第147話 ◆鋭二の気持ち(その1)

◆鋭二の気持ち(その1)


「だ、だれだ? アンタ?」

「きゃっ」


いきなりリビングに出現したルナに、ソファで新聞を読んでいた鋭二は驚いた。

おまけに目の前に現れたのは、この世のものとは思えないくらいの美人だ。

ルナはミキとの話しで、ミキには人間の夫がいるという事を聞かされていたため、目の前にいる男は自分の母親の夫に間違いないと思った。

再婚したのなら、義理の父親になるのだろうが、今の状況では不倫で生まれた子供であり、目の前の男から見たら自分からはとても名乗ることなどできない存在である。


「あの、あたし・・・」

当然その後が続かない。

「も、もしかして、陽子さんか千織ちゃんの友達?・・ですか?」

目の前に突然現れたルナに鋭二は、ある程度推理した結果で訊ねる。

鋭二もまた、ミキの性転換や高嶋教授のクローン、兄が作った高性能ロボットの未来ミク、地縛霊の千織、霊媒師の陽子など、普通の生活では到底経験する事など無いことをここ数年の間に、いろいろ体験してきたため、少々の事では驚かないつもりでいた。


「えっ、あの~」

ルナの方は突然、陽子とか千織とか言われても何のことか、わからない。

「まぁ、とにかく立っていても、なんなんで、どうぞそこのソファにかけてください」

鋭二は、とにかく相手が実体のある者なので、少し安心して対応する。

「は、はい」

ルナは、部屋の中をくるっと見回すが、ミキの姿は無かった。


実はミキは、鋭二が休みの日は、仕事をエミとアヤに頼んでいる。

そして今は、清水さんと近くのショッピングセンターへ夕飯の買い物に出かけていたのだった。

鋭二は目の前の美人をしげしげと見て、何故かどこかで見たような気がしていた。

『おかしいな・・・こんな綺麗な娘だったら忘れるはずな無いんだけどな』

そう、鋭二は職業柄、人の顔は一度見たら忘れた事が無かった。


『そっか、目元がどことなくミキに似てるんだ』

ギクッーーー

『やだ、この人・・勘が鋭いかも』

鋭二の心の中を読んでいたルナは、目の前の男が自分が母親に似ていることに気が付いた事にひやっとする。


「あの、実はわたし、ミキさんの・・・」

女神はウソをついてはいけないのだ。

「ああ、ミキのお友達ですか。 ミキならもう少ししたら帰ってくると思いますよ。 よろしければ、ここでお待ちいただいても構いませんよ」

さすがの鋭二も、”実はわたし、ミキさんの娘なんです”と続くとは想ってもみない。

「は・・はい。 それじゃ失礼して、待たせていただきます」

自分の気配は消しているが、こうしている間もルナは、父親が突然現れないかビクビクしている。


でも今は、この男がいるから不用意にこの場に移動してくる可能性は低いはずだ。

「あの・・以前どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」

鋭二は、目の前の娘の事が、なんだかとても気になっている。

びくっ

「いいえ、初めてお会いしますけど」

ルナは、なんだか居心地が悪い。

「そうですよね。 あっ、なにか飲み物をお持ちしましょうね」

「あっ・・・」

『飲み物じゃなくて、何か食べ物を・・・』←ルナの素直な気持ち


鋭二はキッチンから、オレンジジュースをグラスに注ぎ持って来た。

ルナは、ちょっとガッカリした。

グゥゥゥーー

ガッカリした途端、お腹の虫が不満爆発、大暴れである。

「や、やだ。 わたしったら。 すみません。 恥ずかしいわ」

やはりミキのDNAは女神様向きではない!


「ああ、気にしないで。 ミキ達が帰ってきたら早めに夕飯にしますのでご一緒にどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

そうルナが言い終った途端。

カチャッ

ロックが外れ、玄関のドアが開く。

「ただいまー」

「あっ、お帰りー」

ミキが食材をキッチンに置くとリビングに歩いてきた。

キッチンでは清水さんが買ってきたものを冷蔵庫に入れている。


ミキがリビングに入ると、ソファに座っている女性の後姿が目に入る。

『あれっ? 玄関に女性物のクツなんてあったかな?』

「鋭二さん、お客さんだったんだ?」

「何言ってんだよ。 この人はミキのお友達だろ」

「えっ? あたしの・・?」

ミキは、ソファの前に回り、その娘の顔を見ると大きな声を上げた。

「ああーーーっ、あなたは!」

「うふふ。 お母さん、すみません。 わたし、家出してこっちに来ちゃった」

「お、お母さんって・・・」

鋭二は、二人の顔を見比べて、何だか嫌な予感がしたのであった。


次回、「鋭二の気持ち(その2)」へ続く

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