぁ~

『もう疲れちゃったな』

ミキは暫し、うつらうつらと、うたた寝をした。


グラグラグラッ

突然、地面が大きく揺れる。

「わわわっ! 地震?」

急な事態にミキは大慌てである。

突然目の前の地面がモコモコと盛り上がると中から巨大な鋏が現れた。


ドォェーーッ

ミキはちびった。 天上界で初めてちびった。

本当はちびったどころでは無かった。 ほぼ失禁状態である。

もう腰が抜けて動けない。


化け物は、鋏を左右にゆっくり大きく振りながら、続いて体の部分も地表に出てくる。

そいつは、ミキの方へ向き直ると目の前で鋏をチョキチョキさせながら喋った。

「おまえの事は、神様から聞いている。 俺が今から希望の実を取ってきてやる」

ヤシガニのような巨大な生き物は、ミキにそう言った。


「ア、アハハ・・・そ、そういう事は派手に出てくる前に言ってくれれば良かったのにさ。 でも助かるわ。 ありがとう」

ミキは自分の濡れた下半身を見ながら、ヤシガニの化け物に礼を言った。

ガッ ガシッ ガシッ

ヤシガニは凄い勢いで木に登り始めて、あっという間に見えなくなった。

20分ほどすると。

ヒューーーッ

まるで爆弾が落ちてくるような大きな音が頭の上でした。


ドッスーン

そしてミキの体をかすめて、金色の大きな実が地面にめり込む。

どわっ!


ジュン

ミキは、また少しちびったようだ。


ドッ、ドッ、ドッ

少し間を開け、こんどは巨大ヤシガニが大きな音を立て降りてきた。

ミキの前に落ちてきた金色に輝く「希望の実」の大きさは、3mはあるだろう。

その実をヤシガニは大鋏で挟むとバキンッと真っ二つにした。


「俺が神様に頼まれたのは、ここまでだ。 じゃあな」

そう言うと巨大ヤシガニは、出てきた穴から地下へと戻って行った。


目の前の「希望の実」は、「忘却の実」とは違い、ジューシーではない。

どちらかと言うとパンのようにふわふわした果肉である。

ミキは、その実を少し千切って恐る恐る食べてみた。

「お・い・し・い」

知らず知らずに涙が溢れ出す。


「ああぁ・・・」

次第にミキのからだ全体が金色に輝き始める。

パアァーーッ

一瞬強く輝いた後、からだから光りが消える。

「あっ!」

光りが消えた、その瞬間。 ミキは記憶の全てを思い出した。

「あ、あたし・・」


ミキは記憶を取り戻すや否や、迷わず東の神殿に瞬間移動した。

ちょうどそこには、イケメン神様とルナが居てミキの事について話しをしていた。

今回、神様は白い犬の姿では無かった。

もし白い犬の姿だったらソ○トバ○クのCMと間違えてしまうだろう。


「まぁ・・・」

ミキは感動の再開と思っていたが、ルナの反応がちと違う。

「あ゛っ?!」

ミキは自分の格好(黒焦げ状態+失禁)に気付き思わず赤面する。

「いや、あの、その、これには深い事情がありまして・・・」

ミキはシドロモドロである。


「それにしても酷い格好だな。 えいっ!」

ボンッ

神様が声をあげると、ミキの体も服も一瞬で元通りになった。

「ひゃ~ さっぱりしたぁ。 神様ありがとうございます」

「お母様・・ 心配してました。 よかった・・・」

ルナは、ミキをしっかり抱きしめる。


ほわ~

ミキは女神様の胸の中で幸福感に浸る。

なんだかHPがめいっぱいまで回復したような気持ちだ。

ミキは、神様に復活させてもらった後の事を掻い摘んで二人に話して聞かせた。

「断りも無く食べれば、向こうの世界でも罪に問われるだろう? ましてやココは天上界なのだぞ!」

「だって、沢山実が生っていたから・・つい・・」

「まったく呆れた女だな」

「す、すみません。 猛烈に反省しています」

「それにしても「希望の実」まで食べてしまったとは・・・」

神様は複雑な表情をしているので、ミキはすごく不安な気持ちになる。

「あの~ 「希望の実」を食べたから、記憶が甦ったんですよね」

「そのとおりだ」

「で、なんで、そんな顔をしているんですか?」

「それはだな・・・」


次回、「希望の果実(その2)」へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る