第149話 ◆鋭二の気持ち(その3)

◆鋭二の気持ち(その3)


鋭二は、ミキから聞いたツツジ祭りが開かれていた近くの公園に向かっていた。

『ミキの話しだと、ここの公園に向かう途中で事故に遭ったんだな。 ここで撥ねられて、あそこの家の庭まで飛ばされた・・・ その後、○○総合病院で手術を受けて、本当なら半日後に死亡・・・』

鋭二は想像してみて、はっきりわかった。 ミキが生きていてくれて良かったと。

もし、ミキを失うようなことになったら、自分の人生の生きがいをも失ってしまったことだろう!

鋭二は、気持ちの整理がつくと家うちへの道のりをゆっくりと歩きだした。

      ★

一方こちらは、大沢家のダイニング。

ミキは、あまり食欲が無いので、今日はお茶碗に2杯しかご飯が食べられない。

はぁ~

「やっぱり、怒ってるんだろうなぁ・・・」

『お、お母様・・・』

「大丈夫だよ。 ゆっくり時間をかけて、きっとわかってもらうから」

『これ、凄くおいしいです。 なんて言う食べ物なんですか?』

「ま、また、そっちかい!  それはね、春巻きだよ」

『まぁ・・素敵な名前の食べ物ですね』

「うん、うん。 そりゃ、よかったね。 ところでルナ。 人間と話す時は声を出して話さないとダメだよ」

「あっ、そうでした。 すみません」

「それにしても、あなたの声は透明感があって綺麗な声だね。 聞いてるだけで、うっとりするよ」

「そうですか?」

「うん。 歌でも歌ったら、きっと凄いことになるねぇ・・・」

「歌ですか?」

「そう、容姿もバツグンだし! 売り出したらすっごいスターになると思うよ」

「それって、面白いんですか?」

「う・・ 人によりけりかな。 楽しいと思う人もいれば、ハードスケジュールで、くたくたになってる人もいるよ」

「まぁ・・・」


カチャ

玄関のオートロックが外れる。

どうやら鋭二が戻って来たようだ。

「お、お帰りなさい」

「ただいま」

鋭二は、ジャケットを脱がせ、ハンガーにかけようとしているミキを抱きしめる。

「あっ・・」

「ミキ・・ごめん。 頭を冷やして良く考えてみたんだ。 どんなことがあっったって、君が生きていてくれてよかったと思ってるよ」

「え、鋭二さん・・ ありがとう。 嬉しい」

それを見ていたルナの体が一瞬明るく輝く。

その光りを体に受けたミキと鋭二は、幸福感に満たされるのであった。

・・・

・・


その夜、鋭二とミキはベッドの中で話しあっていた。

「ミキ。 それで、あの娘はどうするつもりなんだ?」

「あたしとしては、本人の気持ちを優先させたい」

「って事は? うちに引き取るって事?」

「そうなるかな・・」

「で、皆にはどこまで話すの?」

「皆って?」

「両親やエミちゃん、アヤちゃん、美奈子さん、清水さんなんか・・・」

「そうだねぇ。 別にあえて娘だって言う必要性は当面無いと思うな」

「でも、あの娘は、ミキの事をお母様って呼んでるし」

「そうなんだ。 問題はそこなんだけど・・・ 女神様はウソをついちゃいけないんだよ・・・困ったなぁ・・・」

「養女って言うのも無理があるしなぁ」

「う~ん。 鋭二さん。 今はあんまり深く考えるのはやめよう。 あたしは、ケセラ、セラで行く」

「オッケイ。 わかった。 それじゃ、いつものミキ流で行くかっ!」

さて、こうして女神ルナは、母親のミキと同居生活を始めたのであった。


次回、「ミキ、親権で神様と揉める」へ続く

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