第155話 ◆ルナVS神様

◆ルナVS神様


さてルナが人間界で暮らす了解を神様に取り付けたのは、ルナの死んだ振り作戦の勝利によるものであったが、今回モデルの仕事をすることは、女神の役目を放棄することでもあるし、神様も絶対に許可するわけが無い。

それでもルナが大丈夫と言うからには、それ相応の秘策が何かあるに違いない。

「ルナ、モデルの仕事がやりたいなら、うちの事務所に話しをしてあげるよ。 でも、まずは神様の許可を取ってきてね。 でないと今度は、あたしがこの世から葬り去られちゃうからね」

ミキは真剣な顔で言う。

「でもミキちゃん。 わたしとしては、まず既成事実を作りたいの」

ルナは、そう言って微笑む。

ズキューーン

「うっ・・・」

どうやら、女神が微笑むと目に見えない何かが放出されるらしい。

それをまともに浴びてしまうと敵(女神)の思う壺にはまってしまう。

でも、もう遅い。 ミキはたった今、一発食らってしまった。


「わ、わかった。 美奈子マネージャ経由でモデル部門の担当に口を利いてもらうよ」

「わ~い。 ミキちゃん。 ありがとう」

そう言ってルナはミキに抱きつく。

ドキューーン

「わわわっ、こりゃマジでヤバイ! 娘に惚れてしまいそうだ~」

女神様パワーに、ミキは翻弄される。

普通なら女神様に願いを叶えてもらうのが本当なのだろうが、何やら今回はルナの怪しい力のせいで、女神様の願いをミキが叶えることになった。

それともまたミキも女神へと進化しているのだろうか・・・


その数日後・・・

ルナは、ミキと共にモデル部門担当マネージャの浅野氏と面談していた。

「この娘は、あたしの知り合い(神様)の娘なの」

ミキは、ウソにならないように、且つ自分の娘であると言うことを隠しながら浅野にルナを紹介する。

「ルナと言います。 よろしくお願いします」

ルナは深々と一礼し、それから浅野を見てにっこり微笑む。


ズキューン

浅野は、即死状態であった。

もろにルナの微笑んだところを見詰めてしまったからだ。

だが、面接なのだから相手を見ないと仕方がない。

で、浅野の次の一言は、当然「合格」であった。

「さっそく契約書を作るんで、ちょっと待っててください」

そう言って立ち上がろうとする浅野をミキが引き止める。


「あっと、浅野さん。 この娘は、契約はしないよ!」

「えっ、どういう事ですか?」

当然、浅野は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「つまり、うちとは専属契約をしないって事よ!」

「うちは仲介ですか?」

「そういう事」

「それじゃ本契約は、いったいどこの事務所なんです?」

「ふんっ」

ミキは自分の人差し指で自分の顔を指差す。

浅野は再び”きょとん”である。


「つまり、この娘は知り合いの娘ムスメなんで、あたしが元受マネージャって事よ、浅野さん。 でも、本業も忙しいから、うちの事務所にスケジュール調整を頼むって事。 誰か良い担当を付けていただけます?」

「あっ、それでしたら、私が付きます」

浅野は即答する。

「あ゛ーーー、それはダメだわ。 浅野さん」

ミキも即答で返す。


「やっぱりダメですかね・・・」

「あったりまえじゃない! 担当は絶対にしっかりした女性のマネージャじゃないとね」

芸能界の裏事情を良く知るミキは、ガードが固いのだ。

女性と言う部分を特に強調する。

「それから、もう一つ。 仕事の承諾決定権は、あたしにある!」

ミキは強気で交渉を進めていく。


「そ、そんな・・・それじゃスケジュール入れられませんよ!」

浅野の泣きが入る。

「だって携帯って便利な物があるじゃん! 嫌なら他をあたるからいいや!」

「わ、わかりました。 OKです。 それでも結構です」

女神にハートを射抜かれてしまうと本当に怖い。

こうして、ルナは念願のモデルとしての仕事をスタートさせたのだった。

・・・

・・


翌日、朝も早よから浅野氏からメールが入った。

『ルナさんのマネージャの件ですが、三崎さんでどうでしょうか?』

「三崎さん・・・ あぁ、あのメガネかけた小柄な人か」

ミキは、事務所でテキパキ仕事をしているところを何度か見ていたのでOKを出す。

そして、その日のお昼過ぎ、三崎マネージャからミキに早速電話がかかってきた。

『もしもし、三崎ですが』

「どうも、娘・・じゃ無かった。 この度は、知り合いの娘がお世話になります」

『あの、早速なんですが、来月オープン予定のショッピングモールのポスターのモデルの話しが来ていますが、ルナさんにどうでしょう』

「ショッピングモールって、横浜郊外にできるやつ?」

『そうです。 それのイメージポスターのモデルです』

「それって、写真だけ?」

『いいえ。 オープニングセール期間は、会場のイベントの仕事もあります』

「期間はどのくらい?」

『3日間です』

「う~ん。 まっ、いいでしょう! よろしくお願いします」

こんなやり取りで、ルナには念願の初仕事が入った。

こういう事は、やはりプロに任せるに限るとミキは改めて思った。

       ★

一方こちらは天上界。


神様はイケメン姿が気に入ったのか、相変わらずそのままの姿で居た。

普段、神様がどんな任を負っているのかは、わからないが、ここのところ超多忙であり、ルナの事などに構っていられなかったのは確かなようであった。

今日は、たまたま他の神様と雑談する機会があり、その時に自分の娘が地上界で女神の仕事を放棄し、人間がするような下賤な仕事をしていると言われたのだった。

神様はルナが地上界に行く事自体は、自分が許可してしまったので仕方が無いが、女神としての責務まで放棄して良いとは言っていない。

神様はルナをどうにか天上界に連れ戻す良いアイデアが無いかを考え始めていた。


娘は自分に似て、なかなか賢い。

上手い策を練った上で対処せねば、また、この間の二の舞になってしまうだろう。

男は口では女に絶対敵わないのだ。

何しろこちらが一言ひとこと言ううちに3~5倍も言い返されてしまう。

これでは、マシンガンにピストルで立ち向かうようなものである。


なかなか良いアイデアが出ないうちに3日が過ぎ、仕方が無いので神様は、敵情視察に出かけることにした。

大沢家は高層ビルの最上階にあるため、神様は烏カラスに化けマンションのルーフバルコニーに降り立った。

リビングの窓ガラスまで、ピョンピョンと鳥特有の歩き方で接近する。

窓越しにそっと覗くが、そこにはルナの姿は見えなかった。

そこで、神様カラスは東側のルナの部屋のバルコニーへ飛んで行き、手摺の上に止まったが、その部屋にもルナの姿は無かった。


モデルとか言う仕事をするために、どこかに出かけているのだろうか。

忌々しげに思いながら、ふと目線を下に下ろすと、バルコニーの床にルナの写真が落ちている。

写真は、ショッピングモールのポスター用に撮影されたものだった。

その写真に写っているルナは女神の微笑みを浮かべている。

ズキュウーーン

神様カラスは、写真を見てクラリとした。

次の瞬間バルコニーの床にポテリと音を立てて転がり落ちる。

そう、失神したのだ。

おそらくカラスのような小動物に化けたため、衝撃に体が耐えられなかったのだろう。

「やった♪ ミキちゃん、捕まえたわ♪」

ルナが嬉しそうにカラスを両手で包み込みミキの目線まで持ち上げる。

「ほんとだ! こいつ意外と間抜けだね」

カーテンの後ろに隠れていたミキも、カラスを覗き込みながら少々呆れた顔をしている。

「それじゃ、女神特性の鳥籠に入れておきましょう。 そのうち気が付いて驚くわ。 うふふ、楽しみ・・・」

そう、女達は残酷でもある。

ついでにルナは、してやったりと言う顔でミキにウインクする。

ズキューーン

女神様のウインクも相当にキュートで、ウインク+微笑でミキの胸には大きな風穴が開いたようだ。



次回、「神様と取引」へ続く

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